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#勧善懲悪
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エリアは大きな板を肩に担いでいた。雨庭商店街の案内看板を描き直す予定らしい。長い髪の先にまだ絵の具がついていて、歩くたびに揺れた。
「その顔、ろくでもないもの拾った時の顔」
「顔で分かるのか」
「付き合い長いからね」
エリアはサペの手にある黒い名刺を見るなり、眉を寄せた。
「なにこれ。趣味悪」
「朝、公園で拾った」
「悪魔ごっこ? 笑えない冗談だなあ」
サペは泣いていた男の子の話をした。エリアの表情がすぐに変わる。さっきまでの軽さが消えた。
「子どもにそんなもの使わせたの」
「たぶん、使わせたっていうより、食いつくよう仕向けてる」
「最低」
エリアは名刺を指先ではじいた。黒い紙が、薄いのに妙に硬い音を立てる。
「これ配ったやつ、絶対どっかで笑ってる」
「まだ決めつけるには早い」
「サペ。こういうのは、たいてい決めつけてるくらいでちょうどいい」
言いながらも、彼女は男の子の前ではしゃがみ込み、視線を合わせた。
「秘密ばらしたのはだめ。でも、あんた一人だけ悪いわけじゃない」
「……ほんと?」
「ほんと。悪い大人がいる。そいつを見つける」
男の子が少しだけ顔を上げた。
エリアは、じゃっと立ち上がると、看板を持ち直した。
「私、商店街の仕事行く。午後、飲み物屋の角の店で会お。何か分かるかも」
その日の夕方、約束の場所へ行くと、商店街の一角が妙にざわついていた。
手作り石けんの店の前に、人だかりができている。店主の女性が青ざめた顔で立ち尽くし、貼り紙をはがしていた。
貼り紙には太い文字で、
この店は客の個人情報を漏らす
と書かれていた。
「そんなことしてません!」
店主の声が震える。
「相談に乗ったことはあるけど、それは昔からの近所づきあいで……!」
周囲の人々は困った顔でささやき合う。信じたいが、疑いも消えない。そういう空気だった。
エリアが舌打ちした。
「早いな」
「何が」
「笑えない冗談が、もう商売になってる」
サペは店先に落ちていた小さな黒い紙片を拾った。
角に、悪魔の横顔。
朝の名刺と、同じだった。