テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
GAME START
ゲームが始まった。
そこは真っ白い部屋で、次の部屋へのドアが一つ、ぽつんと置いてあるだけだった。
ドアを通ると、そこには人がいた。
部屋に溶け込むように真っ白な服を着た、つかみどころのなさそうな人。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶を、挨拶で返す。
人は、何も反応を示さずに、もう一度口を開く。
「あなたはゲームをクリアするために来ました」
「そうなんだ」
「はい」
「何をしたらいいの」
「全員と話してください」
「分かった」
会話はそれだけに、もう一つあったドアから部屋を後にする。
部屋の外は、全てが紫色でできた村だった。
家、木、地面。全部が紫。
その中で、服以外全身真っ白の人が、何人か歩いていた。
「やあ。こんにちは」
「こんにちは」
「あなた。見ない顔ですね」
「ええ。ここに来たばかりですから」
「そうですか」
「では」
そう言って、その人は歩いていった。
……随分とあっさりしている。
まあ、いいか。
村を歩き始めた。
紫色の家。
紫色の木。
紫色の道。
どこを見ても紫色だった。
けれど、そこを歩く人たちは、誰も気にしていない。
「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶をすると、みんな挨拶を返してくれる。
それだけだった。
ある家の前で、老人が一人、椅子に座っていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「ここには初めてですか?」
「はい」
「そうですか」
老人は頷いた。
「では、気を付けてください」
「何に?」
「さあ…分かりません」
「そうですか」
「はい」
老人はそれ以上何も言わなかった。
その場を離れた。
少し歩くと、今度は子供がいた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「何してるの?」
「待っています」
「何を?」
「あなたを」
「どうして?」
「分かりません」
「そっか」
子供は笑った。
同じように笑った。
よく分からないけれど、悪い人ではなさそうだった。
村を一周する頃には、何人もの人と話をしていた。
その中には、同じことしか言わない人もいた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「今日はいい天気ですね」
「ここには空がありませんけどね」
「そうですね」
「では」
また一人、歩いていった。
空がない。
言われてみれば、確かにそうだった。
村の上には、紫色の壁がある。
空だと思っていたものは、空ですらなかったらしい。
まあ、ゲームなのだから。
そういうこともあるのだろう。
次のドアを探すことにした。
少しして、ドアを見つけた。
紫色だった。
ドアを開けて、中に入った。
次は、緑色の街だった。
雲を突き抜けるほどに長いビル。
あちらこちらにある、色々な形の家。
それらを見ながら、歩き始めた。
人がいない。
さっきの村とは、明らかに違う。
どこに行っても、どの部屋を見ても、誰もいない。
これでクリアか? いや、そんなはずないだろう。
家には、食事が置いてある。
電話が鳴っている家もあれば、目覚まし時計が叫んでいる家もあった。
でも、やっぱり人だけがどこにもいない。
人という存在だけが、ぽっかりと刈り取られたみたいだ。
…もう少しして、人を見つけた。
街の中央にある噴水の傍で静かに座っていた。
「こんにちは」
「ええ。こんにちは」
「ここには誰もいないね」
「はい。そうですね」
「あなたは?」
「私は誰もいません」
「そうなんだ」
「ええ。そうです」
「もう行っていい?」
「だったら探してください」
「ドアを?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」
「ふうん」
「では、さようなら」
「さようなら」
その人は、それっきり何も話さなくなった。
もう一度、街中を歩き回ってみることにした。
緑色のビル。緑色の家。緑色の地面。緑色の空。緑色の川。
全部を流し見ながら進んでいく。
適当に歩いていると、そのうちドアを見かけた。
虚空に、ドアだけがぽつんと置いてある。
どこでもドアみたいだ。
ドアノブを捻ると、その向こうの景色が見えた。
ドアの向こうの景色は、色が違うだけで、今いる場所と同じに見える。
ドアを通り抜けると、真っ赤な世界が目に飛び込んできた。
さっきの場所と、色以外が全く同じな場所だった。
…いや、もう一つ、違うところがある。
人がいる。それも、いっぱい。
移動すら難しいくらい、あらゆる場所にぎゅうぎゅう詰めになっている。
体をなんとか押し込んで、人混みをかき分けながら進んでいく。
…やっぱり、あのビルも、家も、何もかもさっきの場所と同じだ。
人がたくさんいて、色が赤いってこと以外。
「こんにちは」
とりあえず、叫んでみた。
…。
返事が返ってこない。
もしかして、これって人じゃないのか。
疑問に思いながら、人を触ってみると、すかっと反対側に抜けた。
ホログラム? いやでも、さっきまでかき分けながら進んできたじゃないか。
…まあいいか。ゲームだし。作りが粗いところだってあるさ。
時々、こんにちはと叫びながら進んでいくと、緑の街で人が座っていた噴水までたどり着いた。
でも、噴水に座っていたのは、一人だけじゃなかった。
円形のベンチが見えなくなるくらい、人が噴水に群がっている。
「こんにちは」
叫んでみると、座っていた一人がこっちを向いた。
緑の街にいた人と、同じ顔をしている。
…髭がないこと以外は。
「やあ。こんにちは」
「何をしているの」
「見ての通り。群れているんだ」
「…あなたを知ってる」
「え? 僕を? だったら多分、未来の僕だ。どうだった? 僕と話はした?」
「ううん。特に」
「そっか。待ってたよ」
「なんで」
「さあ」
「…どういうこと」
「分からないってことさ」
彼は言いながら、じっと一点を見つめる。
そして、そのまま言った。
「この先に、ドアがあるよ」
「本当」
「うん。本当」
「ありがとう」
「いいや。…くれぐれも緑にはならないように」
「未来のあなたみたいに?」
「君がそれを見たのなら、そうだね」
「じゃあ、さようなら」
「うん。さようなら」
彼と別れて、人達に揉みくちゃにされながら進むと、彼の言った方向にドアがあった。
ドアは、灰色だった。
フレームから、本体。ノブに至る全てが、ペンキをぶちまけたような灰色で構成されていた。
ノブを捻ってドアを通ると、そこに広がっていたのは、最初に目覚めたのと同じ真っ白い部屋だった。
何もない。けれど、部屋の中心に人がいた。
近づいて、いつも通り挨拶をする。
「こんにちは」
「はい。こんにちは」
「あなたが最後?」
「そうです」
「話せばいい?」
「はい」
「…この世界って、何?」
「随分と無粋ですね。…強いて言うのなら、歴史です。繁栄と、滅亡。そして、再建」
「へえ。…じゃあ、噴水の人って?」
「私はその人を知りませんが、残った人なんでしょうね」
「それじゃあ、あなたは…」
「ふふ。応えたいところですが、申し訳ありません。時間だ」
「時間?」
「はい。再建の時間です。世界は、再び紫になります」
「…ええと、じゃあ、これでクリアってこと?」
「はい」
GAME CLEAR
誰が?
コメント
1件
うわ、これすごく不気味で面白かったです…!「こんにちは」しか言わない住人たちと、色が変わるだけの世界の連続。一見単調なのに、緑の街で人が忽然と消えてたり、赤い世界で群衆がいるのに返事がない不気味さがじわじわ来ましたね。特に「未来の自分」が「緑にはならないように」って警告する場面、時間や因果が歪んでる感じがしてゾクッとしました。最後の「誰が?」で終わるのも巧い。ゲームをクリアしたのは主人公なのか、それとも…? 第1話だけでこれだけ世界に引き込まれるの、すごいと思います。続きが気になります!
ruruha
924
1,381
田中なす@末
138