テラーノベル
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五時少し前、紫野はパーティーに行く準備を終え、迎えを待っていた。
茜色のベロアのドレスは、色白の紫野にぴったりで、スリムなラインに少し広がった裾が優雅に揺れている。
その上品さと清楚さは、紫野の魅力を最大限に引き出していた。
さらに、装いを引き立たせる宝飾品も見事だった。
髪には国雄から贈られたかんざし、ほっそりとした首元と細い指には、昨夜のアメシストが輝いている。
それらは、紫野の美しさを引き立てるように見事に馴染んでいた。
紫野は全身を鏡に映しながら、満足気に微笑む。
その時、ノックの音が響いた。
紫野はコートを羽織りバッグを手にしてドアを開けた。その瞬間、廊下に立っていた国雄と進がハッと息を飲む。
二人は、紫野の美しさに心を奪われているようだった。
「お待たせいたしました」
「とっても綺麗だよ」
国雄に褒められた紫野は、頬を染めながら礼を言った。
「ありがとうございます」
すると、今度は進が茶化すように言った。
「今日のパーティーの主役は、紫野さんで間違いないですね」
「まあ! それは言い過ぎです」
「いや、本当にそうかもしれない」
国雄までそんなことを言ったので、紫野は再び頬を赤く染めた。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
三人はホテルを出て、パーティー会場へ向かった。
会場へ到着し車を降りた国雄は、緊張気味の紫野に向かってこう言った。
「僕の腕につかまって、離れないで!」
「は…はい」
紫野は言われた通り、国雄の腕につかまり並んで歩き始めた。
時折見つめ合い笑みを浮かべて優雅に歩く二人の姿に、ロビーの人々の視線が釘付けになる。
『あれは、村上セメントのご子息ですな』
『ご立派になられて』
『ご一緒におられるお方はフィアンセかな?』
『お母様以外の女性を伴われているのは初めて見ましたわ』
そんな囁きが聞こえる中、二人は人々の合間を縫って、堂々とパーティー会場へ向かった。
階段を上がり会場へ到着すると、国雄の顔見知りたちが次々に声をかけてきた。
「村上様、お久しぶりです! お元気そうで何よりです!」
「ご無沙汰しております。またお会い出来て嬉しいですわ」
「しばらくぶりですね。お父様はお元気でいらっしゃいますか?」
国雄は足を止めて一人一人に挨拶を返し、紫野を紹介した。
「まあ、とうとうご婚約なさったのね! おめでとうございます!」
「お似合いのお二人ですな」
「なんとまあ、可愛らしいフィアンセでいらっしゃいますこと!」
彼らは笑顔で二人を祝福してくれた。
その時、パーティーの主催者と思われる男性がにこやかに近付いてきた。
「やあ、国雄君! よく来たね!」
「ご無沙汰しております。本日はお招きいただきありがとうございます」
国雄は挨拶を返すと、紫野に男性を紹介した。
「このパーティーの主催者の清田さんだよ」
「初めまして。大瀬崎紫野と申します」
「お? もしかして、あの大瀬崎蚕糸会社のお嬢さんですか?」
「先代のご長女ですよ」
「やっぱりそうでしたか! 初めまして、私は清田建設の清田平蔵(きよたへいぞう)と申します。紫野さんのお父上の将太さんとは、何度もパーティーでお会いしたことがあります。とても理知的で誠実な方だったのに、本当に残念でした……。でも、今日こうしてお嬢さんにお会いできて嬉しく思いますよ」
「ありがとうございます」
「清田さん、僕たち、婚約したんです」
国雄の言葉に、清田はかなり驚いている様子だったが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべて言った。
「おお! 君もやっと身を固める決心をしたか! それもこんな素敵なお嬢さんと! ははあ、そうか……君が今まで他のお嬢さんたちに興味を示さなかったのは、こういうことだったのか!」
