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#恋愛
ばたっちゅ
20,045
桜城
308
#ファンタジー
comi
4,709
ラッセルは、一歩。そしてまた一歩。力強く、迷いなく歩み出した。水のカーテン越しに差し込む月光が床に一筋の光を描いていた。まるで未来を指し示す道標のように伸びるその先にリヴァンは“影”の気配を感じ取った。
リヴァンは、わずかに眉をひそめゆっくりと視線を上げた。そこに立っていたのは軍服に身を包み、鋭い眼光でこちらを射抜くラッセル。その手は剣の柄に添えられ、一歩も退かぬ気迫を放っていた。リヴァンはわずかに口角を上げ、赤黒い瞳でラッセルを射抜いた。
「黙って睨むだけか……」
挑発の言葉が落ちた瞬間、張り詰めた沈黙は刃のように裂けた。
ラッセルが一歩踏み出す。低く、静かな声。
「リヴァン。お前が壊した誓いを……俺が正す」
怒りと哀しみ、そして覚悟がその声に宿る。
「誓い? あの夜の戯言をまだ信じているのか」
リヴァンの嘲笑が深まる。
「理想など、力の前では塵にすぎん。見せてやろう。真の力を」
応接棚に飾られた一本の剣が、月光を受けてかすかに光った。
焼け焦げ刃こぼれも激しい。かつてリヴァンの父が最期まで握りしめていた形見の剣――レニオスの剣。
少年の頃、二人で振るい、「騎士ごっこ」と称して笑い合った記憶がラッセルの脳裏に蘇る。
だが今、その純粋な瞳はない。赤黒い目に蝕まれたリヴァンだけがそこにいた。
迷いなく剣を手に取るリヴァン。
次の瞬間、赤黒い瞳が妖しく輝き、剣身の錆が剥がれ落ちた。黒鉄の刃が脈動を始め、空気が震える。床石が軋み、冷気と熱気が同時に渦を巻いた。
「来い、ラッセル! 父の無念と我が怒り、まとめて斬り伏せてくれる!」
ラッセルもまた迷わず剣を抜く。鞘鳴りが冷たく響き、両者の視線が火花を散らす。
そして、激突。
轟音と火花が応接間を揺るがし、互角の応酬が続いた。
だが均衡は、少しずつ崩れていく。
リヴァンの剣は苛烈で、ラッセルの柄に宿るエルフエナジーの輝きすら押し潰す。
だが、渾身の一撃が、わずかな隙を突いた。
ラッセルの剣が、リヴァンの腕を深々と裂く。
鮮血が生々しく飛び散り、水のカーテンから流れ落ちる水受けを赤く染めた。
「よし……入った……!」
ラッセルの口から、思わず声が漏れる。
確かな手応えだった。
これほどの一撃を受ければ、戦士ならば膝をつく。
だが、リヴァンは、倒れなかった。
「なに……!?」
ラッセルの顔から、血の気が引いていく。
傷口から流れ出た血が、まるで意思を持つかのように逆流し、リヴァンの腕へ吸い込まれていく。
そして、瞬く間に傷が閉じた。
膨張した筋肉の表面には、赤黒い紋様が浮かび上がる。
それは血管のように脈動し、禍々しい光を放っていた。
「嘘、だろ……」
ラッセルは一歩、後ずさった。
剣を握る手に、冷たい汗が滲む。
目の前にいる男は、もう自分が知るリヴァンではない。
斬った。
確かに斬った。
それなのに、傷そのものが、存在しなかったかのように消えた。
ラッセルの胸を、初めて戦士としての本能的な恐怖が貫いた。
≪怯えさせろ。絶望させろ。その揺らぎが我を肥やす……≫
赤黒い眼の囁きが、リヴァンの脳裏を覆う。
口元が、ゆっくりと歪んだ。
「ラッセル!」
リヴァンが吠える。
「俺はお前を越えた!」
赤黒い眼が、獲物を捉える。
「その剣は、羽虫のごとき足掻きだ!」
リヴァンが剣を構える。
「お前が護ろうとしたものすべて俺が破壊する!」
リヴァンから振るわれる剣は重く、速く、鋭い。
「速い!…… さっきまで押し返せていたのに!」
「ハハハ! 我が力に驚いただろう!」
防いだ衝撃で床石にひびが走り、ラッセルの膝が沈む。
腕が痺れ、指が震えても、剣は決して離さなかった。
「リヴァン……お前はもう人じゃない。それでも俺は――お前を正す!」
切り込む一撃はかわされ、逆に頬を裂かれる。
再び熱い血が飛び散り、視界が赤く染まった。
「どうした、ラッセル! その程度か!」
リヴァンの怒号とともに振り下ろされたレニオス剣の一撃が、剣ごと彼を押し潰した。
更に床が砕け、背に衝撃が突き抜けた。
「ぐっ……!」
膝は震え、鉄の味が口に広がる。それでもラッセルは立ち上がり剣を構えた。
(速すぎる……力も限界を超えている……だが、負けられない!)
