テラーノベル
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放課後の相談室。窓の外には、夕陽が低く差し込み、机の上に影を長く落としている。
蓮司は机に肘をつき、指先でペンをくるくる回しながら、来訪者を見た。
「……笑ってるのに、心が泣いてる気がするんだ」
椅子に座ったまま、少年は小さく肩をすくめた。
「みんなの前では笑ってるんだけど、家に帰ると全部崩れる。
誰かに見せられない涙もあって、どうしても隠しちゃう」
蓮司は薄く口角を上げ、紙に書いた文字を無造作に指でなぞった。
「……笑うフリってやつな」
「……うん」
少年はうつむき、指先で制服の袖を擦る。
「笑ってれば、変に思われないし、嫌われないかなって。
でも、ほんとは泣きたいし、弱い自分を出したいのに出せない」
蓮司は椅子を少し後ろに引き、軽く肩をすくめる。
「出せねぇのは、怖いからだろ」
「……怖い?」
「うん。弱い自分を見せたら、壊されるんじゃねぇかって思うからだ。
笑うフリは防衛だ。俺だって昔、ずっとそうだった」
彼は遠くの窓の外を見つめるように続けた。
「笑ってるときの自分と、本当の自分の距離が広くなると、
涙も溜まるんだよ。心の奥に、全部押し込まれる」
少年は小さく息を吐いた。
「……押し込んだままでも、いいのかな」
「別にいいんじゃねぇか」
蓮司は少し笑った。
「誰かに全部見せる必要はねぇ。
大事なのは、押し込んだ自分を否定しねぇことだ。
泣きたくなったら泣け。笑いたくなったら笑え。
そのどっちも、お前の一部だから」
沈黙のあと、少年は少し肩の力を抜いた。
窓の外では、風がカーテンを揺らす。
「……でも、笑うフリばっかりじゃ疲れちゃう」
小さな声で漏らすように言った。
蓮司はペンを指で弾き、ふっと笑った。
「疲れるのは当然だ。
でも、笑うフリしても、ちゃんと生きてる証拠だ。
それだけでも、十分だと思うぞ」
少年は少しだけ笑った。
「……ありがとう」
蓮司は肩をすくめ、窓の外を眺める。
「礼はいいよ。疲れたらまた話聞かせろ」
その言葉の向こうで、夕陽がゆっくりと沈み、室内の影が長く伸びていった。
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