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第10話:駅員の手紙
夜の笹波駅は、冷えた空気と蛍光灯の白い光に包まれていた。
改札横の窓口に立つのは、若い駅員・高瀬隼人(たかせ はやと)、25歳。短く刈り込んだ髪は濃い焦げ茶で、耳の横に少し癖がある。深緑のベストの下にきちんとアイロンの効いた白シャツ、胸元には銀色の名札が光っている。背は高く、細身の体は制服によく馴染んでいた。
閉発の時間が近づき、窓口に人影はない。机の上を片づけていると、書類棚の隅に古びた封筒が一つ置かれているのを見つけた。紙は少し黄ばみ、表には震えた文字で「高瀬隼人様」と書かれている。
不思議に思い封を開けると、中から一枚の便箋が出てきた。
——日付は2035年1月17日。まだ十年も先の未来。
そして、差出人は「高瀬隼人」。未来の自分からの手紙だった。
『おまえは、この駅でたくさんの“落し物”を見てきた。けれど、最後に拾うのは自分自身の未来だ』
『迷ったら、ホームの端に立って、水色の空を探せ。その空が見えるうちは、大丈夫だ』
読み進めるうちに、胸の奥が温かくなるような、不思議な感覚に包まれる。
——未来の自分は、この駅にまだ立っている。
高瀬は便箋をそっと封筒に戻し、制服の内ポケットにしまった。
窓口の外、夜空にはうっすらと水色を残した三日月が浮かんでいる。
「……じゃあ、明日もここで」
その小さなつぶやきは、ホームの静けさに溶け、駅の灯りと一緒に未来へと滲んでいった。