「俺は諦めない! 絶対に諦めない! お前を正すまでは!」
叫びに応えるように、剣の柄のエルフエナジーが淡く輝いた。
だが月明かりに照らされたリヴァンの影が覆いかぶさる。
赤黒い瞳が妖しく光り、黒鉄の剣を高く掲げた。
≪友情は終わりだ! 絶望を知れ! 裏切られた痛みを永遠に刻め!≫
「さらばだ、ラッセル!」
レニオスの剣の赤黒く燃える刃が、凄烈な力を込めて振り下ろされた。
赤黒い火の粉が無数の小刃となって宙に舞った。
それらは羽虫の群れのように唸りをあげてラッセルの皮膚を裂き、
筋肉を穿ち、骨に食い込む鈍い音が室内を満たした。
「ぐっは……!」
ラッセルの苦悶の声が水のカーテンの音をかき消す。
強靭な肉体から流れ出る鮮血は清らかであった水受を、
今や血で染まり、禍々しい祭壇のように赤黒く揺れていた。
最後までラッセルの手の中にあった剣は床に落ち、翠の光は鼓動に合わせてかすかに明滅し、やがて萎むように小さくなっていった。 明滅する光が完全に闇へと沈むのと同時に、ラッセルの視界も暗く滲んでいった。
血に濡れた唇から、呻くような声が漏れる。
「神よ……何故だ……なぜリヴァンに味方する……」
ラッセルの意識は朦朧とし、剣の明滅さえも視界から消えてゆく。水の滴る音さえも遠ざかり、脈打つ音も間延びしラッセルの視界は暗転し静寂が広がった。
その刹那、空気を裂く金属音が突如として響いた。
リヴァンの肩と両足に鋭い激痛が走った。
「そこまでだ、リヴァン!」
重厚な声とともに、銃声が室内を裂く。弾丸はリヴァンの肩と両足を穿ち、赤黒い血が飛び散った。
執務室の扉が乱暴に開かれ、飛び込んできたのは、カーンだった。
「カーン!?」
驚愕に目を見開くリヴァン。
その隙を逃さず、カーンはラッセルのもとへ駆け寄った。
床に崩れたラッセルの胸は上下しているが、呼吸は浅く、顎で必死に外の空気を体内に入れようとし、
血に濡れた身体は限界を迎えていた。
「ラッセル、まだ終わっていない!」
カーンは迷いなく携行ポーチから一本の注射器を取り出す。
エルフエナジードリンクを基に調合された拮抗剤。
ドリンクよりも速攻性があり、肉体の損傷及び体力を回復させる唯一の手段。
「頼む、持ちこたえろ!! 」
針が突き立ち、翠色の液体が注ぎ込まれる。
ラッセルの全身に熱が奔った。焼けるような痛みの後、創部や破損した体組織が徐々に閉じ修復してゆく。
荒い呼吸が整い、ラッセルの視界に再び光が差した。
「カーン……」
銃を構え直しながら、カーンは笑みを浮かべる。
「ラッセル。俺は誓いを思い出した。今こそ共に戦う時だ!」
リヴァンは肩口と両足を赤黒い光で再生させながら、ゆっくりと立ち上がる。
冷笑を浮かべたまま、再びレニオスの剣を握り直した。
「なるほど……二人がかりで来るか。しかし、それでも私には勝てぬ」
ラッセルは立ち上がり、剣を握る手に力を込める。
「カーン……リヴァンの暴走を止めるぞ!」
「ああ、もちろんだ」
二人の視線が交わり、背中を預け合う。
「面白い。……ならば、これより第二段階に入ろう」
リヴァンは肩口と両足を、じゅうじゅうと焼けるような赤黒い光で再生させながら、ゆっくりと立ち上がった。
傷口から吹き上がるその光は血にも炎にも見えず、ただ異様な蒸気となって夜気に溶けていく。
冷笑を浮かべたまま、彼は再びレニオスの剣を握り直した。
「何だ……!? これが……限界突破か……!」
ラッセルとカーンは即座に警戒を強める。
次の瞬間、リヴァンの姿は掻き消えた。
視覚で追えぬほどの加速。
ただ空気が震え、残像が閃光のように走る。
「……ッ!」
しかし二人は恐れず、互いの死角をカバーしながら動きを読む。
剣と銃弾が絡み合い、火花と水しぶきが乱舞する中、戦局は一気に極限へと突入していった。
