テラーノベル
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官邸・正面ゲート前。
ラッセルは、官邸の巨大な警護門へと歩み寄った。
直後、鋭い声が飛ぶ。
「止まれ!」
複数の治安部隊兵が銃を構え、一斉に彼を取り囲んだ。
「ラッセル大佐。これ以上の接近は認められておりません」
冷ややかな声に、ラッセルは眉をひそめる。
「どういうことだ。
私は緊急の用件でリヴァン首相に面会しなければならない。通してくれ」
「申し訳ありません。
上層部の命令により、あなたの入館資格は停止されています」
兵士たちの間に緊張が走る。
銃口は微動だにせず、わずかな物音さえ憚られる重苦しい空気が周囲を包んだ。
そのとき――
「私が対応する」
低く落ち着いた声が静寂を切り裂いた。
兵士たちが道を開く。
その奥から姿を現したのは、官邸警備長・カーン元中佐だった。
「カーン……」
ラッセルはかつて幾度となく戦場を共に駆け抜けた友の姿に一瞬だけ安堵がよぎるが、
すぐに険しい表情へ戻る。
「私は急を要する任務でここへ来た。
スメラは生きている。そして今、この首相官邸で重大な陰謀が進行している!」
「……陰謀だと?」
カーンは眉一つ動かさなかった。
その瞳は静かな湖面のように揺らぎなく、
感情を読み取ることはできない。
「私は長年、首相リヴァンの傍らで警備を務めてきた。
その忠誠も働きぶりも、この目で見てきた。ラッセル、君も知っているはずだ」
「表向きはだ。だが、その裏で何が動いているか。君は知らないはずだ!」
ラッセルは剣の柄を握りしめた。
カーンはわずかに視線を伏せ、そして低く告げる。
「ラッセル……いや、今は“国家反逆者”。リヴァン首相の命令だ。
生け捕りにせよ。抵抗すれば撃ち殺せと。……」
カーンは銃を構え、
赤い照準レーザーがラッセルの額を射抜くが指も震え、
わずかに迷いが走った。
「ラッセル、なぜだ!……なぜ裏切った!」
カーンの声が震えた。
「幼い頃から、君と切磋琢磨してきた。
初任務の魔物討伐で、俺は君の背に憧れた。
ラッセルの剣は国を護る剣だと信じてきた……なのに!」
揺れる心を映すように、照準レーダーが不規則に震える。
ラッセルは深く息を吐き、静かに目を閉じる。
「裏切ったのは……リヴァンだ。俺じゃない。
スメラは命を懸けて、闇の奥から真実を掴み取ったんだ。
君だって感じているはずだ。リヴァンの異常さを」
「黙れ!」
カーンの怒声が響く。
「スメラは国家機密を盗んだ裏切り者だ! 魔物に殺されたのは、その報いだ!」
カーンの指が引き金にかかる。
だが、ラッセルは一歩も退かなかった。
「お前は撃てない!」
鋭い声が官邸前に響き渡る。
「お前はまだ、人を信じる心を捨てちゃいない!」
次の瞬間――
ラッセルの剣が翠色の光を放った。
太刀袋から一瞬で剣を抜き放ち、そのまま横薙ぎに振るう。
「翠刃旋光――!」
轟音とともに風が唸りを上げた。
生み出された烈風は兵士たちを一斉に薙ぎ払い、
悲鳴さえ掻き消しながら宙へと吹き飛ばす。
続けざまの二撃目。
渦巻く風はカーンの身体をも巻き込み、
高く空中へと浮かび上がらせた。
「なっ――!」
驚愕に目を見開くカーン。
その身体は無防備なまま落下していく。
だが、
地面に叩きつけられる寸前。
ラッセルは一気に踏み込み、その身体を両腕で受け止めた。
衝撃を殺しながら静かに着地すると、気絶したカーンを地面へそっと横たえる。
「……すまない」
ラッセルは小さく呟き、懐から一本のエルフエナジードリンクを取り出して傍らに置いた。
そのときだった。
ラッセルの胸ポケットから、一通の封筒が滑り落ちる。
表にはラッセルの名。
スメラの手紙だった。
ラッセルはそれを拾い上げ、カザンから託された万年筆を取り出し、余白に短い言葉を書き添えた。
