テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後、教室の隅。窓際。まだ日が落ちきらない薄暗い時間。3人、いつものように集まっているが、教室内には微妙な緊張が残っている。
蓮司(机の上に寝転がるようにして)
「財布、らしいね。しかも結構な額入ってたとか」
日下部(眉をひそめる)
「マジでか……」
遥(そわそわと足を組みかえる)
「……落としただけじゃないの?」
蓮司(ちら、と遥を見る)
「そう思いたいよね。でも机もカバンも全部探して、“盗られた”って結論出たらしい」
遥(少し声が大きく)
「……知らない。俺じゃないし」
日下部(間を置いて、柔らかく)
「誰も、そう言ってない」
蓮司(指を組んであごをのせ)
「うん。でも、面白いよな。こういうときって“誰が疑われやすいか”って、決まってんのにさ。誰も口に出さない。空気だけ重くなる」
遥(低く、やや睨むように)
「……俺、疑われてる?」
蓮司(飄々と)
「いや?でも“言い出さない罪”ってあるじゃん。みんなが“あー、あいつかも”って思ってるのに、誰も言わないから、逆に本当っぽくなるっていう」
日下部(短く)
「蓮司」
蓮司(肩をすくめる)
「はいはい。ごめんごめん。言葉選ばない悪い癖だよね、俺」
遥(机の端をぎゅっと握っている)
「……先生に言われた。『お前の机の近くだった』って」
日下部(静かに)
「言い返したか?」
遥(小さく)
「無理。……笑ってた。『まあ、お前に限って、って信じてるけど』って」
蓮司
「“信じてる”って言葉で釘刺すの、教師の得意技。信じてるから、って言えば傷つけてない風で済むもんな」
遥(うつむいたまま)
「違うって言ったけど、……“そうか”って返された。目が、違った」
日下部
「……見てた。お前のこと、みんな。何も言わないけど、見てた」
蓮司(片手であくびしながら)
「まあ、見た目が大人しそうで、友達いなくて、声小さいやつはね……悪者にしやすいって、昔から決まってる」
遥
「……だったら、最初から、そういう目で見てくれた方がマシ。中途半端に“信じてる”とか、やめてほしい」
日下部(そっと机を叩く)
「なあ。もし、もし何かあったとして……お前が“黙ってるしかない”ことがあっても、俺は、信じるからな」
遥(ふと息を呑む)
「……なんで、そんなこと言うの?」
蓮司(ふっと笑う)
「それが日下部くんの仕様だからだよ。“信じる病”ってやつ。けど、それって結構、罪深いよ」
遥
「……意味、わかんない」
蓮司
「わかんなくていい。でも、“信じる”ってさ、案外相手を苦しめることあるんだよね」
日下部(低く)
「そう思うなら、お前は信じるな」
蓮司(笑いながら)
「もちろん。俺は、信じないって決めてるから」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!