テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
通知音が止まらなかった。
一つ鳴るたび、胸の奥に何かが沈む。
手が勝手にスマホを取って、画面を開いてしまう。
そこに、また新しい言葉が浮かぶ。
〈遥、あれマジでやばかったww〉
〈こっちまで恥ずかしくなるレベルw〉
〈あんなの見せられて、保護者ドン引きしてたぞw〉
〈“ひとりでいる時間”とか、痛すぎww〉
笑いが文字の形をして流れ続ける。
その中に、“遥”という名前が混ざっている。
その文字だけで、世界が崩れる。
〈遥って、ほんと空気読めないよな〉
〈てかさ、なんであんな顔で出てこられるの?〉
〈何考えて生きてんの?〉
〈見てて不快なんだよねw〉
心臓の奥で何かが軋んだ。
怒りでも悲しみでもない。
――ただ、「もうやめてくれ」と思った。
〈先生も無理やりやらせたの?w〉
〈でも遥も断れないとか、マジで奴隷体質w〉
〈見てて哀れw〉
〈泣くなら最初から出るなよw〉
遥の胸の中に、冷たい穴が空いた。
自分が笑われているのに、それを止める言葉が何一つ浮かばない。
誰も庇わない。誰も“やめろ”と言わない。
――いや、言う必要すら感じていないのだろう。
笑いの輪の外に、もう自分はいない。
〈“ひとりでいる時間が怖い”とか言ってたけどw〉
〈お前、もう一生ひとりでいいだろww〉
〈いや、むしろその方が世界のためwww〉
〈生きてるだけで見ててキツいww〉
画面がぼやける。
涙じゃない。
視界の奥が霞むほどに、心が削がれていく。
〈遥、ほんとに病んでそうww〉
〈スピーチで自己紹介してた?w〉
〈“ぼくは弱いです”って宣言?w〉
〈見てるこっちが恥ずかしい〉
笑いの記号が並ぶたびに、胸の奥で音がする。
壊れる音。
でも、その壊れ方すら、もう他人事のように感じた。
〈次、文化祭の反省会でまた喋ってよww〉
〈もう一回笑わせてw〉
〈“孤独の天才”遥くんww〉
〈見世物としては最高ww〉
スマホの光が、夜の部屋を白く照らす。
遥の影だけが、壁に小さく揺れていた。
その震えは寒さのせいじゃない。
笑われ続ける痛みが、身体の奥で脈打っている。
返信欄に指を伸ばしても、何も書けない。
謝っても、何も変わらない。
消しても、終わらない。
ただ、無数の文字が、笑い声のように画面を流れ続けた。
〈ねえ、誰か録画してた?w〉
〈あれ、また見たいww〉
〈永久保存版www〉
その瞬間、遥の呼吸が止まった。
胸の奥がぎゅっと掴まれる。
逃げ場のない世界で、名前だけが何度も、何度も、突き刺さる。
“遥”という文字が、もう自分ではないように思えた。
それでも画面を閉じられなかった。
誰かが笑うたびに、自分の存在が確認できる気がしてしまった。
――たとえ、それが地獄でも。