そして再び、カーンの手に握らせる。
「この手紙が、お前の心を縛る鎖を断ち切ってくれるはずだ」
祈るようにそう呟く。
やがてラッセルは立ち上がり、官邸へと視線を向けた。
隣の旧庁舎で燃え上がる炎が、その背中を赤く照らし出す。
もはや迷いはなかった。
その背中には、真実を暴くという揺るぎない決意だけが宿っていた。
カーンは重いまぶたをゆっくりと開けた。
頬に残る冷たい夜風と、耳に届く遠雷のような轟音。
未だ燃え盛る旧庁舎の炎が、エルフ・バリアの夜空を赤く染めていた。
かすかな光に照らされ、手の中に握られていたものに気づいた。
スメラがラッセルに宛てた手紙の余白に、見慣れた筆跡で短く力強い言葉が記されていた。
ーーーーーーーーーーーー
カーン。俺たちは皆、同じ誓いを抱いてここまで来た。
カーンの忠誠心は、人を救える力がある。
国民を護るために、俺たち四人の誓いを護るために。
カーン、お前と共に戦いたい。リヴァンを正すために力を貸してくれ。
ラッセルより
ーーーーーーーーーーーー
ラッセルの声が脳裏に響く。
「お前は、まだ人を信じる心を捨てちゃいない」 その言葉が脳裏で反響する。
カーンは思わず目を閉じた。
これまで、幾度となくリヴァンの背を守ってきた。
戦災孤児だった彼が首相へと上り詰める姿を、この目で誰より近くで見てきた。
だからこそ、忠誠を誓うことに迷いはなかった。少なくとも、今までは。
(俺は、本当に護るべきものを見失っていたのか……)
拳を強く握りしめ、視界が炎と涙で揺らぐ。やがて彼はゆっくりと立ち上がった。足元に残されたエルフエナジードリンクが淡く輝いている。それを手に取り、口元へと運んだ。
「ラッセル……スメラ……」
低く掠れた声で名を呼び、カーンは携帯端末を操作した。
首相官邸のセキュリティプログラム――自らが長年管理してきた防御網。
その画面に浮かぶ「一時停止」の赤いボタンを、ためらいなく押した。
その頃。ラッセルは官邸ロビーの噴水近くの植木に身を潜め、
警備ドローンの動きを窺っていた。
厳重な警備体制で一歩も動けずにいたが、
突如、全てのドローンの羽音が遠ざかり天井の格納庫へと収まっていく。
壁際の警備ロボットもまるで合図を受けたかのように次々と格納庫に戻っていった。
静まり返るロビー。
闇の中に灯りがぱっと点る。
「何が起きた……罠か?」
ラッセルは剣の柄を握り直し息を殺して周囲を警戒する。
その背後で、エレベーターのランプが静かに点滅を始めていた。
即座に滑り込み最上階のボタンを押した。
エレベーターが低い唸りを上げて上昇を始める。
ラッセルは柄に手を添えたまま全神経を張り詰めていた。
(まだ仕掛けがあるはずだ……)
だが、扉が開いた瞬間、胸を突く違和感に立ち止まる。
通常なら侵入者を封じる魔方陣が床に浮かぶはずだった。
だが、そこには何もなかった。
「起動していない?」
驚きと共に、心の奥底で小さな確信が芽生える。
(カーン……お前が……)
ラッセルは短く息を吐き前を見据えた。
長い廊下を踏み進み首相執務室の前へ。
扉は重厚なエルフ鉱石の彫刻に飾られ魔力封印の煌めきがまだ微かに揺らめいている。
その前で、ラッセルが立ち止まると、静かに執務室の自動ドアが開いた。
扉の先に広がるのは、【水のカーテンの首相執務室】 四方の壁を流れる水が柔らかな光を乱反射させ、幻想的な空気を漂わせていた。だがその静寂を裂くようにホログラムの冷たい輝きと、重低音の声が響いていた。ラッセルは胸が凍る思いでポーチから蚊型マイクを飛ばし、耳元の受信機を握りしめた。
『複製計画は順調に進んでおります。王子と王女の代替体はすでに……』
深く椅子に腰掛けたリヴァンが、帝王の映像に応じていた。
かつて共に誓いを立てたリヴァンの声が、今は冷酷な報告に変わっている。
(リヴァン……やはりお前が……!)
