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氷のような見た目をした螺旋階段の最後となる一段を降り、足元に視線をやっていたルナールが顔を上げて周囲を見渡した。
「此処が、『清めの場』のようですね」
「……此処が、ですか。とても綺麗だ」
入り口の扉は遥か上で全く見えない。小さいが、綺麗な水の満ちた透明度の高い池が目の前に広がり、水底は淡く虹色に光っていてとても神秘的だ。周囲を漂う空気は少し冷たくて凛と張り詰めている。『清め』の為に使う場所だという事が納得出来る雰囲気に柊也はすっかりのまれている。
ほぉと息を吐き出して景色に見惚れる。そんな柊也を笑顔で見ていたルナールが、ゆっくりと柊也を床に降ろした。
「こういった景色は、トウヤ様の世界では珍しいのですか?」
「観光地にでも行かないと、見られないですね」
「これから沢山見られますよ。きっと……長い旅になるでしょうから」
「え、マジっすか。あ、いや——本当ですか、それ」
「楽な話し方で結構ですよ。トウヤ様は、私の『主人』となったのですから」
「い、いいんですか?でも……ルナールさん、多分僕よりも年上だし」
「今後の事を考えても主従関係をハッキリさせておいた方がいいでしょう。【純なる子】は等しく全てが傅くべき存在ですから」
「そ、そうなんですか?」
そう言った柊也を、ルナールが『違うよね?』と言いたげな顔でじっと見詰める。
「そう、なんだ?」
「はい、正解です」
和かに微笑み、ルナールが柊也の頭をいい子いい子と優しく撫でる。『ん?主従関係がどうこうって話の直後にコレはアリなのか?』と柊也は思ったが、絶妙な撫で加減が心地良くて猫のように目を閉じて甘えてしまう。そんな柊也の甘え顔にルナールが一瞬破顔したが、すぐに顔付きを正した。
「では、早速清めの儀式を始めましょうか」
「あ!そういえばそうでしたね。……えっと、この水に入って体を洗う、でしたよね?」
訊いたのに、柊也の言葉にルナールが返事をしない。
「……だよね?」
「はい。その通りです、トウヤ様」
訂正した言葉に対してはこくっと頷き、ルナールが当然の流れが如く柊也の服のボタンに手をかけた。一つ外し、二つ目を開けようとした時、柊也がルナールの手を掴んで脱がそうとする手を止める。
「自分で脱げますよ⁈」
「言葉遣い一つ訂正出来ぬのに、ですか?」
止める柊也の手から抜け出し、ルナールはどんどん手早く彼の服を脱がせていく。
「いや、あの、待って!恥ずかし——」
体を押したり、手を掴んだりして必死に阻止しようとしたが、柊也はルナールを止められない。上半身が裸となった柊也を、膝をついて座ったルナールの膝の上に座らせる。靴、靴下とを子供みたいに脱がされていき、ズボンも引っ張られた。最後の砦となったボクサーパンツを必死に掴み、柊也が「ルナールさんも脱がないと!」と叫ぶ。
すると、今まで一度も柊也の停止願いを聞き入れなかったルナールが、やっと止まった。
「そうですね、私も脱ぎますか」
ニッコリ微笑むルナールの表情に、何故か柊也は不安を感じた。何に対してかと問われると答えられない、とてもぼんやりとしたものだ。
フードのある緑色のローブを脱ぎ、ルナールが恥ずかしげもなく全ての着衣を脱ぎ捨てていく。徐々に露わになる引き締まった筋肉質の裸体に、柊也は同性にも関わらず見惚れてしまった。
(すごいな、ギリシャ彫刻みたいだ)
口を開けてぽかんとしている柊也にルナールが気が付き、彼が頰を染める。こうもジッと見詰められると流石に恥ずかしかったようだ。
「トウヤ様、入りませんか?」
「……はっ!そ、そ、そうですね!ちが、そうだね!」
何度も頷き、柊也が最後の一枚を脱いで、他の服の上に置く。ルナールも残りの衣類を全てを脱ぐと、端に服をまとめて置いた。
「行きますか、トウヤ様」
