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無名の灯 番外編

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無名の灯 番外編

36 - 第36話 沈黙の序列

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2025年07月21日

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チャイムが鳴って久しい。残る数人の生徒たちも、既にそれぞれの空気を纏っている。

窓際にいた遥は、誰とも目を合わせず、鞄も開かず、ただ俯いていた。

机に置いたままの手が、少しだけ震えていた。


そんな遥の前に、蓮司が立つ。笑っている。

いつもの、あの笑い方──声に出さず、喉の奥で笑うような、喉元の毒が伝染するような。


「……まだ、怒ってるの? 日下部のこと」


遥は答えない。

だが、蓮司の口元はますます歪んでいく。


「ほんと、おまえってわかりやすい。声には出さなくてもさ。……目が、全部言ってる」


蓮司は一歩踏み出して、遥の机に手を置いた。

小さな音が、蛍光灯の鳴き声と混ざって消える。


「おまえが何を思ってるかなんて、どうでもいいってこと、まだわかんないんだ?」


その瞬間、ドアが開いた。


担任の教師が入ってくる。

グレーのスーツ、くたびれたネクタイ、貼りつけた笑顔。


「──まだ残ってたのか、蓮司。遥も」


蓮司は軽く笑って頭を下げた。


「はい、ちょっと教科書探してました。ね?」


遥の方を振り向き、意味深に笑う。

遥は何も言わず、立ち上がろうとする。


だが、教師の声が遮った。


「遥、おまえさ……最近ちょっと態度、よくないな」


瞬間、空気が変わった。

蓮司がわざとらしく目を伏せる。


教師は、まっすぐ遥を見据えて言う。


「昼のこともだ。日下部のこと、また何かあったのか? 蓮司がそう言ってたぞ。注意してやったんだよな?」


「……ちが──」


遥が言いかけた瞬間、教師が机を指さす。


「座れ。言い訳する前に、自分がどう見られてるか考えろ。誤解されるような態度を取る方が悪い。わかるな?」


遥の口が閉じた。

言葉が、喉の奥に沈んだ。


蓮司がまた、笑った。

今度は、見せつけるように。

教師の背後で、まるでそれが演技の成功だったかのように。


「──いい子にしとけよ。おまえ、最近ほんとに危ういからな」


教師が去る。

蓮司は、ふっと息を吐く。


「ね? 言ったでしょ。おまえが何を思ってても、意味なんてないんだよ」


遥は、立ち上がれなかった。

机の縁に置いた指先が白くなっていた。



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