テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後の「蓮司の相談室」。 机の前に座ったのは、クラスの中ではわりと明るくて、友達も多い女子だった。けれど、その笑顔はどこか不自然に固定されている。
「……好きな人がいるんですけど」
開口一番、それだった。
「いいじゃん。何が問題?」
「その人、たぶん私のこと“ただの友達”だと思ってるんですよ。LINEもよくするし、放課後に一緒に帰ったりもするけど……なんか、恋愛の雰囲気にならない」
蓮司はペンを回しながら、相手をじっと見た。
「で、お前はどうしたいの」
「え? ……そりゃ、付き合いたいです」
「じゃあ、友達やめれば?」
「はあ!?」
予想外の返答に、彼女の声が裏返った。
「いや、友達でいる限り、その人の頭の中でお前は“友達”のままだろ」
「……でも、それって距離置けってことですか?」
「そう。距離置くか、距離詰めるか。どっちかに振らないと、関係は変わらない」
彼女はペンの先を見つめながら小さく唸る。
「でも、距離詰めたら引かれるかも……」
「引かれるなら、それまでだろ。無理に保っても疲れるだけ」
少し沈黙が落ちる。
蓮司は机に肘をつき、声を低くして続けた。
「本気でほしいなら、壊れる覚悟しないと」
「……壊れる覚悟」
「そう。片想いってのは、相手にとっては“現状維持”でも、お前にとっては“消耗戦”なんだよ」
彼女は口を噤み、少し考える表情になる。
「……怖いけど、なんか分かるかも」
「いいじゃん。怖いほうがやる価値ある」
蓮司は軽く笑い、最後にこう付け足した。
「まあ、もし告白して玉砕したら、そのときは相談室で反省会でもやろうぜ。俺、そういう話聞くの結構好きだから」
彼女は苦笑しながら席を立った。
「……なんか背中押された気がする。ありがと」
「おう。押したんじゃなくて、崖際まで連れてっただけだけどな」
そのやりとりに、廊下から聞こえてきた笑い声が重なり、放課後の空気は少しだけ軽くなった。