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──井河楽器株式会社 専務取締役 井河 千夏
元恋人、千夏の名刺が、美花から贈られた袋の中に入っていた。
「アイツ……!!」
名刺が入っているという事は、千夏が美花に接触したのだろう。
「美花に…………何をしたんだ!?」
圭は、不意に思い出す。
バレンタインデー前日に、美花と会った時。
彼女が目を腫らしつつ、虚ろな表情で『圭ちゃんは、私の事、好き?』と聞いてきた事を。
美花が手にしていたチョコレートとプレゼントが、グシャグシャにされた痕跡が残っていた事を。
彼女は圭に会う前に千夏と遭遇し、彼の事で問い詰められた挙句、贈り物を無惨に踏みにじられたのだろう。
さらに遡れば、昨年の十一月頃、義妹の奏と会っていた美花を迎えに豊田駅へ行き、彼女を待っている時にも、千夏から『圭ともう一度やり直したい』と連絡が入った。
今も千夏から圭に、時々連絡が来る状態である。
だが、忙しいのを理由に、返事をせずに放置していた。
「俺が…………俺が……千夏に対して、けじめをキッチリつけなかったせいで……美花は……!!」
後悔を滲ませながら、手のひらにある千夏の名刺を、グシャリと握り潰した彼。
圭は、険しい表情のままスマートフォンを手にすると、千夏に電話を掛けた。
『もしもし!? 圭……!』
呼び出し音が一度鳴った後、千夏は声を弾ませながら、すぐに応対する。
「…………お前、彼女に…………何を言った?」
『彼女って…………浦野美花さんの事?』
「ああ。そうだ。俺の恋人に……お前…………何をした?」
『……あら。浦野さんが圭の恋人だって言ってたの、本当だったのね』
低く、ドスの効いた声音で問い掛けた圭に、画面の向こう側の元恋人が、ふふふっと不敵に笑う。
『あなたの過去を、彼女に話したわ。だって圭は女好きの遊び人だし、純真無垢な彼女の手に負えないでしょ? それに、あなたも分かってるでしょ? 私が圭とやり直したいって思ってる事……。あなたを理解できるのは私だけって事……』
「ふざけんな! 彼女が俺に贈るチョコレートとプレゼントを踏み潰したのも、お前の仕業だろ!?」
『ふふふっ……』
普段、あまり感情を表立たせない圭の顔が熱くなり、声を張り上げる。
しかし、千夏は『どこ吹く風』と言わんばかりに、不気味に笑い捨てた。
『私、あなたとヨリを戻せるなら、何でもする。それに彼女…………子どもが産めない身体なのよね? 私なら、あなたとの子ども……いや、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの跡取りを産めるのよ?』
千夏が放った言葉に、圭の怒りの炎に油が注がれた。
コメント
1件
うわあ、これは重い展開ですね……。千夏の「何でもする」という執着と、美花の一番触れられたくない部分を抉ってくる言葉の悪質さに鳥肌が立ちました。圭が「けじめをつけなかったせいで」と自分を責めるシーンも胸が痛いです。彼の過去の関係が今の美花との関係を壊そうとしている恐怖と怒りがひしひしと伝わってきました。続きが気になります。
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蒼乃 月
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