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保谷東
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「なぁ。せっかく公園に来たんだし…………君が良ければ、少し……歩かないか?」
「…………え? いいの? おにーさん、忙しいんじゃないの?」
美花が、またも瞳を見開かせている。
「いや、俺は今日は有休だし、健診の後は時間も空いてるからいいんだ。このままメシを食ってさようなら、っていうのも、味気ないだろ?」
圭に食事の後も誘われる、なんて、彼女の頭の中にはなかったのだろう。
しかし、彼女は顔を綻ばせて……。
向日葵がパッと開花させたような笑顔を向けられた。
「おにーさんが良ければ、ぜひ、お供しますっ」
「おいおい…………お供って…………何だよ、それ……」
顔を赤らませている美花に、圭はツッコミを入れつつ、自然と頬が緩んでいる。
「じゃあ、行こうか」
彼の言葉に、彼女は嬉しさを滲ませているように、圭は感じていた。
綺麗に整備された道を、二人は、さらに進んでいくと、大きな池に突き当たる。
所々で、ボートに乗っているカップルや家族連れ、足漕ぎボートに乗りながら、キャッキャと遠くから聞こえてくる、黄色い声。
「ボート…………乗るか?」
「乗りたいっ」
美花が圭を見上げて、無邪気に微笑むと、二人はボートハウスへ足を向けた。
手漕ぎボートを選ぶと、圭が先に乗り込む。
「ほら」
圭は美花に手を差し伸べるが、彼女は大きな手のひらを見やったまま、何かを迷うような、緊張しているような面差しを浮かべている。
「ボートに乗るのが怖いのか? 俺の手に掴まっていれば大丈夫だから」
「う……うん……」
美花が、おずおずと手を差し出し、男性にしては綺麗な手のひらに、そっと乗せると、圭は小さな手をキュッと握る。
(彼女の手…………すごく……冷たい……)
しんと冷えている繊麗な手を取りながら、圭の喉元が突かれたように、グッと締め付けられていった。