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それから一週間が過ぎた。

花純は店舗での仕事にも慣れ、ほとんどの業務を一人でこなせるようになっていた。


そしてその日の午前中、客足が途絶えた時にパソコンへ向かっていた優香が言った。


「高城不動産の副社長からアレンジの注文が来たわ。花純ちゃん指名でアレンジを作って欲しいんですって。なんでもお母様の

お誕生日プレゼントらしいのよ…お願いしてもいい?」


花純はびっくりした。

自分を名指しでアレンジの注文が来る事など今までなかったからだ。


「えっ? 私を指名ですか?」

「うんそうよ……新しく来た花純ちゃんがどんなアレンジを作るか見てみたいんじゃない?」


優香はそう言って肩をすくめた。


「分かりました。で、ご希望のアレンジはどんなものでしょうか?」


優香はパソコンの画面をプリントアウトすると、

その用紙を見て言った。


「えっとぉ、好きな花はバラで、華美でない優しい雰囲気のものがお好きらしいわ。そう言えば毎年そんな注文だったわね。社

長夫人なのに、豪勢で派手なデザインはあまり好まないらしいのよ」

「分かりました」


花純は優香からその注文書を受け取ると、じっと見つめる。


「花純ちゃんの得意はアンティークカラーだから、それで攻めてみたら?」


優香に言われるまでもなく、既にそのイメージで作ろうと考えていた花純は、


「分かりました。作ってみます」


そう言って早速アレンジ用の器を探し始めた。


壮馬からの注文書には、予算はいくらかかっても構わないと書いてあったので、

仕入原価が割と高めのアンティーク調の器を使う事にする。


陶器は英国風の盃型の鉢で、華美ではなく上品な雰囲気だ。

色はオフホワイトで所々にアンティーク加工が施されている。

花が終わった後は、果物入れや小物入れに使えそうな素敵な器だ。


器を作業台に乗せた花純は、今度はバラの花を選び始めた。


優香は花純が集中出来るようにと、少し離れた所へ移動して観葉植物の手入れを始めた。

そして花純がアレンジ作りに集中している間、接客は全て優香が対応してくれる。


一時間ほど作業に集中した花純は、見事なアンティーク風のアレンジを完成させた。


出来上がったアレンジを、花純は数歩後ろに下がった所から眺める。

そして角度を変えて様々な方向からチェックする。


(うん、完璧!)


予算に制限がなかったので、思う通りのアレンジに仕上がった。


「優香さん、こんな感じでいかがでしょうか? ダメなところがあったら教えて下さい」


すると優香がカウンターへ戻って来る。

そしてそのアレンジを一目見て言った。


「うわっ花純ちゃん凄い! 素敵! 完璧だわー!」


そこには、グレイッシュピンクやパープル、それにオフホワイトのアンティークローズをふんだんに使った、

上品で優しい雰囲気の素敵なアレンジが仕上がっていた。

間に添えられたユーカリや木の実が適度に引き締め効果をもたらしている。


「本当ですか? これで大丈夫でしょうか?」


「もちろんよ、凄く素敵! 英国調の上品な雰囲気を醸し出しつつそれほど華美でもないし、色合いがシックで上品だわ。 そ

れに木の実を使うなんて心憎いじゃない? こういうアレンジは今までお届けした事がないからきっと喜ばれると思うわ。それ

にしても、こういう攻め方もあるのねぇ…勉強になるわぁ…」


優香は頷きながら言う。


「えっ、それは言い過ぎです…」


花純が恐縮して言うと、


「ううん、本当よ。私みたいに長くアレンジを作っていると、段々ワンパターンになっちゃうのよねぇ。でもこういう新しい雰

囲気のものを見せて貰うと、凄く刺激になるわ」


優香はニコニコして言った。

その言葉に、花純はほんのちょっぴり自信をもらえたような気がした。


「ラッピングのリボンは、先週ちょうどアンティークカラーの物が入ったからそれを使うといいわ。そこの後ろの箱に入ってる

から」

「ありがとうございます」


花純は優香の言った箱を取り出すと、早速リボンの色を選び始める。

そして、グレイッシュピンクとベージュ、それにモカ色のリボンを選ぶと、

三連にして器用にリボンを作る。

そしてラッピングのビニールの左右上の二ヶ所を摘まんでそのリボンを綺麗にかける。


最後に「HAPPYBIRTHDAY」のカードを添える。


そして、注文のアレンジは無事に仕上がった。


「ラッピングもばっちりよ! じゃあ早速花純ちゃんが配達してきて!」

「えっ? 私がですか?」


「そうよ! 作った本人でしょう? あとこれ……」


優香はそう言うと、先ほど郵便で届いた包みを開ける。

そして中から花純の名刺を取り出した。


「本社からやっと届いたわ。名刺を持って営業もよろしくね。高城不動産はパーティーやイベント、それに取引先へのお花の注

文が一年間を通して相当数あるのよ。この際だからしっかり営業をお願い!」


そう言われた花純は、久しぶりに手にした名刺をじっと見つめる。

そこには、


『株式会社青山花壇虎ノ門店 フラワーデザイナー 藤野花純』


と書かれていた。

そしてその脇には、フラワーに関する資格についても記載されている。

名刺のデザインは、フローリストに相応しいバラの模様が描かれており

とても素敵な名刺だった。


以前のシンプルな名刺と形は違えど、また新たな肩書きの名刺を手にした花純は、

身が引き締まる思いでいた。


花純は一度ロッカーへ行き、空の名刺入れを取り出してくる。

そこへ早速何枚かの名刺を入れてエプロンのポケットにしまうと、


「では行ってきます」


と優香に言った。


「副社長室は最上階の49階だけど、一度40階の受付を通ってね」

「分かりました」


花純は少し緊張した面持ちでアレンジを手に持つと、

ビルの最上階へ向かった。

クールな御曹司はフラワーショップ店員を溺愛したい

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コメント

3

ユーザー

花純ちゃんご指名で壮馬ママへのフラワー🪻ギフト🎁 早速お届け‼️ 受付の対応が少し心配😟

ユーザー

壮馬さん、やはり花純ちゃんを名指しで指名してきましたね.... アレンジメントを持っての会社訪問💐 はたしてどんな展開が待ち受けているのか⁉️

ユーザー

壮馬さんから壮馬さんのお母さん宛の💐のご依頼✨これは〜腕を振るわないと❣️優香さんのお墨付きをいただき、いざ副社長室へGO‼️ 40階の受付で止められない事を切に祈ります🙏

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