テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝、透羽市にはまだ妙な静けさが残っていた。
箱庭座の前から黒い車は消えたが、昨日までの出来事が夢だったわけではない。名刺で弱みを抜かれた人も、噂で傷つけられた店も、そのまま朝を迎えている。
サペたちは勝ったあとにこそ、やることがあると知っていた。
まず向かったのは、噂で客を失った飲み物屋だった。
キオノフが深く頭を下げる。
「守るって言っといて、遅くなった」
店主は少し困ったように笑った。
「来てくれただけで、昨日よりましだよ」
マイナは回収した資料のうち、その店に関する頁をその場で見せた。どんな言葉で不安をあおられ、どの順番で店を手放させようとしたのか。相手のやり口が形になると、店主の肩から少しだけ力が抜けた。
「私が悪かったのかと思ってた」
「悪くない」
サペははっきり言う。
「悩んだのを、利用されたんだ」
その言葉を、次の店でも、その次の家でも繰り返した。
ローレリーズは洋菓子店の前で腕を組み、謝りに来た若い店主へ先に焼き菓子を渡した。
「謝るなら腹減ってない時にしな。泣きながらだと、言葉がしぼむから」
厳しいのに、妙にやさしい。
そのせいで若い店主は余計に泣いた。
午後、サペたちは公園へ戻る。
黒幕を外した舞台は、傷だらけの板をさらしていた。
エリアがその傷を指先でなぞる。
「勝った、で終わりなら、ここも置き去りだね」
「うん」
サペはうなずく。
「ここからだ」
舞台の隅で、片目のないからくり人形が黙っていた。
直すべきなのは、木とねじだけじゃない。
町の中に残った言いそこねた言葉も、返しそびれた礼も、これから一つずつ戻していくのだと、サペはやっと正面から思えた。
#勧善懲悪
#勧善懲悪