💙「あなたはなんでいつも急に現れるんですか?」
💜「ん?偶然じゃね?」
💙「嘘つけよ……」
深澤は相変わらずのんびりした顔で、ベンチの背もたれに腕をかけてる。
俺はため息をつきながら、気持ち離れるくらい横に動いた。
💜「で?部活とコース、どうする?」
💙「え?」
💜「もうすぐ決める時期だろ?オリエンとか来週じゃなかったけ」
💙「あぁ…」
そういえば、そうだった。
俺がこの学園に入って、二週間。
たった二週間なのに濃すぎる。
白雪狩りの事件、深澤と阿部さんと出会い、ラウールには女装させられ、挙句の果てキスされた……
思い出したくないことだらけで、ため息がでる。
💙「もうそんな時期なんだ」
💜「まぁ、ここは中等部からいるやつが多いからさ、大体もう決まってるけどな」
確かに。
この学園の大体の生徒は、中学からずっとここにいるエリートだ。
部活も、進むコースも、全部が将来に直結している。
この学園は音楽・芸能・芸術・ビジネスのすべてに特化した名門校。
在籍してるのは、大企業の跡取り、芸能一家、政治家の子どもたちなど。
俺みたいなやつは、この学園にいることすら許されない。
💙「…部活かぁ。どれもレベル高いよな。プロしかいないし」
💜「はは、まあな」
深澤が笑う。
軽く言ってるけど、こいつもその”プロ側”なんだよな。
💙「俺は音楽関係……かなって思ってます。元々それでここ目指したから」
💜「音楽か、翔太ぽいな。 俺はビジネスコースなんだけどさ、部活は入ってないんだよな〜。将来もう決まってるし」
💙「将来って…ゲームとかの?」
💜「そう、うちの親のとこ」
流石は、アミューズメント企業の社長の息子。
💜「暇だしさ、翔太が行くとこ行こっかな〜 」
💙「は?なんでですか」
💜「ん〜?なんとなく?てかなんでそんなに嫌そうなの?わら 」
軽いノリで言って、肩をすくめる深澤。
その”なんとなく”が一番怖いんだよ……
💜「てかさ、翔太。スマホ出して」
💙「え?」
💜「いいから」
意味もわからず、ポケットからスマホを取り出すと、深澤は自分のスマホを取り出して、俺のスマホと並べた。
数回タップして、何か操作してる。
💜「はい」
💙「……え?」
受け取って画面を見ると、通知のとこに
“ふっかと友だちになりました”
💙「…ちょ、なんで?!」
💜「なにかあったらいつでも連絡ちょうだいよ」
💙「いやいや、そういう問題じゃ…」
困惑してる俺をよそに、深澤は軽く笑った。
いつもの飄々とした笑顔。
💜「せっかくだし、ほら」
俺のLINEに1枚の写真が送られてきた。
表示されたのは、部活とコースの一覧表。
💜「これ、先生からもやったやつ。参考にしなよ」
💙「…ありがと、ございます」
💜「どういたしまして」
そうすると、深澤が時計をちらっと見た。
💜「じゃあ、そろそろ戻るわ……あ、既読無視とかやめてよ?」
そう言って手をひらひら振りながら、教室の方へ歩いって行った。
新しいトーク欄に”ふっか”の名前。
なんか、嫌な予感しかしない。
湯気がまだほんの少し残る体をタオルで拭きながら、鏡越しに自分の顔を見る。
スノア学園に入って、まだ二週間。
なんか全部が濃すぎて信じられないくらい。
髪を乾かして、いつも通り念入りにスキンケアをしてベットに倒れ込み、スマホを手に取る。
ふっかとのLINEのトークを開いて、送ってくれた写真を見る。
音楽、芸能、芸術、ビジネス──どれも一流の道。どこを選んでも簡単じゃない。
でも俺は、やっぱり音楽がいい。
思わず目を閉じる。
浮かぶのは、小さい頃、パパがギターを弾きながら口ずさんでた光景。
「翔太、音って楽しいだろ?」って。
テレビでは、キラキラした衣装を着て、キレッキレに踊りながら歌う男性アイドルたち。
あの瞬間、こんな世界があるんだって、心が跳ね上がるくらいワクワクした。
それからは、歌もダンスも全部好きになった。
学校終わりにはボイストレーニングとダンス教室に通った。
必死に親にお願いして、やっと通わせてもらった。
中学の終わりごろまで、ずっと通っていたけど、高校受験が近づいて、行けなくなっちゃった。
今は落ち着いたころだし、早く行きたい。
そう思った瞬間、ふっと、違う記憶が蘇る。
──薄オレンジの夕焼けに染まった公園。
風がやわらかく吹いて、ブランコの鎖がかすかに軋む。
「ねぇ、その歌もう一回うたって!」
「翔太の声、だいすき」
その言葉が、頭の奥で響く。
懐かしすぎて、胸の奥がきゅっとなった。
💙「……元気かな、りょうちゃん」
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