銃弾がリヴァンの身体に命中し、赤黒い血が噴き出す。
だが、次の瞬間、進化した肉体がそれを押し出すように弾き返し、創部は脈動しながら塞がっていく。
「なんだ、この人間離れした肉体は……」
弾丸を補充しながら、カーンが額に汗を浮かべ呟く。
「もう、こいつは、俺たちが知っているリヴァンじゃない!」
ラッセルの怒号が響いた。
「何をほざく! 私の理想を裏切った貴様らに、言われる筋合いはない!」
怒りが頂点に達したカーンが狙いを定め、連射。銃弾は正確に大腿を撃ち抜き、同じ箇所へ集中する。肉が抉れ、リヴァンの足の動きが一瞬鈍った。
「今だ、ラッセル!」
翠色の光がラッセルの剣に燃え上がる。
「おおおおおッ!!」
怒声と共に放たれた斬撃が、リヴァンの肩を深々と切り裂いた。
「ぐっ……!!」
リヴァンがよろめく。
しかし傷口は瞬く間に塞がり、血管が脈打つように盛り上がっていく。
大腿部に打ち込まれた弾丸すら、筋肉の隆起に押し出され床に転がった。
「フハハハ……だが、それでも足りん……!」
リヴァンはなおも笑みを浮かべ、再び剣を構えた。
「私の細胞は、既に常人の限界を超えている! 貴様らの攻撃など、遅すぎるわ!」
「諦めないぞ、リヴァン! 貴様の赤黒い目の呪いを俺が断ち切る!」
ラッセルが叫ぶと、剣身に宿った翠の炎が爆発的に燃え上がった。
「翠刃旋光――ッ!!」
渾身の回転斬りとともに、エルフエナジーの翠光が弧を描き、烈しい旋風を伴って閃光となる。
「喰らえええええッ!!」
回転の勢いに乗った一閃が、リヴァンの胴体を大きく切り裂いた。
「ぐああああああああッ!!」
リヴァンは絶叫と共に大きく後退し、水のカーテンへ激しく叩きつけられる。
再生していた細胞も一時的に追いつかず、赤黒い血飛沫を撒き散らしながら呻き声をあげた。
「これが、俺たちの正義の刃だ!」
ゆっくりと、リヴァンの傷付いた体が回復していく。
「正義だと? 勘違いも甚だしいな、ラッセル君。人は思考を捨て、誰かに依存し、楽に生きたいのだ。私はそれを与える。全て管理された秩序の下に、平和なユービアを築く。それこそが民の望みだ!」
「ふざけるな!」
ラッセルが叫ぶと同時に、カーンの弾丸が回復途中の筋肉を撃ち抜いた。
「ぐはっ!」
激痛にリヴァンは顔を歪め、息も荒い。
回避行動すらぎこちなく、増強の代償が肉体を蝕んでいるのは明白だった。
「もはや、リヴァンに残された時間は少ない!」
カーンは躊躇なく銃口をリヴァンの足に向け、容赦なく弾丸を叩き込む。
その度に、悲痛な呻きが迸った。
追い詰められたリヴァンは膝をつき、肩で荒く息をしていた。額から汗が滴り落ち、血が床に落ちる。足腰に力が入らず立てず、レニオスの剣も握れなかった。
今、目の前で苦しんでいるのは、幼い頃から共に学び、笑い、剣を振り、同じ未来を夢見た親友だった。だからこそ、この手で終わらせることが、何よりも苦しかった。
その時、カーンが銃を構えた。照準の先は、リヴァンの心臓部。引き金にかかった指が、わずかに震えていた。
「撃つな! カーン!」 ラッセルが叫ぶ。
「なぜ止める、ラッセル!」 カーンも声を荒らげた。
「こいつはもう、リヴァンじゃないんだぞ!」
銃口が、わずかに揺れる。
「リヴァンの身体をした……悪魔だ!」
カーンの眼にも、苦悶が滲んでいた。
「このまま放っておけば、また誰かが殺される、いや、ディストピアの世界になるぞ!」
「カーン、それは、俺も理解している!」
ラッセルは剣を握り締め、リヴァンに視線を向けた。
「リヴァン……!」
ラッセルの声が震えた。
「スメラがお前を赤黒い眼から解放して、罪を償わせたいと願った。だから……俺たちは、ここまで戦ってきた」
ラッセルは、息が上がっているリヴァンを見つめる。
「だが……もう遅い」
その言葉を口にすることさえ、苦しかった。
