テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
168
177
コメント
1件
みぅです、読みました🥀 第27話、アルカナ視点だからこそ見える叶糸との距離感の変化がたまらなかったです。「待ち合わせ」っていう体(てい)に照れてる二人が可愛すぎて、思わずにやにやしちゃいました。龍の獣人姿で恋人繋ぎしてきて、しかも「閉じ込めたい」発言…叶糸くんの執着、結構重めで来てますね?!(笑) アルカナがむず痒そうにしてるのも、逆に新鮮で好きです。次が気になる…!
南風の邸宅に剣家御一行が異議申し立てと新たな婚約者の提案をしてきやがった日以降、アルサとサリアの二人から、私はミッションを与えられた。
『叶糸君と仲睦まじくしているシーンを、多くの者達に目撃されておいてね』というものだ。
叶糸が大学の構内でマーモットのぬいぐるみと戯れている様子は度々誰かしらの目に留まってはいるが、よくよく考えると、確かに『南風アルカナ』と『剣叶糸』が二人で居るシーンを目撃されているのは星澤家の夜会くらいなものだ。身分差の恋が故に『噂』だけは一人歩きして知名度を得ているが、このままでは信憑性に欠けるのだろう。
——という訳で、本日は早速叶糸と大学の正門付近で待ち合わせをしてみた。同世代のカップルという体なのだから通学路も一緒に、と私としてはそう考えたのだが、双方とも『貴族』なので、逆に違和感しかないとアルサ達に指摘され、構内での合流となった。
基本的に爵位の高い貴族令嬢が外に出る時は護衛を連れて、となる。政敵の思惑や身代金目的の誘拐の危険が高いためだ。私も叶糸も警護なんか必要ないくらいには有能である自信はあるが、一応は『深層の貴族令嬢』で『高位貴族』ともなると、実際の腕っぷしがどうであれ人様の目があるので『お好きにどうぞ』とはいかないらしい。
(とは言っても、私は叶糸の家に居候している身だから、ギリギリまでは一緒だったのだけどもな)
婚約がきちんと成立するまでは義家から出られないため、叶糸はまだ剣家の敷地内にあるプレハブ小屋のような家から大学に通っている。そんな彼を一人にはしたくないので、私も今まで通りそこで生活しているのだが、最近では敢えて剣家の義家族の前でマーモットな私を晒している。
偏に『希少なマーモットをプレゼントされるくらいに、南風アルカナ令嬢とは良好な関係を築けていますよ』というアピールの為だ。
この程度でアイツ等の慢心と欲望が止まる気はしないが、叶糸が『私』を抱っこしている時には剣家の一同が彼に手出しをしてこない。『生き物』だし、何よりも『南風侯爵家』からの『贈り物』に害を与えるのは得策じゃないからだろう。所詮は『虎の威を借る狐』状態に近いが、効果はちゃんとあるので、このままでいこうと思う。
(『南風アルカナ』がマーモットを抱っこしていたのをアヤツ等も見ているので、本物の『贈り物』であることもすぐに理解したしな)
実際には、南風家側からも『親愛の証に妹がマーモットを贈った』と連絡してくれた効果の方が大きそうだが。
(……んにしても、『贈られた』という体になっている日から数日間は、勝手に三義兄弟達が叶糸の家に入って来て、『俺に懐かせれば、あの令嬢も一発で落ちるんだがなぁ』と言いながら『マーモット』を必死に探していたと知った時は気味が悪かったなぁ……)
常に叶糸と行動を共にしている私だが、家の警護も兼ねて部屋に居て貰っていた蝙蝠の使い魔(アルサ達から譲ってもらった優秀な子達で、あの子等が見た情報は全てこっちにデータとして送られてくるという優れ者だ。魔法と科学の融合技術には『管理者』な私でも、もうついていけない……)のおかげで知ることが出来た情報だ。あの子等を配備しておいて本当に良かった。
(まぁ、もし一人で留守番をしていたとしても、あんな奴らでは、隠れる『私』を見ることすら出来ずに終わっただろうけどな)
思い出し、一人でふふんっと笑っていると、不意に「——ごめん、待たせたかな」と声を掛けられた。もちろん声の主は叶糸である。マーモットの姿でギリギリまで叶糸と一緒に登校し、五分ほど前に一度別れたばかりなので『待った』も何も無いのだが、私達は今、『待ち合わせ』という体で正門付近に居たのだから、これが正解なのだろう。
「ううん。私も今来たところだ」
『龍の獣人』の姿で鉄板の返事をしたが、内心むず痒い。妙に照れてしまう。演技力がある方でもないので顔もちょっと熱くなり、変に口元が緩んでしまいそうだ。
「「……」」
叶糸もそうだったらしく、少し顔を逸らして口元を手で隠している。『愛い奴めっ!』と心の中だけで全力で叫び、気持ちを切り替えつつ貴族令嬢っぽく微笑むと、彼の方にそっと手袋をしている手を差し出してみた。エスコートを頼むような雰囲気で向けた手だったのだが、叶糸の方はそうとは受け取らず、指を絡ませ、いわゆる『恋人繋ぎ』をしてきた。そして真横に並び、嬉しそうに私の方へ視線を向けてくる。
(——んんんっ!!眼福とはまさにこの事だな!)
クワッと目を見開いてしまった。実に怪しい行動になってしまったが、『令嬢』らしく鍔の大きな帽子を被っていたおかげで周囲にはバレずに済んだみたいだ。
「えっと、行き先は構内のカフェでいいかな?」
「あぁ、そうだな。アルサ達の口ぶりだと、より人目が多い方が良いみたいだったし。図書館だと、この大学の生徒達は自分の研究や資料探しに熱中していて、こっちには興味を持たないだろうからな」
「……」
「どうかしたのか?」
返事がないことを不思議に思いながら顔を上げると、「——いや」と叶糸が緩めに顔を振り、言葉を続けた。
「その姿のアルカナも、可愛いなぁと思って」
見目はコレでも、中身はすっかり枯れ果てている者を相手にそんな言葉を平気で言える叶糸の精神構造に驚きつつ、くっ口を引き絞る。つい目付きまで険しくなってしまったが、「……そ、そうか」と辛うじて返した声には、少しだけ嬉しさが混じってしまっていた気がする。
「……どこかに閉じ込めて、もう誰の目にも触れられないように出来たらいいのにな」と続いた彼の言葉は、聞こえなかったものとした。