放課後の教室、いつものように「蓮司の相談室」と手書きの札をぶら下げた机の前に、一人の男子が立った。
「……ちょっと聞いてもらっていいっすか」
椅子に腰を下ろした彼は、やや気まずそうに笑う。
「俺、部活やってて、先輩とか友達と遊ぶのも好きなんすけど……正直、スマホ見てる時間が一番楽しいんですよ。で、気づくと夜更かししちゃって。朝起きれなくて、授業中眠い。でも、“ネットやめたら寂しくなる”って思ってやめられない」
「ほう」
蓮司は頷き、机に肘をついた。
「寂しくなる、ってのは何に対して?」
「……なんか、友達のグループLINEで話題が進んでたら置いてかれるし、SNSも見てないと“あれ知らないの?”ってなるじゃないっすか」
「わかるよ。俺も前はそうだった」
横で聞いていた別のクラスメイトが口を挟む。
「でもさ、そうやって無理に合わせるのもしんどくない?」
「しんどいっす。でも抜けたら“なんで?”って言われるし。別に仲悪くなりたいわけじゃないから……」
蓮司は少し笑って言った。
「じゃあ、やめなくていいんじゃない?」
「え?」
「いや、本気でやめる必要ある? 多分さ、悩んでるのって“全部付き合おうとしてる”からだと思うんだよ」
男子は眉をひそめた。
「でも、返さなかったら嫌われるかも……」
「返事しないだけで嫌う奴は、最初から本当の友達じゃない。しかも、LINEもSNSも、“読むだけ”っていう選択肢あるじゃん。全部参加するのが義務だと思ってるから、しんどいんだよ」
クラスメイトが頷く。
「確かに。自分の中で“ここまで”ってルール決めとけばいいのかも」
「そうそう」
蓮司は指を鳴らす。
「あと、夜スマホやめられないのは、眠くなる前に面白いもん見つけるから。布団に入る前に通知切っとくと、結構あっさり寝れる」
「……なんか、意外と簡単そうですね」
「簡単だよ。難しいのは“全部に応えようとする自分”を変えることだけ」
男子は少し考え込んで、ふっと笑った。
「じゃあ、今日から通知切ってみます」
「いいね。それで明日授業中寝たら、また相談室来い」
「ははっ、それは避けたいっすね」
帰り際、彼は小さく「ありがと」と呟き、足取りは少し軽くなっていた。