テラーノベル
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放課後の教室はざわつきが去り、柔らかな夕陽だけが窓辺を照らしていた。遥はいつものように、机に伏せていた。誰にも触れられたくない世界のなかで、ただ時間をやり過ごすだけだった。
「……まだいるのか」
日下部の声が背後から静かに響いた。
遥は驚いて顔を上げると、そこには疲れた目をした日下部が立っていた。彼もまた、何かから逃げているような、そんな影を背負っている。
「なんで、まだここにいるんだよ」
遥は吐き捨てるように言った。だが、その言葉は自分自身に向けたもののようだった。
日下部は少し間を置き、慎重に言葉を選ぶ。
「おまえ……一人にしとくの、怖いんだ」
遥は息を呑んだ。言葉の重みが胸を刺した。今まで誰もそんなことを言ってくれなかった。
「おまえが壊れそうで、見てられない」
その言葉に、遥の目に熱いものが溢れた。彼は立ち上がり、窓の外を見つめた。
「壊れるのは、もう慣れてる」
日下部は無理に笑った。
「だったら、少しだけでも、俺に触らせろよ」
遥は振り返り、少しだけ肩を震わせた。拒むこともできず、受け入れることもできず、ただその場にいた。
夕陽が二人を包み込み、壊れそうな距離が、ほんの少しだけ、動き出した気がした。
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