清田はそう言って、愉快そうに笑った。
「まあ、そういうことになります」
「おや? いやに素直じゃないか、ははっ! でも、君のご両親もさぞ喜んでいるだろう。君の結婚については、ずっと心配されていたからね」
「両親には帰宅してから報告する予定なので、まだ知らないんですよ」
「なるほど。ご両親よりも先に知らせてもらえたとは、光栄だな! いや、実にめでたい! 紫野さん、これからどうぞよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「どうぞ、パーティーを存分に楽しんでくださいね」
「ありがとうございます」
清田は満足そうな表情を浮かべながら、次の客へ挨拶に向かった。
「清田さんはね、東京で次々とビルを建てている、日本一大きな建設会社の社長さんなんだ」
「では、村上セメントとも大きな取り引きが?」
「うん。これからセメントの需要はますます伸びるから、清田さんには今後もお世話になると思う。何せ、あの人は業界屈指の大物だからね」
「そんな大物の社長様に気に入られて、国雄様の将来は安泰ですね」
「うん、あの人と繋がりが持てたことは本当に光栄だったと思ってるよ。人間的にも尊敬できる素晴らしい方だから、紫野もぜひ仲良くしてもらうといい」
「はい」
挨拶を一通り終えた国雄は、紫野を連れて美味しそうな料理が並ぶテーブルへ向かった。
色とりどりの料理を見て、紫野は思わず声を弾ませる。
「まあ! なんて美しいお料理なんでしょう!」
「お腹が空いたろう? 好きなものを取ってあげるよ、どれがいい?」
「うーん、どれも美味しそうで迷ってしまいます」
「ははっ、じゃあ端から少しずつ取っていこうか?」
国雄は微笑みながら言うと、丁寧に皿に料理を取り分けてくれた。
仲睦まじい二人の姿を、周囲の若い女性たちが羨ましそうに見つめていた。それも無理はない。
このパーティーに参加している独身女性たちの多くは、国雄目当てに来ていると言っても過言ではないからだ。
しかし、彼の威厳ある佇まいに圧倒され、直接声をかける勇気のある女性は誰ひとりいなかった。
その時、鋭い視線を二人に向ける女性が、パーティー会場に姿を現した。
女性は、紫野の落ち着いた茜色のドレスとは対照的に、真っ赤なドレスに身を包んでいる。
女性は蘭子だった。
蘭子は自信に満ちた足取りで二人のそばへ近付くと、国雄に向かって話しかけた。
「国雄様、ごきげんよう! こんなところでお会いできるなんて、光栄ですわ」
聞き覚えのある声に振り向いた紫野は、蘭子の姿を目にして思わず怯える。その憎悪に満ちた瞳が、鋭く紫野を捉えていたからだ。
蘭子に声を掛けられた国雄は、あえて穏やかな笑みを浮かべながら返事をした。
「以前どこかでお目にかかりましたでしょうか?」
「はい。秋のパーティーでお目にかかりましたわ」
「すみません、覚えていなくて……」
国雄が自分を覚えていないことに軽いショックを受けつつ、蘭子は背筋を伸ばし毅然とした態度で自己紹介をした。
「お会いできて光栄です。わたくし、大瀬崎蚕糸会社の現当主の娘、蘭子でございます」
蘭子の瞳は勝ち誇ったように輝きを増し、媚びるような視線を国雄に送りながら、女としての存在感を大胆にアピールしていた。
コメント
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頬を赤くして近付く蘭子。 軽くあしらわれ怒りで顔を赤くする。 口から出る言葉は真っ赤な嘘。 赤っ恥をかくのに相応しい、赤いドレス。 行き着く先は赤線か。 赤子の様に泣いたって誰も助けはしませんよ。 蘭子様は赤がお好きなのね( ・᷄ ֊ ・᷅ ) ばーーーあか←www
出たー蘭子ーー‼️自信満々で登場したけど…もう国雄さんは紫野ちゃんだけしか見てないよ😝覚えられてないし🤭国雄さん、紫野ちゃんを守ってあげてください!紫野ちゃん負けるなーー‼️明日が楽しみです。
蘭子退場して欲しい😡しのちゃんをくにおちゃん頼んだよ!