「すまん、スメラ……」
ラッセルは唇を噛み締める。
「リヴァンはもう……俺たちの知るリヴァンではない」
「俺は……お前の息を止めたくなんかない……!」
奥歯を噛み締め、頬を伝った一筋の涙が、顎から静かに落ちた。
「だが……多くの命を護るためには……!」
震えていた剣が、ゆっくりと持ち上がる。
「お前の歪んだ平和の理想とともに……ここで、お前を止めなければならない!」
ラッセルの瞳に、深い悲しみと揺るぎない決意が宿った。
「俺たちがお前を弔う……」
ラッセルは一度、目を閉じ、そして、静かに開いた。
「リヴァン……」
その声は、不思議なほど穏やかだった。
「もう……赤黒い眼に苦しまなくていい……」
「俺たちがお前と歩んだ記憶が消えない限り、お前はこれからも記憶の中で生き続ける」
その言葉が響いた瞬間だった。
リヴァンの脳裏に、これまでとは明らかに異なる赤黒い眼の声が響いた。
その声には、初めて焦燥が滲んでいた。
≪終わらせるな……!≫
≪お前は私と長い付き合いだ。私は、お前を失いたくない……≫
≪他の人間に憑依したところで、何の得にもならないのだ≫
≪お前だからこそ、ここまで来られたのだ……!≫
≪私の計画は……ここで潰えるわけにはいかない!≫
≪そうだ……! ラッセルの情に訴えろ! 幼き日の記憶を利用するのだ!≫
必死だった。あれほど傲慢にリヴァンを支配し、人間の恐怖を喰らってきた存在が、今、初めて自らの消滅を恐れていた。リヴァンの中で、赤黒い眼が震えている。
「ラッセル君……」
リヴァンの口から、かすかな声が漏れた。
その声には、かつてのリヴァンを思わせる響きがあった。
「君と過ごした……幼き日の時間は……確かに、宝物だった……」
「うるさい! 黙れ!」
ラッセルが涙を流しながら叫んだ。それでも剣を下ろさない。
「そんな言葉を……今さら、俺に聞かせるな!」
ラッセルの声が震える。
「俺は……もう、お前を斬らなきゃならないんだ……!」
その瞳には、憎しみではなく、親友を失う悲しみが滲んでいた。
その刹那。エルフエナジー鉱石が更に光を放ち、青白い輝きが奔流となって剣を包み、周囲の空気までも激しく剣の周囲に渦を巻き始めた。エネルギーが刀身へと一気に収束する。
共に学び、笑い、同じ未来を夢見た、その想いすべてを、ラッセルは一本の刃に託した。
「誓風斬――ッ!!」
ラッセルが剣を、力強く、垂直に振り下ろした。
閃光が弾け、翠色の剣閃が一気に走り抜け、巻き上げられた空気が鋭利な刃へと変わっていく。翠色の斬撃が空間を切り裂き、一直線にリヴァンの胸へと迫る。
「陛下! 頭を伏せて!」
天井のパネルが轟音を立てて開き機械仕掛けの装置が唸りを上げる。突風が天井から吹き荒れ、誓風斬の風の刃さえも掻き消した。閃光弾と煙幕弾が雨のように投下された。閃光と白煙が一気に視界を覆った。
「くっ……眩しいッ!」
「何!?」
階段から黒いコートを翻し、ラマズドが飛び降りてきた。着地と同時に痺れ弾を撃ち込み、電流のような衝撃が二人の全身を襲い、完全に床へと押さえ込む。
「ぐっ……!」
「体が……動かない……!」
「これ以上、陛下に危害を加える事は許さん!」
ラマズドの冷徹な声と共に、治安部隊が突入。
電磁捕縛ワイヤーが二人を絡め取った。
「ラマズド……貴様!」 ラッセルが叫ぶが、無力だった。
「粛清対象、確保完了しました」
治安部隊たちの報告が飛び交う。
リヴァンはゆっくりと立ち上がり、歩み寄り、冷笑を浮かべた。
「天は私を見捨てていなかったようだ。ご苦労だった、ラマズド」
「勿体ないお言葉でございます、閣下」
ラマズドは恭しく頭を垂れた。リヴァンは束縛されたラッセルとカーンを見下ろしながら静かに口を開いた。
「君たちには語らなかったが……焼け落ちる街を逃げ惑い、母と共に祠へたどり着いた」