エスコートするように手を差し出し、柊也がそれを掴む。友人達とお風呂に入る時の様に堂々としていたいのに、柊也の頭は照れ臭い気持ちで一杯で、顔が真っ赤だ。
「段差がありますから、気を付けて下さいね」
「あ、はい。……って、冷たぁぁぁぁっ!」
足先が水に入っただけでも予想していたよりも冷たくて、柊也の体がガタガタと震える。ルナールはもう膝まで入っているのに、彼の方はこういった水温に慣れているのか、全然寒そうでは無かった。
「大丈夫ですか?このまま全身入れそうですか?」
「む、無理です!冷たいっす!」
「そうですか……では——」
ルナールが柊也の体をギュッと前から抱きしめた。互いに全裸だというのに抱きつかれ、「うわあああ!」と柊也が叫ぶ。
「これならば温かいでしょう?水温に慣れるまで、このままで」
「こ、こ、このままでふか!」
動揺し、柊也が舌を噛んだ。 胸筋が顔に当たるしルナールの心音がはっきりと聞こえる。しれっとした顔をしているのに心音はとても早くて柊也はちょっとだけ安心した。
(僕ばかりが恥ずかしい訳じゃないんだ……)
「水を温めてあげられれば良いのですが、私はそういった魔法は不得手でして。申し訳ありません」
ルナールのシュンとした声が柊也の耳に届く。
「すみません、心配させちゃって。でも、あの、水温に少し慣れてきたので、ちょっと大丈夫になってき……たよ。平気」
つい丁寧に話しそうになり、気を付けつつ話す。ルナールの心音の早さに引きずられるように柊也の鼓動も早くなり、そのおかげか体温が上がってきた。
「じゃあ、先に進みましょう。いけますか?」
「はぃ……うん、多分」
ルナールが柊也から離れ、柊也の腰を横から抱き、手を取って水の中へと進んで行く。前へ前へと進むたびに「ひゃぁぁ!」「うおっ!」「つめたぁぁぁぁ!」と柊也が叫ぶもんだから、ルナールは笑いっぱなしだ。
「頭まで浸かるらしいですが、出来そうですか?」
「は⁈」
「『全身を清める』と言っていましたからね。頭を含む、でしょう」
マジかー……と、柊也が遠い目をする。体が震え、唇は既に真っ青だ。これ以上先へ進むのは正直厳しい。腰まではなんとか入れたが、これ以上は一歩たりとも前になど進みたくはなかった。
「わかりました。では私にお任せあれ」
ルナールは一旦柊也から離れると、服を脱いだ場所まで急いで戻って行った。
そして、存在感の薄い、隅に置かれた持ち手の短いヒシャクを取り、ブルブルと震えて立ち竦む柊也の元へ急いで戻って来た。
「目を瞑っていて貰えますか?」
青い唇を引き結び、柊也が何度も頷く。瞼を強く閉じると、パシャッと水を掬う音が聞こえた。直後柊也の頭に水がかかり、肩をビクッと震わせる。ゆっくりと、少しづつかけ、肌を伝う水をルナールが手でのばしていく。頰や首、肩へと温かな手が移動して、柊也は寒さとは違う震えを体に感じた。
「もう少し、我慢して下さいね」
「う、うん」
瞼を閉じたまま柊也がじっとしている。そんな彼をルナールは恍惚とした顔で見詰め、水に濡れる手で肌を撫であげていく。動きに感情がのり、つい愛撫に等しい動きになってしまう。寒さで粟立つ肌、胸の尖りをわざと指先でかすり、その度に返ってくる反応をひっそりと楽しんだ。
息が上がり、興奮でルナールの下腹部が勃起する。今柊也が目を開ければ、確実に変態扱いされるだろう状況だ。
慌てて背後に回り、背中にも水をかけていく。白い肌を伝う水を舐めてしまいたい衝動を感じつつ、堪えながらルナールは柊也の肌を撫で続けた。
「腕を垂直に上げて下さい」
「うん」
体が冷えていて柊也は短い返事しか出来ない。
触れられる箇所からは度々感じたことの無い心地よさを感じ、柊也の中に微々たる悦楽が積もっていった。
(一体何なんだ?この感じは——)
腹の奥が疼く様な感覚に柊也は少し焦った。勃起しかねないくらいの疼きだったが、水の冷たさのおかげで耐える事が出来ている。だが、いつまで保つかはなんとも言えない。腰を濡れた手で撫でられ、背が反れた時は本当に危なかった。
