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「お前もここのやつ?」
「えっ…?」
ふいに話し掛けられて飛び上がった。
画面じゃない、本物の綺麗な顔に見下ろされて、わたしは声を上ずらせながらうなづいた。
「はい一応、ここの生徒、です」
「じゃあさっさと来い。もたくたしてると、おまえまで質問攻めの餌食になるぞ」
「あっ」
ぐいと乱暴に手をつかんで、イケメンさんはわたしを門の内側に引っ張ると、柱に埋め込まれている同じような画面をタップした。
門はゆっくりと逆の動きをして閉まり始める。
「あ、ちょっとストーップ!」
「待って、しめないでぇ」
ぜぇはぁ言いながら坂道を登ってくる男の人たちの情けない声を冷たく無視して、門はかたく閉ざされた。
「はいお疲れ様でーす。インタビューはここまでっすよね」
お引き取り下さい、と冷たく言い捨ててスタスタ歩き出すイケメンさんだったけど、記者さんたちは負けずに鉄格子にへばりつく。
「ねーねー彪斗くーん、ちょっとでいいから教えてくれないかなぁー!玲奈ちゃんとは、おつきあいしてるの?してないのー?」
イケメンさん―――彪斗くんは、背を向けたままチッと小さく舌打ちすると、すぐにクールな表情に戻って振り向いた。
「すみません。この門の中に入ったら、インタビューは免除される決まりですよね。申し訳ないですけど、おひきとりいただけませんか」
わ、大人な対応。
さっきわたしに怒鳴っていた人とは別人…。
けど、大人たちはなおも引き下がらない。
「そこをなんとか、ね」
「付き合ってる、付き合ってない、ってどっちか一言だけ言ってくれればいいからさ!」
「そういうことってプライバシーでしょ?どうして教えなきゃならないんですか」
「だって玲奈ちゃんと言えば、今一番人気のタレントさんだよぉ?しかもお相手が彪斗くんとなれば…!みんな興味津々なんだよ?」
「困ったなぁ。いちおう俺、ただの一般人のつもりなんだけど」
え、こんなにかっこいいのにちがうの?
てっきり俳優かと…。
背も高くてスタイルもいいし、モデルでもおかしくないんだけどな。
意地でも引き下がらない大人たちに、彪斗くんはふうと溜息をついた。
そして、完璧な微笑を浮かべると、ていねいにゆっくりと話した。
「もちろん、付き合っていませんよ。玲奈さんとは良いお友達です。あの時はたまたま外出先で出会ったから、すこし一緒に行動してただけなんです」
「えーそうなのかい?でも他にも君たちが親密にしてるって話はつかんでるんだけどなぁ。今日だってさ、こんな朝にどこから帰って来たのー?」
「すみません。一言だけって言いましたよね?ほんとに玲奈さんとはなんでもないんですよ。第一、芸能界にはあんまり脚つっこみたくないんで、俺」
じゃあ、授業が始まっちゃうんで、と言いくくって、彪斗くんは踵を返した。
その瞬間、わたしは見てしまった。
完璧な微笑を浮かべていた顔が、一瞬でものすごい機嫌悪そうな怖い顔に変貌したのを。
わぁあ…。
唇が、
「ちっ、くそが」
って動いているのも見ちゃったよ…。
こ、怖いよぉ…ぶるぶる。
こういう人とは、お近付きにならないのが一番だ…。
彼の行先はわたしと同じ生徒玄関みたいだけど、幸いなことに、わたしの存在は道端の石ころみたいに彪斗くんに忘れられているみたいだ。
須田さんとの待ち合わせ時間にも遅れちゃう…早く行かなきゃ。
わたしは少し距離をあけて、彪斗くんの後に続いた。
が―――
「おい、おまえ」
「ひぁ、は、はい!」
急に彪斗くんがくるりと振り返った。
「今の話、ほかでするなよ」
「は、はい!もちろんです!」
急なことですぐに立ち止まれなくて、わたしと彪斗くんの距離はほんの数十センチに縮んでしまった。
どもりながらうなづくわたしを、彪斗くんの鋭い目が上から下へと見つめる。