僕は他の獣人や亜人種と変わらずこの王国においては被差別種である。
そしてその大半は貧民街で抑圧され生きるけど、一部は奴隷として貴族たちのもとで働かされる。その内容は多岐にわたるが、男子に生まれた僕にとって、その環境は地獄だった。
バレッタがそう言うように、僕は世間から見て“可愛い”らしい。
女子であればそういう目を向けられ、そういう扱いをされたとして承服出来なくとも納得は出来たかもしれない。
だけど、男として自覚のある僕には耐え難い屈辱でしかない。女子ならいいのかという訳じゃないけれど、僕の家系はことさら誇りを大事にして受け継いできた家で、その内心は他の誰にも測れるものじゃないと断言できる。
だけど、誇りは僕を助けはしなかった。
抵抗し、暴れて、力づくで鎮圧されるたびに自分の非力さを呪った。
頭の先から足の先まで綺麗なところなんてもうどこにもない。己の誇りを、尊厳を守れぬのならいっそ死ぬかと何度も思った。
だけど、死ぬことさえも許可されなければ出来ないように魔術で縛られたのだ。
なのに暴れることは出来る。殴ってもペナルティもない。普通の奴隷に課す魔術とは違う。それを魔術のミスと逆手にとり暴れた、暴れに暴れて抑えつけられる。力づくで。
だけれど、それはつまり暴れる小僧を痛めつけて無様に転がすという事すらそいつの征服欲というもののはけ口だと気づいた時、もはや抵抗もしなくなった。
暴れなくなって従順になればなるほど、僕で遊んだ貴族は興味を失くした。
抵抗しない、身体を差し出すだけの人形。可愛い可愛い男の子はその貴族に飽きられて物置に放り込まれていた。
使用人たちも僕をすぐにはどうもしなかった。またいつか気が変わって呼びつけるか分からないからと、手当てをして、身綺麗にしておき──順番に犯してきた。
月明かりだけが僕を照らし出す。ここのところは床に転がったまま、座ることさえしたくない。死ねない、死なせてくれない。
食べ物は無理やり流し込まれる。それも出来なければ何かを腕に打ち込まれた。それも魔道具らしくなんでも栄養を強制的に摂らせるものだとか。
月明かりが優しい。それがフッと遮られたかと思うと
「ついてこい。終わらせてやる」
1人しか居ないはずの部屋に、黒いコートの男が僕を見下ろしていた。
普通なら恐れを抱いただろうその男に僕は
「殺してくれるのかい?」
そう静かに懇願した。
そこからは忘れることも出来ない。
ドアを開け放った男は、足元から黒色を広げていった。
屋敷の異変に気づいた者たちの声があちこちから聞こえる。
僕は男の腕の中に抱えられている。
出会い頭に男は兵士を平手打ちにして、首から上を掌の形にくり抜いてしまった。
残った胴体を蹴飛ばし「不審者めっ!」と駆け寄る連中を悉く蹂躙して回った。
飛び散る血潮、弾ける肉片。廊下のシミになるひと、ひと、ひと。気づけば僕はその男の人の腕の中で嗤っていた。
やがてひとつの扉の前に着いたことに気づいて、僕は身を硬くする。
けれどその内側には燃えたぎる炎がある。
「やるか? やりたいなら力をくれてやる」
男の言葉に僕は迷うことなく頷いた。
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