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ラウールは入学した時から異端児といわれていた。
それは授業中に如実に現れる。
例えば『変身術』の授業。
グラスを革靴に変える呪文『カリ・カルツァ』というものがある。
よくある失敗例は『ガラスの素材のまま靴に変え、割れてしまうこと』
履いて歩こうとした途端にパリンッと砕けてしまうのだ。
担当教授のミネルバ・マクゴナガル校長はその度に
マ「シンデレラごっこをしているのではありませんよ」
と言うのだ。
しかし、当時1年生のラウールはひと味違う。教科書と目の前のグラスを無言でジーーーッと見つめる。
マ「Mr.ラウール。どうしたのです。杖を振りなさい」
🤍「はーい。……カリ・カルツァ」
シュルルルッ…コトン
グラスはみるみるうちに形を変え、机の上にはつま先からかかとまで、全て透明のガラスの靴が乗っていた。
失敗だ。周りの生徒もマクゴナガル校長も思ったであろう。
マ「……Mr.ラウール。集中が足りないようですよ」
🤍「いや、見てください」
ラウールは立ち上がり靴を床に置いた。そして履いていた靴を脱ぎゆっくりガラスの靴へ足を入れた。
ジャストサイズ。
周りが全員が注目している中、ガラスの靴を履いたラウールは1歩前へと強く歩み出す。
────コツンッ!
鋭い音が響くが、靴にはヒビ1つとして入らない。
ラウールはどんどん歩みが軽快になる。それでも靴はビクともしない。
周りが一気にザワつく。
マクゴナガル校長はメガネを押上げ凝視する。
ラウールは勝ち誇った顔で言った。
🤍「これならシンデレラも舞踏会にいけますねっ」
マ「…見事です。でも、どのように? 」
🤍「靴の本質は、足を守って歩行する頑丈さ、
ガラスの本質は、光を透かす透明さです。
ガラスは脆いものだって固定概念があるからいけないんです。ガラスの靴にする、じゃなくて強い硬度を持つ透明な靴に変えるって思えばいいんです」
🤍「あと唱える呪文はカリ・カルツァだけど、頭の中でプロテゴも一緒に唱えて呪文に編み込んでます」
マ「素材のもろさを克服し、概念を覆すとは…素晴らしい。レイブンクローに50点」
🤍「やったー!!」
そのような事もあり、ラウールは同級生はもちろん、上級生や教授からも注目の的だった。
クラスメイトの1年生は揃ってラウールに話しかけに行く。
〇「ラウールくんすごいね!」
△「僕なんて革靴に変えようとするだけで精一杯なのに」
☆「よかったら仲良くしてよ!」
一躍人気者となった。多くの生徒がラウールと友達になろうと集まったのだった。
ラウールは所属寮関係なく近寄ってきたものと共に行動するようになった。
△「ねぇ、ラウールくん!次の週末一緒にチェスでもしよう!」
🤍「あ〜僕呪文の術式の解読したいんだ!」
△「そ、そうなんだ」
🤍「そういえばさっきの────の呪文さ、~~の所を・・━・━・にしたらもっと応用できると思わない!?」
△「えっと…それより、次のクディッチの試合どこが優勝すると思う?」
🤍「クディッチといえば、魔法で勝手に動くボールあるよね? あれに掛けられてる魔法ってどうなってるんだろうね〜なんか見てたら動きの法則からなんか術式が見えそうなんだけど…」
△「あはは… 」
本来1年生なんて11か12歳の子供だ。
休み時間や週末くらいは勉強のことを忘れて趣味やお菓子の話をしたいものだ。
悪意は無いものの、気づけばラウールと同級生の間には距離ができていた。
今や話しかけてくる者もおらず、みんな「頭ひとつ抜けた天才」と認識していた。
△「ラウールくん、悪い子じゃないし本当にすごい子なんだけど…友達としては話が合わないっていうか… 」
☆「課題のこと聞きに行った時も次元が違くて結局理解できなかったんだよね」
〇「なんか勉強の話ばっかりしてて…楽しいのかな?」
同級生がそう話している所をたまたま通り掛かったこともある。
しかし、ラウールは傷つかなかった。
ただ、自分が純粋に興味を持っている魔法の話を誰とも共有できないのは退屈だった。
ラウールは廊下をひとりで歩く。途中にあった自習室で呪文の練習をしている2年生がいた。どうやら上手くいっていないようだ。
🤍「それ、教科書だと『右から下に振る』ですけど多分、右斜め上からの方が術が早く出ますよ」
□「ゲッ、ラウール…!」
*「下級生が先輩に口出しすんなよ」
🤍(先輩たちの為になると思って言ってるのに……)
少しでも気になることがあれば口を出してしまう癖のせいで、プライドの高い上級生からは煙たがられることもしばしばあった。
苦い顔をする先輩を横目にラウールが向かった先は図書室だった。
話の合う友人がいなく、一緒に行動する者もいない。やがて1人で図書室に籠もってあらゆるジャンルの魔術書を読み漁るようになっていた。
本を読むのは好きだ。自分の知らない魔法の宝庫だから。
🤍(みんな魔法を学びに来てるんじゃないの?なんで魔法の話をしたがらないんだろ…)
そんな学校生活が2年生なかばまで続いたのだ。
ラウールが2年になった年の12月のことだった。
最後の授業が終わった放課後、いつものように図書室へ行こうと席を立った時にふと教授に呼び止められた。
教「ラウール、ちょっと頼まれてくれないかい?」
🤍「なんでしょう?」
