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つーちゃん
279
通知音が止まらなかった。
一つ鳴るたび、胸の奥に何かが沈む。
手が勝手にスマホを取って、画面を開いてしまう。
そこに、また新しい言葉が浮かぶ。
〈遥、あれマジでやばかったww〉
〈こっちまで恥ずかしくなるレベルw〉
〈あんなの見せられて、保護者ドン引きしてたぞw〉
〈“ひとりでいる時間”とか、痛すぎww〉
笑いが文字の形をして流れ続ける。
その中に、“遥”という名前が混ざっている。
その文字だけで、世界が崩れる。
〈遥って、ほんと空気読めないよな〉
〈てかさ、なんであんな顔で出てこられるの?〉
〈何考えて生きてんの?〉
〈見てて不快なんだよねw〉
心臓の奥で何かが軋んだ。
怒りでも悲しみでもない。
――ただ、「もうやめてくれ」と思った。
〈先生も無理やりやらせたの?w〉
〈でも遥も断れないとか、マジで奴隷体質w〉
〈見てて哀れw〉
〈泣くなら最初から出るなよw〉
遥の胸の中に、冷たい穴が空いた。
自分が笑われているのに、それを止める言葉が何一つ浮かばない。
誰も庇わない。誰も“やめろ”と言わない。
――いや、言う必要すら感じていないのだろう。
笑いの輪の外に、もう自分はいない。
〈“ひとりでいる時間が怖い”とか言ってたけどw〉
〈お前、もう一生ひとりでいいだろww〉
〈いや、むしろその方が世界のためwww〉
〈生きてるだけで見ててキツいww〉
画面がぼやける。
涙じゃない。
視界の奥が霞むほどに、心が削がれていく。
〈遥、ほんとに病んでそうww〉
〈スピーチで自己紹介してた?w〉
〈“ぼくは弱いです”って宣言?w〉
〈見てるこっちが恥ずかしい〉
笑いの記号が並ぶたびに、胸の奥で音がする。
壊れる音。
でも、その壊れ方すら、もう他人事のように感じた。
〈次、文化祭の反省会でまた喋ってよww〉
〈もう一回笑わせてw〉
〈“孤独の天才”遥くんww〉
〈見世物としては最高ww〉
スマホの光が、夜の部屋を白く照らす。
遥の影だけが、壁に小さく揺れていた。
その震えは寒さのせいじゃない。
笑われ続ける痛みが、身体の奥で脈打っている。
返信欄に指を伸ばしても、何も書けない。
謝っても、何も変わらない。
消しても、終わらない。
ただ、無数の文字が、笑い声のように画面を流れ続けた。
〈ねえ、誰か録画してた?w〉
〈あれ、また見たいww〉
〈永久保存版www〉
その瞬間、遥の呼吸が止まった。
胸の奥がぎゅっと掴まれる。
逃げ場のない世界で、名前だけが何度も、何度も、突き刺さる。
“遥”という文字が、もう自分ではないように思えた。
それでも画面を閉じられなかった。
誰かが笑うたびに、自分の存在が確認できる気がしてしまった。
――たとえ、それが地獄でも。
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