テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
静かな夕方の光が、窓辺に淡く差し込む。ドアが控えめにノックされ、椅子に座ったまま「どうぞ」と声をかけると、背の高い男子生徒が一歩だけ中へ入ってきた。
「こんにちは……。あの、友だちとの距離感について、ちょっと聞いてほしくて」
彼は鞄を抱えたまま、どこか落ち着かない様子で視線を泳がせる。
日下部
「距離感、か。たとえばどんなことで迷ってる?」
生徒
「仲がいい友だちがいるんですけど……一緒にいて楽しいのに、ふと『自分、踏み込みすぎてないかな』って心配になるんです。
相手がどう思ってるか分からないとき、怖くて」
日下部
「相手との心の温度が読めないとき、だな。
近づきすぎれば重くなるかもしれない、でも離れすぎると寂しい。
その揺れは、ちゃんと相手を大切に思ってる証拠だと思うよ」
生徒
「……大切に思ってるからこそ、怖くなる、か」
日下部
「そう。大切だからこそ、境界線を探そうとする。
その“探している”時間も、友だちと関係を築くプロセスの一部。
相手が自分のペースを話してくれる時もあるし、
自分のほうから『ちょっと不安だった』って小さく伝えてみるのもいい」
生徒
「……話してもいいんですね」
日下部
「ああ。むしろ言葉にしたほうが、相手も安心することが多い。
『ここまで近づいても大丈夫なんだ』って、二人で確かめ合えるから」
生徒は小さく笑い、張りつめた肩の力を抜いた。
日下部
「友人関係の距離って、一定じゃない。
季節や気持ちの波で変わっていく。
だから“正しい距離”を一度決めてしまうより、
その都度お互いに問い直せばいい。
その柔らかさが、友情を長く続ける鍵になるはず。」
窓の外、夕焼けの色が少し濃くなった。
生徒は「話してよかった」と小さく呟き、安心した顔で部屋を後にした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!