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ばたっちゅ
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第十章 白霧山の彼方へ
第二話 初めての野営
順調に馬を走らせ、一行は白霧山へ向かって進んでいた。
だが帝都から離れるにつれて、道は徐々に険しさを増していく。
大小様々な岩山が辺りに点在し、乾いた地面にはひび割れた石が転がっている。
さらに進むと、景色はゆっくりと姿を変え始めた。
背の高い木々が増え、枝葉が空を覆い隠していく。
風の音も草原を渡るものから、森を揺らす深いざわめきへと変わっていた。
日がだいぶ傾き始めた頃。
先頭を走っていたアクセルが、手綱を引いて速度を落とした。
「……今夜は、この辺りで野営をするか」
一行もそれに続き、周囲へ視線を巡らせる。
ちょうど道から少し外れた場所に開けた空間が見えた。
地面は比較的平らで、古い焚き火跡も残っている。
「お、ええ場所やな」
ラスタが馬から飛び降りた。
「昔誰かも使っとったみたいやし、安全そうや」
各々馬を木へ繋ぎ、荷を下ろしていく。
慣れた手つきで野営の準備が始まった。
アクセルが小さな魔石灯を取り出し、魔力を流し込む。
淡い琥珀色の光が、静かな森の中へふわりと広がった。
「わぁ……」
ジオが小さく声を漏らす。
「ラディスにもあったけど、こんなに小さいのに明るいやつ初めて見た」
「帝国製は質が良いからな」
アクセルが答えながら、手際よく薪を組んでいく。
その横では、クロードが静かに寝床用の布を広げていた。
ラスタは食材袋を漁りながら、鼻歌交じりに鍋の準備をしている。
それぞれ無駄なく動く姿に、サフィアンが感心したように声を上げた。
「アクセルもクロードも、皇族とか王族なのに慣れたもんだなぁ」
アクセルは苦笑しながら振り返る。
「騎士団の訓練の一環だからな。野営や遠征はしっかり叩き込まれている」
クロードも静かに頷いた。
「フィルディアでも冬季遠征訓練は多い」
「なるほどなぁ……」
サフィアンが妙に納得した顔をする。
一方ラスタは、忙しなく鍋をかき混ぜながら笑った。
「いや〜、ここんとこ城で贅沢させてもろてたからなぁ。なんか久しぶりやわ、こういうの」
「お前めちゃくちゃ食ってたもんな」
「人のこと言えんやろ!帝国の飯うますぎるねん!」
「まぁ確かに」
賑やかな声が森へ溶けていく。
やがて、焚き火の上で鍋がぐつぐつと音を立て始めた。
香草の匂いと、温かな湯気が辺りへ広がる。
「よっしゃ、できたでー!」
ラスタが得意げに胸を張る。
簡素な旅料理。
だが、冷え始めた夜の空気の中では、それだけで十分ご馳走だった。
焚き火の火がぱちりと音を立てる。
森の奥では、時折夜鳥の声が響いていた。
食事を終え、それぞれが少しずつ眠気を感じ始めた頃。
アクセルが焚き火越しに口を開く。
「そろそろ見張りを決めようと思う」
自然と全員の視線が集まった。
「今日は初日で、移動の疲れもあるだろう。だから三交代にしたい」
アクセルは静かに続ける。
「最後の番は、しっかり眠った後になる。一人でも問題ないと思う」
全員が頷く。
「それで、ペアと順番をどうするか……」
その瞬間
「じゃんけんや!」
ラスタが勢いよく立ち上がった。
一同がぽかんとする。
ラスタは得意げに胸を張った。
「これなら誰も文句ないやろ?」
「子供か!」
すかさずサフィアンが突っ込む。
だがその横で、クロードが真面目な顔で頷いた。
「……しかし、妥当な案ではないか?」
「クロードまで!?」
「公平性は高い」
「なんか納得させられそうになるの腹立つな……」
賑やかに言い合う四人を、ジオは少し不思議そうに眺めていた。
「……じゃんけん?」
その言葉に、サフィアンが目を瞬かせる。
「え!?ジオじゃんけん知らなかったっけ!?」
「うん……」
ジオは少し考えるように視線を落とした。
「子供の頃、近所の子がやってるのを見たことある気がするけど……」
その言葉に、一瞬だけ空気が静かになる。
アクセル達は小さく顔を見合わせた。
ジオには、“みんなで遊ぶ普通の子供時代”がなかった。
けれど
「あんなぁ、じゃんけんってのはな!」
ラスタがぱっと明るい声を上げた。
「グーとチョキとパーで勝負する遊びや!」
地面にしゃがみ込みながら、身振り手振りで説明を始める。
「グーはチョキに勝つ。チョキはパーに勝つ。で、パーはグーに勝つ!」
「へぇ……」
「簡単やろ?」
ジオは真剣な顔で何度か指を動かし、小さく頷いた。
「……わかった。覚えた」
その言い方が妙に真面目で、サフィアンが思わず吹き出す。
「そんな気合い入れて覚えるものじゃないって」
「でも負けたくないし」
「なんだそれ」
焚き火の向こうで、アクセルが悪戯っぽく笑った。
「じゃあ、うらみっこなしだぞ?」
五人が輪になる。
火の光が、それぞれの表情を柔らかく照らしていた。
「最初はグー!」
「じゃんけん——」
「ぽん!!」
「……あいこやん!」
「もう一回!」
「あいこでしょ!!」
「あっ、待っ、お前今遅れて出しただろ!」
「出してへんわ!」
「絶対見てた!」
「疑うなや!」
「もう一回だ!」
「あいこでしょ!!」
賑やかな声が、静かな森へ響いていく。
秋の夜。
暗く深い森の中。
その一角だけが、まるで別世界のように明るかった。
コメント
1件
うわあ、めっちゃいい雰囲気…!野営シーンってだけで胸が温かくなるのに、みんなでじゃんけんして決めるっていうのがもう、らしくて可愛い。アクセルのちょっと悪戯っぽい笑顔とか、ラスタのノリ、クロードの真面目な「妥当な案」、サフィアンのツッコミ……全員のキャラが生きてて、読みながらニヤニヤしちゃいました。そしてジオが「じゃんけん」を知らないところでふと過去を感じさせる切なさが差し込んで、その直後の賑やかさで救われる感じがすごく好きです。秋の夜、焚き火の明かりだけが別世界みたいに輝いてる描写、胸に染みました🌙