テラーノベル
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グリムは図書室のテーブルに腰掛けて、足をぶらんぶらんさせながら、手にしている箱の中を覗き込む。
「傲慢、色欲。一度に二つも刈り取るとは、大したものだよ」
ご機嫌な顔をしているグリムを、俺は無言で見つめる。
「ん?なんだか機嫌の悪そうな顔をしているけど、どうした?」
グリムは首を傾げながら言った。
「別に。ただ……何故、箱を一つにしたのかなって、思っただけ」
と、俺は言った。
——溝口と芽里の二人の魂をとると決めて、俺が現在の扉を開けた時、グリムが俺に箱を渡した。
今までのグリムは俺が魂を取ると、すぐに現れた。そして俺から魂を受け取ると、自ら箱に入れていたいたのに、俺に託すってどういうことだ?
驚いている俺にグリムは
『先ず一人取ったらこれに入れて、次を取ればいい』
とだけ言った。
この箱に溝口の魂を入れて、次に芽里の魂を取る。
その後はいつものようにグリムが現れて、別の箱を出して芽里の魂を入れるってことか……。
そう思った俺は、グリムから箱を受け取った。
だが現れたグリムは芽里の魂を、溝口の魂が入った箱に入れたのだ。
その箱を見ながらグリムは
「つがいみたいで、いいね」
と言ってニヤリと笑った。
そして今も一つの箱に、二つの魂が入ったまま。
わざと一つの箱にしたのかと訝しむ俺に、グリムは俺の機嫌が悪そうだと言う。
煽られてるようで、少しイラッとした感情が湧き上がった。
だから”何故、箱が一つなんだ”と、ぶっきらぼうに聞いたのだが……
「樹が二つ取れるかどうか、わからなかったからだけど?」
グリムは、至極真っ当な返答をしてきた。
「そ、そうなんだ。でも二つ取れたから、もう一箱を出してくれてもよかっただろ」
と言った俺の言葉に、グリムはニヤニヤ笑う。
「あー、そうか!一つの箱に一緒にしたのが、気にいらないんだ!」
「なっ?!」
「まぁ、仕方ないよね。人間は感情ってのがあるから……」
グリムは意味ありげに笑って、俺を見る。
「そういうわけじゃ……」
「どーしても別々にしたい?それなら樹が、自分で箱を出せば?」
グリムが鼻で笑うように言うから、俺はムッとした。
「出せって言われても、どうやって……」
「はぁ? 鎌と同じように、念じればいいんだよ」
グリムは呆れ顔で俺を見る。
グリムの態度に、自分でも理由のわからない苛立ちが湧き上がった俺は、思わず
「あー!わかりました!わかりました!」
と叫んだ。
左手のひらを上に向けて、芽里の魂を入れる箱と強く念じた。
すると手のひらに浮かび上がったのは……
キラキラした石がついているピンクの箱。
「え?」
「うわっ!」
と、俺とグリムは同時に、思いもよらない声を出していた。
自分の手の上にある箱を、マジマジと見つめる俺と同じように箱を凝視していたグリムは
「これって、樹……」
チラッと、俺を見る。
「いや、その……あっ、そうだ!芽里の箱って考えたら、彼女のネイルを思い出して……それが出たと言うか」
「ふーん、そうなんだ。ま、せっかく樹が用意した箱だから、使うか」
グリムは芽里の魂を、ピンクの箱に入れた。
「まだまだ甘いな……」
ボソッと小さな声でグリムが言ったけど、俺は聞こえないふりをした。
突然、グリムは図書室の窓ガラスに近づき、外の青空を見つめた。
「……?」
──なんだ?どうしたんだ?
俺は黙ってグリムを見つめた。
しばらく黙って外を見ていたグリムだったが、くるっとこっちに振り返る。
青空を背にしたグリム。
死神そのもの冷酷な笑みを浮かべて、
「これで憤怒、暴食、怠惰、傲慢、色欲の五つが集まったね」
と言った。
青空と死神の真逆の対比。
俺は圧倒されて言葉も出ずにいたが、グリムは冷たい視線を俺に向けた。
「さて、樹は強欲と嫉妬の魂は、誰から取るつもりだ?」
「え?」
「今までは樹の過去、現在に関与した人間から選ぶことが出来た。
次は未来の自分から、探すしかない」
「未来の……自分?」
「そう。自分の描く未来の障壁となる者。
それが、強欲と嫉妬に値するか否か、樹自身で検分するしかない」
自分の描く未来……それを邪魔する人間がいるのか、それを自分で見極めろってことか。
俺が描く未来は……
「紗羅を助けること。それが俺の未来だ」
俺は強い意志を持って、グリムに言った。
グリムは黙って俺を見つめる。
「自分のこれからより、今は紗羅の命が助かること。
それ以外は考えられない」
俺の言葉に、グリムは目を伏せて「そうか……」と呟くように言った。
そして顔を上げたグリムは、射抜くように俺を見て言った。
「ならば、紗羅の事で気付いたこと、見てきたことを知る必要がある」
グリムはパチンと指を鳴らした。
「え……?」
俺はまたグリムの手によって、鏡の迷路に放り込まれた。
鏡の壁にグリムが映る。
「樹が未来の扉を開ける前に、人名本が必要と思った時はいつでも呼べ」
鏡の中のグリムが、俺に言った。
この時の俺は——グリムが未来の俺の為に言ってくれたことに、全く気付いてなかった。
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るるくらげ
いと
#和風ファンタジー