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れみと係長が向かったのは、支店長室ではなく会議室だった。
会議室に入ると支店長が席に着いていたが、その傍らにはもう一人——社内で一度も見ことのない人物が座っていた。
「そこに座りたまえ」
支店長が厳しい顔つきで言う。
れみは狼狽しつつ椅子に座ると、
「この方は本社の契約審査部の方だ」
支店長が横にいる男を紹介した。
「はじめまして。契約審査部の飯田です」
男はノートパソコンの画面を見ながら、
「今回、糸原さんが担当した逗子様と梶原様の契約について、少し確認させてください」
と淡々と言う。
「契約者様と糸原さんはご友人だとお聞きしましたが、今回の保険契約内容は、契約者様のご要望に沿って作成したのですか?」
「も、もちろんです。契約者様のご要望で作成しました」
れみは声が上擦ってしまった。
「そうですか」
飯田はノートパソコンを閉じて、れみを射抜くように見る。
「今回、高額保険を契約された後に事故に逢われた。偶然なのか、糸原さんの担当された他の案件、不慮の事故で亡くなられた方が多いですね」
「え?あの……」
「それも皆、死亡保険金額が高額……ですね」
「……」
飯田は冷たい目で、れみを見る。
「たまたま偶然が重なっただけ……かもしれないですが、こちらで確認したいことが出てきました。従って逗子様と梶原様の保険は、我々がロックしました」
「……」
れみの顔色は蒼白となり、指先が小刻みに震え始めた。
支店長が低い声で言う。
「そういうことで、糸原くん。君が契約した全ての保険は、契約審査部で調査することになった」
れみは無言で、支店長を見る。
「調査が終わるまで、君には自宅待機を命じる」
告げられた瞬間、れみは悟った。
自分は疑われている。いや、疑いではなく確信を持っているから、自宅待機を命じられた。
終わりが来ようとしているという現実。
——何もかもが、おしまいだわ。
れみは素直に従い、会議室を出るとデスクに戻った。
必要な物、私物を全てかき集め、無言で営業所を出た。
——なんとかしなくちゃ。このままでは、私、きっと捕まる。
手荷物で両手が塞がりながらも、れみは急ぎ足で大通りに向かい、タクシーを探した。
だが、大通りに出ても、なかなかタクシーがやって来ない。
れみは配車アプリでタクシーを呼ぼうと、携帯電話を取り出したが……
——そうだわ!その前に……。
れみは慌てて、携帯電話の中にある連絡先を開く。
——神象ホールディングス
この表示をタップして、電話をかけた。
『神象ホールディングスでございます』
電話から女性の声が聞こえると、れみは焦る気持ちを抑えながら言う。
「いつもお世話になっております。私、ラマン生命保険の糸原でございます。森社長に契約について話をしたいことがありますので、恐れ入りますが、お取次をお願い致します」
『かしこまりました。お繋ぎ致しますので、少々お待ちくださいませ』
女性の丁寧な声から保留音に切り替わると、れみは小さく深呼吸した。
しばらく鳴っていた保留音が止む。
『お待たせしました。森です』
と聞こえた瞬間、
「森社長!私、れみです」
すぐさま反応したれみは、早口になる。
「あのっ!私、非常に困ったことになりまして、助けて欲しいんです!」
『糸原……さん?どうしました?困ったとは?』
森が戸惑う声を出していたが、れみは興奮して我を忘れていく。
「孝光の、逗子の保険がロックされて、それで私の契約した保険を調べるって……。森社長が、紹介してくれた保険も……」
『糸原さん!落ち着いて』
森が強い声で遮る。
『とにかく、落ち着いてください。詳細は追って詳しく聞きます』
「後じゃダメなんです!私、自宅待機を命じられて、このままじゃ、私……私……」
れみは興奮しながら言うと、森が電話の向こうでため息をついた。
『……わかりました。今、糸原さんはどちらにいますか?』
「え?あ、私、今、営業所出たばかりで……」
『そうですか。では、ラマンホテルに向かってください』
「……え?ラマンホテル……ですか?」
れみは戸惑った。
ラマンホテルはラマンメディカルソリューションの系列のホテル。
れみがいるラマン生命保険株式会社も同じ系列。
そこに行くということは……
「わ、私、捕まりたくないんです!逃げたいの!」
れみは叫んだ。
——ラマンと関係のないところで、匿って欲しかった。
だから私は、神象ホールディングス、森社長に助けてと言ったのに……。
ラマンホテルに向かえと森に言われたれみは、混乱していた。
そんなれみに対して、森は淡々と言う。
『安心してください。ラマンホテルは大丈夫です』
「で、でも……」
『私の祖父は森万作。ラマンメディカルソリューションの会長です』
「……え?」
『ラマンホテルは私の権限が通りますから、安心して向かってください』
「あの、それは……」
『貴女がラマンホテルにいることは、誰も知らない……ということです』
森の穏やかな声。
電話の向こうで、森が小さく笑ったように感じたれみは
「わかりました。ホテルに向かいます」
と森社長を信じることにした。
ラマンホテルはすぐ近くにある。
歩いていける距離の為、れみはタクシーを呼ばずにラマンホテルまで歩いた。
日が沈み、辺りが暗くなる。
れみは手荷物を持ちながら歩き、ふと後ろに誰かいるような気がした。
振り返ると、誰もいない。
また歩くと、後ろに人がいる気配がした。
また振り返ると、一瞬だけ黒い人影が見えた気がしたが、やはり後ろには人はいない。
——ゾクッとした。
れみは逃げるように、小走りでラマンホテルに向かった。
そんなれみの後を追うように、二人の男たちが一定の間隔を空けて早歩きをしていた。
だが、れみの後を追うのは、この二人の男たちだけでははかった。
二人の男たちの後をつけるように、近づく黒い人影。
その黒い人影は二つ。
そのうちの一つが、小さな声を発する。
それは——
「どうやら、警察がマークしてるみたいだね」
ニヤリと笑うグリムだ。
その横で樹は、れみと彼女の後を追う二人の男——刑事を黙って見つめた。
「で、どうするの?しばらく泳がすの?」
楽しげに笑うグリムに、樹は静かに言った。
「れみさんが会う男。俺はそいつの顔を見たい」
樹の言葉を聞いたグリムは、瞬時に眉を顰める。
「絶対に……見るだけにしろ」
グリムの声は小さかったが、言葉には強い強制力がこもっていた。
るるくらげ
いと
#和風ファンタジー