一瞬、リヴァンの声がわずかに震えた。
「寒さに震えながら、母に抱かれて眠った。 だが朝、目を開けると……母は、もう冷たくなっていた」
赤黒い目の囁きが、彼の内奥で再び響く。
《リヴァン。あの夜、お前は私を呼んだ。深い悲しみと絶望が、私とお前を結んだのだ》
「祠の闇の奥で……ラッセル。私の中に“あの声”が囁き始めた。そう、禁忌の赤黒い眼に触れたのだ。そして、彼が私に力を与えてきた」
ラッセルの苦悶の表情を見やり、リヴァンは薄く微笑んだ。
「やがて亡命という形で王国に引き取られ、お前たちと出会った。だが、私はお前たちとは違った。少年の私は、すでに“汚れた真実”を知っていたのだ」
「リヴァン……」
ラッセルの喉から、かすれた声が漏れる。
「純粋なお前たちと触れ合うたび、私の良心は揺れ動いた。だが、スメラを粛清したとき、私は悟った。良心を抱いたままでは進化は止まる。赤黒い目の力を発揮できぬと」
ラッセルは麻痺した体を震わせながら、必死に言葉を吐き出した。
「それは違うぞ! リヴァン、これ以上赤黒い目の力を借りるな!
純粋なリヴァンに戻ってくれ。頼む!」
その叫びは、もはや怒りではなく、かつての友情に縋る微かな祈りだった。さらにラッセルは続けた。
「侵略を仕掛けたのは帝国だ。エルフエナジー鉱石を奪うために、我が国を襲い、魔物で何万人もの命を奪った。その悲劇を、今度はお前が繰り返そうとしている! 魔物を操り、王家を乗っ取り、民を犠牲にする……それが、お前の言う平和か? 正義でも理想でもない。ただの支配と暴虐だ!」
リヴァンの顔が一瞬だけ歪む。
「黙れ!!」
激しい怒気が弾けた。
「お前が知る“歴史”は、王家が作り上げた美化だ! ドラン家もイーサム家も、元は同じ血を引いた愚かな覇権争いだ。だが、私は、その腐った構造すら打ち壊す。犠牲になった民のために、新たな秩序を築く!」
「だが、お前の秩序は恐怖と暴力の上に築かれている! お前こそが第二の悲劇の帝王だ!」
リヴァンは歯噛みし、叫ぶ。
「違う! 私は帝王ではない! リヴァン・カイザ。絶望の底から立ち上がった、この私自身だ!」
息を荒げるリヴァンの眼が、さらに赤黒く脈打つ。その奥底から、異様な囁きが漏れ出す。
《怒りを解き放て。恐怖を与えよ。かつて味わった絶望を、奴にも刻みつけろ……》
リヴァンの声が狂気に震える。
「今こそ、私が幼少期に味わった”恐怖”を、お前達に与えてやる!」
「“ギル・グラギラス”の餌となれ! 今頃スメラもグラギラスの胃袋で痕跡も無くなっているだろう。冥土でスメラと語り合うがいい!」
「ギル・グラギラス……だと……」
ラッセルの声が震えた。
それは、過去に仲間を何人も失った、悪夢のモンスターの名。
リヴァンの赤黒い瞳が異様に輝き、室内に地鳴りのような振動が走った。
「フハハハハハッ! ようやく表情が変わったな、ラッセル君!」
マラー補佐官が現れ、リヴァンが冷たく命じた。
「マラー、ラッセルとカーンの“下処理”を開始する!」
「畏まりました。応接広間での粛清は久しぶりですな」
ラッセルは必死に抵抗を試みるが、電磁拘束は容赦なく四肢を固定していた。
「リヴァン……っ! 貴様……!」
「最後の言葉か? ラッセル君。フハハハ! 君たちの最期を看取ってあげよう。ありがたく思い給え」
リヴァンたちは、激戦の熱気が残る応接広間から執務室へと移動した。
マラーがホログラムをタップすると、非常用制御盤が起動。厚い強化ガラス戸が音を立てて閉じ、封印魔方陣が窓一面を覆っていく。
やがて、マラーは黒鞄から非常事態専用端末を取り出し、素早く操作してリヴァンに差し出した。
リヴァンは無言で手をかざす。本人認証が完了し、赤く光るパネルに【官邸応接広間 駆逐実行】の文字が浮かび上がる。
「さて、処理を始めよう」
