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「……最近、笑えなくて」
生徒は椅子に深く座り、視線を床に落とす。
蓮司はペンを回しながら、淡々と顔を上げる。
「笑えないって、どういう感じ?」
「何か面白いことがあっても、笑う前に考えちゃうんです。
私って、こういうのに反応しちゃだめかな、とか。
だから結局、笑えなくなる」
蓮司は軽く肩をすくめ、にやりと笑った。
「なるほどな。俺もたまにそうなる。
面白いのに笑うタイミング逃して、後から『あー、笑えばよかった』って思うやつ」
生徒は少し顔を上げた。
「……そういう人、いるんですか」
「いるよ。俺もそうだし、結構みんな我慢してる」
蓮司は机の上でペンをくるくる回しながら言う。
「笑えないのは、無理して笑おうとしてるからかもしれない。
笑うこと自体を義務にしちゃってるっていうか」
「義務……」
生徒の声は、少し柔らかくなった。
「そう。だからまず、笑おうと思わなくていい。
面白いなって思った瞬間に、自然に笑えばいいだけ。
失敗しても、別に恥ずかしくない。笑うタイミングを逃したって、次はまたある」
生徒は小さく息を吐いた。
「……少し、気が楽です」
蓮司は軽くうなずき、にやりと笑った。
「笑うことに正解も失敗もない。
自然に笑える瞬間を、ちょっとだけ意識して待ってみればいい」
窓の外で風が揺れ、カーテンが柔らかく揺れる。
室内には、押しつけのない寄り添いだけが漂っていた。