テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第12話:初出動
研修四日目の午後、香波対策局の警報が鳴った。
「第三市街区、香波暴走者発生。近隣住民避難中。研修班から志願者を募る」
訓練場の空気が一変する。模擬市街区とは違う、焦げた樹脂の匂いがわずかに漂っていた。
春瀬拓真は黒のコンプレッションシャツに局支給の防弾ベスト、腰には携帯香波抑制器を装着。背筋が自然と伸び、昨日までの訓練とは違う緊張が走る。
庭井蓮は濃紺の軽装コートに抑制バンドを外し、首筋から淡く揺れる琥珀色の瞳光を隠そうともしない。長身のシルエットが隊列の中でも際立っていた。
現場は雑居ビルの一角。路地裏から真紅の香波が立ち上り、金属が焼けるような匂いが空気を刺す。
暴走者は30代ほどの男性で、感情の高ぶりから制御を失い、周囲に攻撃系赤波を無差別に放っていた。周囲の住民は避難済みだが、路地奥に1人、取り残された子供の姿があった。
「蓮、無香域で正面を抑えて!」
拓真は叫びながら右手に香波抑制器を構える。
蓮の無香域が展開され、暴走者の赤波が鈍る。
その一瞬、拓真は深呼吸して緑から黄、橙、赤へ——昨日までよりさらに短時間で変化し、波を一点に絞って放つ。
赤波が暴走者の足元を絡め取るように包み、膝から崩れ落ちさせる。
すかさず抑制器を首元に当て、赤波の揺らぎを収束させた。
子供が泣きながら駆け寄ってくる。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
その声に、拓真の肩の力が抜けた。
帰還後、局員が短く告げた。
「初出動でこれは上出来だ。安定も速度も合格点」
颯馬が横で笑みを見せる。
「お前、もう研修生の顔じゃないな」
蓮がふっと息をつきながら言った。
「次は俺がいなくてもやれるようになれ」
拓真はその言葉を胸に、次の目標を見据えた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!