Side 優羽
彪斗くんが帰って、ふたりっきりになったわたしと寧音ちゃん。
「ふぅ、騒々しい人もいなくなったことだし、改めてよろしくね、優羽ちゃん」
「うん…よろしくね…」
「ん?どうしたの?なんか元気ないね?」
「…彪斗くん、怒ってないかな…って」
「えー?」
「だって、最後なんだか元気なかったし」
ちょっと、傷ついたように見えたし…。
「いいのいいの!あいつ、いっつもあんな感じで威張ってるから。だって、優羽ちゃんだって困ってたんでしょ?普通に考えてもオカシイ話だよ。ましてや、『あの彪斗』なんか一緒に暮らすなんて!」
「私が優羽ちゃんだったら、人生・ジ・エンド、だよ」とお手上げのジェスチャーをする寧音ちゃん。
「ね、そんなことより、優羽ちゃん転校してきたばっかりなんでしょ?」
「え、う、うん…」
「私、今日は久しぶりに一日オフなの!授業にも出ないつもりだからさ、この学校の紹介も兼ねて、校内見学しに行こうよ」
「え、でもわたしは授業にでなきゃ…」
「固いこと言わなーい!多少の融通はきいてくれるのが、この学校のいいとこなんだから」
いこいこ!と背中を押され、わたしは寧音ちゃんと部屋を出て行った。
※
「ね、ちょっと早いケドお昼食べに行こうよ。この学園自慢の食堂を紹介するよ!」
と寧音ちゃんが連れて行ってくれたのは、購買館の一階にある食堂だった。
食堂って言っても、まるでホテルみたいに広々としていて豪華な場所だった。
テラスまであって、湖と緑豊かな森を眺めながら食べれるようになっていて、ほんとに学校ということを忘れてしまう。
「芸能人とその卵しか通えないところだからさ、リラックスできるように、こういうリゾートっぽくなってるんだよね」
テラスでとても美味しいパスタセットを食べながら、わたしは寧音ちゃんにこの特殊な学校の仕組みをいろいろ教わった。
「すごいんだね、ここって…。まるでお金持ちしか通えない学校みたい」
「そうみえるでしょー?でも実はけっこうエグいとこなんだよー?授業料としてギャラのほとんどは取られちゃうし、卵だったらデビューしてから数年は決められた仕事しかさせてもらえないし。おまけに年収や人気でクラスや住む場所まで仕分けされちゃうんだから、けっこう息苦しい場所だよ」
「住む場所まで?そう言えば、生徒会の人たちのお部屋は別館だったけど、どうしてなの?」
寧音ちゃんはちょっとはにかんだ笑顔を浮かべて答えてくれた。
「うちの学校の生徒会って普通の学校とちがって特殊なんだよね。年収や人気が一番高い人間から順に、強制的に役職に就かされて、運営を押し付けられるんだよ。だから、ああやって別館に住まわせてもらったり、って特別扱いにしてもらえるんだよね。まぁ、好き好んで入ったわけじゃないから、みんなほとんどヤル気なしで、ただ存在するだけって感じなんだけど」
「へぇ…。じゃあ生徒会のメンバーになったってことは、寧音ちゃんはやっぱり売れっ子ってことなんだね」
「って言っても、いいもんでもないよぉ?周りの生徒からは憧れとも嫉妬の対象とも見られて、微妙な立場だし。かといって抜けたら『人気落ちたんだ』って後ろ指差されるし。せっかく仕事から解放されてプライバシーが守られる場所にいるっていうのに、今度は同じ立場の人間から監視されなきゃならないなんて、窮屈な話だよ」
なんて言うけど、ケタケタ笑いながら他人事みたいに言うあたり、やっぱり寧音ちゃんって、小さな体の中におっきな自信とかエネルギーを持った強い子なんだな、って思う。
わたしは、大丈夫なのかな…。
そんなすごい人たちが集まる生徒会に入れられたりなんかして。
そもそも、彪斗くんって、どうしてわたしみたいな一般人を生徒会に入れることができたんだろう。
彪斗くんって…謎なところ、多いよな…。
芸能界でもけっこう名の知れた須田さんだって、彪斗くんの顔色をうかがうような態度をとってたし…。
ただの芸能人じゃない気がする…。
「ね、寧音ちゃん。彪斗くんってどういう人なの?」
「え?」
「だってなんか、他の人とちがう感じがするから」
寧音ちゃんは食後に頼んだ甘いキャラメルラテを口に付けながら渋い顔をした。
「彪斗ねぇ…。あいつは自他ともに認めるVIP中のちょーVIP。この学園の理事長の孫なのよ」
「え!」
「ちなみに、お父さんはここの校長。でもそれでVIPってわけじゃなくて、あいつ自身がちょー売れっ子の芸能人なんだよね」
「じゃ、もしかして、彪斗くんの生徒会の役職って…」
「そそ。生徒会長だよ」
やっぱり。
なんか、いろいろ納得…。
生徒会長ってことは、きっとものすごいお金を稼いでいて、人気があるってことなんだよね…。
あれ。
でも。
彪斗くんをテレビとかで見たことってないな。
そんな売れっ子さんだったら、どこかで見たことあるはずなのに、どうしてだろ。
と聞くと、寧音ちゃんはちょっと声を潜めて教えてくれた。
「今は確かにあまり表にはでていないけど。昔は毎日のようにテレビに出てたんだよ。ほら、覚えてない?ドラマやCMに引っ張りだこでさ、『女の子みたいにかわいい男の子』って一世を風靡した子役」
「…あ!いた!『あやちゃん』!」
「そそ。あの『あやちゃん』が彪斗だよ。成長期に入って人気が下火になったのを理由に引退したんだけど、ホントを言うと、彪斗自身は子役なんかやりたくなかったらしんだよね。彪斗の家って、芸能一家だからさ、お父さんに無理矢理やらされてたみたい。引退してからは、本当の夢だったアーティストの道に行ったんだけど、やっぱり、いやいや子役やっていた時のトラウマか、自分で表に立って歌うのは気が進まないみたいで、提供する側にいっちゃったの。今ヒットしてる曲のほとんどは、『A』って名義で彪斗が手掛けたやつだよ」
知ってる…。
『A』って次々にヒット曲を出している新進気鋭の作曲家だ。
「この作曲家はすごい」って、お父さんも言ってた。作曲家としての才能もあるけど、なにより歌手に合う音やリズムを見つけるのが上手いって…。
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