教「この資料なんだけどね、君の寮のMr.阿部に渡してくれないか」
🤍「え?なんで僕が? 」
教「行ってみたら分かるさ。頼む、この通りだ」
🤍「…は〜い。何年生ですか?」
教「4年生だ。今日はもう戻ってると思うぞ」
🤍(『行ってみたら分かる』って、上手く人を使うための常套句みたいなもんだよね)
🤍(本読みたいのに)
渋々資料を受け取り、レイブンクローの寮へ戻る。
部屋の場所を聞いたラウールは階段をコツコツと上がっていく。
🤍「アベ…アベ…あ、ここか」
そこは5人の寮生が居る相部屋だ。部屋の表札に複数人の名前があり『Abe』という表記があった。
コンコン
▽「はい、どちらさま?」
🤍「あの…レストレイド教授に頼まれて。アベさんって方はいますか?」
▽「あぁー阿部ね。居るよ、入って」
🤍「失礼します」
部屋に入るとそこには異様な光景があった。
広い部屋の一角だけ、天井に届きそうなほどに積み上げられた魔術書、真っ黒に見えるほどに書き込まれた羊皮紙、散乱した文房具、何に使うか分からないような怪しい器具…明らかに違う空気感を放っていた。
応対してくれた先輩が苦笑いしながら
▽「おい阿部、お客さん」
と呼びかけた。すると山積みの魔術書の中から1人の男性がヒョコっと顔を出した。
💚「はーい!ごめんねぇ散らかってて。阿部は俺だけどどうしたの? 」
丸メガネを掛けたその男が阿部という者だったようだ。
🤍「あの、レストレイド教授からの預かり物です。この資料を阿部先輩に渡すようにって…」
💚「あぁ頼んでたやつか! ちょうど欲しかったんだ!ありがとう」
阿部は嬉しそうに微笑み手を伸ばしてきたので資料を渡す。
🤍「じゃ、僕は失礼します」
💚「は〜い、ごめんねわざわざ」
目的は果たしたのだ。もうこの部屋に用はない。
踵を返し部屋を出ようとしたが、たまたま机の上にあった1枚の羊皮紙が目に止まった。
ルーン文字の数式が長々と書かれたものだった。
恐らく昔からある古い呪文の解読と応用だろう。
その時、いつもの癖がでてしまった。
🤍「あの、そのルーン文字の並び、三行目の計算間違えてます。あとそのままだと魔力が半分も伝わらないです。普通の数秘術じゃなくて古代ギリシャの円環配列を使って繋げた方が80%くらいにはなると思います」
💚「…え?」
あ、また言っちゃった。怒られちゃうかな。
そう頭の中で気づいた時には遅かった。阿部の視線はラウールに向けられていて目を見開いていた。
阿部はガタッと立ち上がり羊皮紙を凝視。
なんとも言えない気まずい空気を感じ、ラウールは退散しようとソロリと後退りをする。
しかし、阿部から返ってきた言葉は予想とは違うものだった。
💚「なんでそんな発想を…!?」
💚「まって、君2年でしょ!? そもそもルーン文字も数秘術も本来3年生の 選択科目で学ぶ知識だよ!?応用は5年生だよ!? なんで計算まで出来るの!? 」
煙たがっていた先輩とは違う、前のめりで近づく阿部の反応にラウールの足が止まる。
🤍「えっと…図書室の本たくさん読んだので…頭の中でパズルみたいに繋げることが楽しくて 」
💚「図書室の本を読んだだけでそんな発想に行き着くなんて…しかも一瞬で!
古代ギリシャの円環配列なんて考えたこともなかった…!!」
🤍「魔法って自由じゃないですか。教科書通りじゃつまんないです」
『魔法は自由』
この言葉は論理や基盤、基礎を重んじる阿部の胸を強く打った。
💚(…この子…!本物の天才だ)
阿部は瞳をキラキラと輝かせラウールの両肩をガッッと掴む。
💚「すごい…凄すぎるよ君!!ねぇ、もっと話聞かせてくれない?」
🤍「ぼ、ぼくでいいんですか?」
💚「君がいいんだよ!君の頭の中をもっと覗いてみたいな」
初めてだった。自分の魔法に対する好奇心を肯定してくれて、同じくらいの熱量で受け止めてくれた人は。
これまでにない嬉しさ、温かさが込み上げてきた。
ラウールは少し照れながらパァッと笑顔をみせ
🤍「はい…!喜んでっ!!」
と返した。
そこにいたレイブンクローの先輩が「ヤベェ2人が出会っちまった」と言わんばかりの顔をしていたが2人は気づいていない。
それからというもの。ラウールはほぼ毎日阿部の部屋へ足を運んだ。
『圧倒的知識量と基礎』の阿部と『型破りな発想力と応用』のラウール。互いの長所を補うように研究に没頭したのだ。
ラウールの退屈だった日常に一気に色がついた。
年度が終わり、学年が1つの上がったタイミングで阿部は急いでラウールの元へ走った。
💚「ラウール!!きいて!俺レイブンクローの監督生になったんだ!」
🤍「えっ!阿部ちゃんすごい!!おめでとう!!」
阿部は類い稀なる優秀さを称えられ、晴れて監督生となった。胸元には監督生の証であるバッジが光っていた。
💚「嬉しいのはここからだよ。監督生になるとね、個室の寮部屋が手に入るんだ!!」
🤍「そ、それって…!」
💚「これで思う存分研究ができる!!誰の目も気にせず、部屋中を魔術書で埋め尽くしても何も言われないんだ!」
🤍「やったーーー!! 阿部ちゃんバンザイ!!!」
ラウールは阿部に大型犬のように抱きつき大喜びだった。
それから2人の魔法オタクっぷりに拍車がかかり、周りの日本人の生徒たちを巻き込んだりするのはまた別の話。
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