それらも全てルナールには丸わかりで、反応の一つ一つを愛おしく感じてしまう。今日逢ったばかりなのに、今まで他者との関わりを極力避けてきた自分が、誰かを『愛おしい』などと感じる事がくるとは今まで思いもしていなかった。
(これが……『一目惚れ』というやつか?随分と厄介なものだな……自制が効かない)
柊也の腰を撫で、水に浸かる下半身は清め済みである事にちょっと残念なような、ホッとしたような……複雑な気分になりながら、ルナールが「終わりましたよ」と柊也に声をかけた。
頷きだけで応える柊也を地面のある方向へ体を支えてあげながら誘導する。水から全身があがり、近くにある棚に置かれていたタオルを手に取ると、それを使ってルナールが柊也を背中から包み込こんだ。
「ここで体を拭いて待っていて下さい。私も清めて来ますので」
ガチガチと歯を鳴らす柊也の体をタオルで拭きながらルナールが言った。柊也はそれを聞き、頷きだけで返事をする。そんな柊也を見てルナールは「失礼いたしますね」と声をかけたかと思うと、急に無言で柊也の唇に唇を重ねた。
柊也は驚きに目を見開き、棒立ちになっている。寒さで閉じられた唇をルナールは無理矢理舌でこじ開けると、柊也の口内にフウッと息を吹き入れた。その途端、柊也から失われていた体温が元に戻り、彼の唇からルナールが離れていく。
「……体は、温まりましたか?」
温まるどころか、顔も首も真っ赤に染まり、柊也は言葉を失っている。
「私でも使える、数少ない魔法の一つです」
(な、なるほどね!温める為であって、キ……キ、キスじゃあ無いのか!)
彼女いない歴=年齢である柊也は『んじゃコレは、ノーカンって事でいいよね⁈』と必死に自分へ言い聞かせた。
「振り向かずに、さぁ……体を拭いて」
ルナールが柊也の肩をポンと叩き、水の中へと戻って行く。魔法の為だとはいえ、唇を奪えた事で感情が昂り、濡れて萎んでいる尻尾がユラユラと揺れてしまう。怒張するモノははち切れんばかりに力強く滾って欲求不満を訴える。とてもじゃないがこのままでは柊也の元へは戻れない。
深く息を吸い込み、息を止め、底の深い場所で一気に潜った。
昂りを抑え、欲求が落ち着くのをじっと待つ。無心になり、呼吸が苦しくなる直前まで待ってから、ルナールは水から顔をあげた。
顔にかかる髪を手でかき上げ、尻尾をブルブルと震わせて水を飛ばす。下を向いて自身の半身を確認すると、流石にある程度落ち着いてくれていたからコレならば柊也の前に行っても問題は無いだろう。
ルナールが水中を大股で歩き、柊也の傍に戻って行くと、 着替えの済んだ柊也がもう一枚あった大きなバスタオルを広げて立っていた。ルナールの戻りを待っているのだが、ポカンと口を開け、視線が一切ルナールから動かない。
(水も滴るいい男ってのは、この事なのかな?)
厚い胸板や二の腕を伝う水は妙に色っぽく、濡れる髪をかきあげる仕草は艶かしい。長い脚で水をかきわけて進む動作は雄々しくて、同性だろうが強制的に惹かれるものがあった。
「ありがとうございます、トウヤ様」
「いいんだよ」
ルナールがタオルを受け取り、体を拭いていく。その様子をそわそわした気分のまま見ていると、視線に気が付いたルナールが柊也に微笑みかけた。
目が合った瞬間、カッと顔が熱くなり柊也が慌てて顔を逸らす。『いくら綺麗だっていってもこの人は男だよ⁈』と心の中で柊也は叫んだ。
元々着ていた服を再度着て、ルナールがタオルをたたむ。柊也の方へ振り返ると「では、戻りましょうか」と声をかけた。
「あ、うん。そうだね、戻らないと、だね」
無駄に何度も頷き、柊也がルナールの元へ遠慮がちに近づく。
「では、また私が抱えて——」と言ったルナールの言葉を、柊也は「帰りは歩きますよ!」と叫んで打ち消したのだった。