テラーノベル
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放課後の教室は静まり返っていた。窓の外の風がカーテンを揺らす音だけが響く。
「……入っていいですか」
ドアを押して入ってきたのは、二年の女子生徒だった。
少し戸惑いながら椅子に腰を下ろす。
「で、どうした」
日下部は淡々と椅子にもたれ、手にしていたペンをくるくる回す。
「……私、なんか、認めてもらいたくて……」
声が小さく、言葉に力がない。
「……認めてもらいたい?」
「うん。勉強でも、部活でも、なんでもいいから“すごいね”って言われたいんです。でも、言われても一瞬だけで、すぐに不安になっちゃう」
日下部は目を細めて、静かに聞く。
「……言われたことが足りない、ってことか?」
女子はうなずく。
「だって、褒めてもらっても、“次はちゃんとできるかな”って思っちゃうんです。私、ちゃんとできてるのかなって」
日下部は少し肩をすくめる。
「……誰でもそうだろ。褒められたって、不安になるときはなる。俺だってそうだ」
「でも、なんで私はこんなに欲しがっちゃうんだろう……」
「それはおまえが、自分を全部肯定できる前に、人に認めてもらうことで安心しようとしてるからだろ」
女子は小さく息をつき、視線を落とす。
「……そうかもしれません」
「でも、悪いことじゃねぇよ」
日下部は少しだけ肩を揺らして、椅子にもたれたまま言った。
「認めてもらいたいって気持ちがあるなら、それだけ頑張れるってことでもあるんだろ。全部人に任せるなって話じゃなくて、まずおまえが自分を認める部分を作ることも大事だと思う」
彼女は少し考え込むように黙った後、口元に小さく笑みを浮かべた。
「……なんだか、ちょっとだけ考えられそうです」
「考えられるだけで十分だろ」
夕日の光が教室の机に反射して、二人の影を少しだけ長く伸ばしていた。
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