リヴァンは薄く笑みを浮かべ、指先でボタンを強く叩きつけた。
ガコン――
大きな音と共に、拘束されたラッセルとカーンの足元が震えた。
金属が軋む鈍い響きを立てながら、床は中央から滑らかに、ゆっくりと、
角度を付けて沈み込むように開いてゆく。
わずかに傾いた床に、二人の身体がずるりと滑りかけ、重力に引きずられる恐怖が全身を襲った。
壊れた書棚や家具、調度品が次々に抵抗なく縁を越え、暗闇に消えてゆく。
水のカーテンは床を這うように流れ、黒く穿たれた縦穴の底からは、湿った冷風が呻くように吹き上がってきた。
「くっ、非常装置を発動しあがったな! だが、諦めないぞ!」
カーンはわずかに歯を食いしばり、隠し持っていた微細切断ワイヤーを急速に操作する。もはや猶予はない。金属の摩擦音が鳴り続けた。
「ラッセル! もうすぐ、拘束具が外せる」
低く叫びながら、カーンは手元を必死に動かす。切断ワイヤーが最後のロックを断ち切った瞬間、カチリと小さく音が鳴った。
(……間に合え!)
拘束具が外れた隙をついて、カーンはラッセルの腕を掴み引き寄せた。
ラッセルも全力で体勢を立て直し、脱出を試みる。
ゴォオオ――ッ!
床が90度の角度となり、完全に開いた。重力が二人を容赦なく飲み込み、胃が裏返るような感覚がラッセルとカーンを襲った。視界が反転し、崩れ落ちる瓦礫や家具と共に、二人の身体は漆黒の深淵へと吸い込まれていった。
リヴァンは満足げに囁く。
「フハハハ……これで貴様らも終わりだ。あの世で仲良くするがいい――ラッセル君、カーン君」
その赤黒く妖しく輝く瞳が、最後まで暗闇を射抜いていた。
そして、静かに呟いた。
「これで、全ては片付いたな……」
駆動音と共に床はゆっくりと閉じ、水のカーテンは再び絶え間なく滴り落ちる。やがて機械音も止み、濡れた床に残された二人の影だけが淡く揺れ、やがて消えていった。隣に控えていたラマズドは、リヴァンの回復しきれていない傷跡を見て一歩踏み寄り、低い声で囁いた。
「閣下、無理をなさらず。直ちに手当てを致します」
エルフエナジー拮抗剤の注射針が肌を貫く。リヴァンの肉体はみるみるうちに再生し、彼はわずかに手を振ってそれを制した。口元には、愉悦を隠さぬ冷ややかな嗤いが浮かぶ。
「心配は無用だ。……だが、ラッセルは思った以上に強かった。やはり、さらに力を積み重ねる必要があるな。レプリカの件はどうなっている」
ラマズドの目がわずかに細められ、声が落ち着いた調子で続いた。
「順調に進んでおります。イザリオ王子とエルファーナ王女のお世話係レイチェに、所作や言葉遣いの最終チェックを命じました」
「よろしい。それは良い進捗だ。本物の王子と王女が“西の島”へ旅立つ時、すり替える。抜かりなく調整せよ」
リヴァンは満足げに息を吐き、薄く嗤った。
「これから、私は国王宛ての報告書を作成する。そして、報道は、“魔物襲撃事件”として情報統制をかける。ラッセルとカーンの存在は……闇に葬る。記者会見用の原稿も今から仕上げよう」
コメント
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うわああああ第22話読み終わったよ!!😭💕✨ ラッセルvsリヴァンの決戦、熱すぎる……!!「誓風斬」のシーン、翠のエルフエナジーが爆発的に燃え上がるところマジで脳内映像が浮かんだよ!🔥💚 でもリヴァンの再生能力ヤバすぎて絶望しかけたけど、カーンが駆けつけて「共に戦う時だ」って背中預けるシーンで胸熱すぎて泣いた😢💕 リヴァンの過去が明かされて、祠で母を失った幼少期の話でまた切なくなった……「赤黒い眼」に魅入られた理由がじわじわ襲ってくる感じがエモすぎるよ🥺💔 最後の落とし穴シーンで「えっ!?このまま終わるの!?」って次回が待ちきれない!!続きはよー!!🙏🌸💫