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るしゅ
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夜が終わったことに、気づかなかった。
カーテンの隙間から、白んだ朝の光が部屋に滲む。
それでも、遥は動けなかった。
スマホの画面は、まだ光っている。
バッテリーは赤く点滅しているのに、指が離れない。
最後に見たメッセージは、ひとことだけ。
〈遥、まじで消えてくれ〉
――笑いも、絵文字もなかった。
それが、逆に冗談じゃないことを示していた。
視界の奥で、ゆっくりと何かが沈む。
音もなく、世界が水の底に沈んでいくようだった。
掛け布団を押しのけ、身体を起こす。
肩から落ちるシャツが湿っていて、胸元が冷たい。
手のひらには、スマホの角の跡が赤く残っていた。
(……行かないと)
言葉に出したのか、頭の中でつぶやいたのか、自分でもわからなかった。
部屋を出て、制服に袖を通す。
鏡の前に立つと、顔色は灰のようにくすんでいた。
唇を噛む。血の味がした。
それでも、何も変わらない。
玄関に立つ。
靴を履く手が震えて、紐がうまく結べない。
時計の針は、いつもより早く進んでいる気がした。
遅刻したくないわけじゃない。
――ただ、“また行かなくてはいけない場所”が、そこにあるだけだった。
家を出て、風に当たる。
冷たさに、少しだけ現実を思い出す。
けれどそれも、すぐに薄れていった。
歩道を歩くたび、アスファルトの黒が遠くへ続いていく。
通学路の角を曲がると、同じ制服を着た生徒たちの声がした。
笑っていた。
楽しそうに、昨日のスピーチの話をしていた。
「昨日のあれ、ヤバくね?」
「“ひとりでいる時間”とか、マジで病んでるよな」
「でも本人、まだ気づいてない感じが一番ウケる」
遥の足が止まる。
視線を下げて、歩き出す。
誰の声かなんて、もう考えたくなかった。
けれど、耳は勝手に拾ってしまう。
「また何かやらかすんじゃね?」
「つぎ、合唱でも前出るらしいよ」
「ほんと笑わせてくれるよな」
風が吹いて、制服の裾が揺れた。
朝の光が冷たく差し込む。
その光の中で、自分の影だけが薄く伸びていた。
どこまで歩いても、誰とも並ばない影。
消えてしまえばいいと思うほど、それでも足は止まらない。
(行かなきゃ)
(今日も、また)
世界が自分を拒むことを知っていても、
それでも歩くしかなかった。
歩くたびに、胸の奥でひびが広がる音がした。
それは“生きている”音ではなく、
“壊れながら進む”音だった。