指先が剣の柄を強く握りしめる。
やがて帝王の影が消え、続いてラマズド科学技術長官のホログラムが立ち上がった。
「あと半年でイザリオへの王位譲位が予定されています。“あれ”の進捗はどうだ?」
ラマズドが即答する。
「培養体へのエルフエナジー照射は順調です。
器官形成も完了段階に入りました。
ただ、皮膚の一部に黒変とケロイド化の兆候が、
しかし一般人には識別不能でしょう」
リヴァンの瞳がわずかに細められる。
「致命的でないなら問題ない。だが、王に勘づかれてはならん」
立ち上がり、水のカーテン越しに夜景を見据える。
その声は低く、だが確信に満ちていた。
「民には象徴が要る。だがそれは仮初めだ。表に立つのはイザリオ王子、だが操るのは私だ。
象徴を崩し、新たな秩序でユートピアを築く」
その瞳に赤黒い光がちらりと揺らめいた。ラマズドは陶酔に身を震わせ深々と頭を垂れた。
「閣下。……この国は閣下のものです」
リヴァンは、わずかに微笑み、再び椅子に腰を下ろす。
「いや、これは序章にすぎぬ。真に支配すべきはこの世界そのものだ。譲位とは、破壊と創造の儀式にすぎん」
「王子と王女の世話係レイチェとの連携を強化しろ。
表情、言動、習慣――すべてを本物と一致させろ。
王の目を欺けなければ、我らの計画は水泡に帰す。失敗は許されん」
「承知しております。命に代えても」
ラマズドは陶然と頷きホログラムは消える。
リヴァンの背後水のカーテンの揺らぎに重なるように、
赤黒い光が脈打ちリヴァンの脳裏にねっとりした
声が響いた。
《よいぞ、リヴァン。数多くの憎しみは力を肥やし、力は秩序を生む。理念など不要だ》
「理念はもう役に立たん。必要なのは圧倒的な力だ!」
リヴァンの瞳が赤黒く染まり虚空を射抜いた。
そのとき、新たなホログラムが立ち上がる。マラーだ。
「リヴァン様……旧庁舎が爆破されました。
さらに、ラッセルが官邸へ潜入。
カーンが制止しましたが、負傷したとの報告です。
警備システムも停止し、ラッセルはすでにこちらに向かっております」
リヴァンの口元に、ゆっくりと笑みが広がった。
「マラー。よい。試すときが来たのだ。私が直々に“裏切り者”を裁く」
「決して油断なさりませぬよう……」
「心配は要らん」
リヴァンは通信を強制終了させた。
水のカーテンに映るその姿は、もはや人ではなく、闇そのものだった。
「さあ、来るがよい、ラッセル。もはや計画は止まらん。ハハハハハ!」
その高笑いのすべてを、ラッセルはイヤホン越しに聞いていた。
拳は白くなるほど固く握り締められ、剣の柄にはじっとりと汗が滲む。
脳裏にかつてリヴァンと共に歩んだ日々が次々と蘇った。
――孤児院で肩を並べて語り合った夢。
――下町の酒場で仲間たちと掲げた誓いの盃。
――誰よりも民を想い、理想の国を語っていた友の姿。
その記憶が鮮やかによみがえるたび胸の奥に熱い怒りが燃え上がる。
(リヴァン……お前が壊した誓いを、俺が正す!)
ラッセルは強く息を吐いた。
中屏風を流れる水のカーテンの向こうには、かつて最も信頼した友リヴァンが居る。その姿を真っ直ぐに見据えながら、ラッセルは静かに、しかし、強い意志を込めて一歩を踏み出した。
コメント
1件
ああっ…もうこの展開やばすぎる!!😭💕 カーンとラッセルの幼馴染対決、胸がギュッてなったよ…。ラッセルが吹き飛ばした後ちゃんと受け止めてエルフエナジードリンク置いてくところ、優しすぎて泣ける。そして手紙で「共に戦いたい」って伝えるの、正気かよカッコよすぎる!! リヴァンの計画もどんどん闇が深くなってるね…クローン培養とか、背後になんかヤバいやついるっぽいし。次話ラッセルvsリヴァン直接対決あるのかな?!早く続き読みたい!!🔥
須古星 れい
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ばたっちゅ
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