テラーノベル
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成田屋で手配された人力車から降り、支払いを済ませた金原の耳へ男達の悲鳴が流れ込んで来た。
何事かと駆け出し、声のする方へ金原が向かってみると……。
例の桜の木が植わる中庭に、縄で縛られた全裸の男二人を、金原の屋敷の面々と、濡れ鼠の山根の親分が睨み付けていた。
「お玉坊!かまわねぇ、やっちまえ!」
山根の親分が、お玉に言った。
そして、なぜか、すりこぎを手に持つお玉は、大きく頷いた。
「そうだよ!お玉!ここが、あんたの正念場だっ!きっちり、始末をつけられるかどうかで、あんたのこれからの、女の道が決まるんだ!」
「あい!おはま、ねぇさん!」
お玉は、しっかり、すりこぎを握ると、男達へ近寄って行く。
「……いや、お浜よ。子供煽ってどうすんだ」
「八っつさんは、黙っといておくれ。これは、お玉にとって、けじめなんだよ。うやむやにしてしまったら、お玉の人生は、狂ってしまうんだ」
そんなもんかねぇ、と、八代は、肩をすくめていた。
この光景に、言葉を失っているのが金原で、自分の屋敷の面々はともかく、山根の親分がいること、そして、ずぶ濡れながらも、お玉へ発破をかけていること、それ以上に、どうして、全裸の男達がいるのかと、思いつつも、はっと、目を見張る。
その男達は、櫻子を襲った輩だと気がついたからだ。
そして、櫻子の姿を探した。
少し離れた場所で、龍に見守られながら、櫻子はうずくまっていた。
体は、小刻みに震えている。
「龍!」
「あ!社長!あいつらに、仕置きを……」
「そんなことは、いい!」
金原は、怒鳴りながら、騒ぎの中を横切ると、櫻子の隣へ屈んだ、
「すまん。いつものこととはいえ……、部屋へ行った方がいい。歩けるか?」
当然、この騒ぎについて行けない櫻子は、金原の声かけに、うっすらと涙を浮かべた。
金原はだまって頷き、櫻子は抱き上げる。
「おっ!出ました!」
龍が、掛け声をかけた。
「いや、なるほど、こりゃー、目の毒だ。鬼キヨは、どこへいっちまったんだ?!」
山根の親分が、驚きながら、二人の姿を眺めている。
「でしょ?親分。社長は、本当に、櫻子さんに惚れてんですよ。ですからねぇ、うちも、ちゃんと、落とし前つけさせてもらわないと」
「おお、そうだな、八代、かまわねぇよ!!こいつらの自業自得だ。っていうか、本当に、すまん!俺の、監督不行き届きってやつだ!!」
「わかってくだされば結構。では、お玉……」
「あい!八っつさん!」
お玉が、大きく返事をする。
「いや、だから!!お玉!!八っつさんってのは、やめなっーー!あたしの、八っつさんなんだからっ!!」
何いってんだかと、八代は、騒ぐお浜にちろりと見た。
そんな騒ぎなど、どうでも良いとばかりに、金原は、すたすた進みつつ、
「親分、あとで、話が」
と、言い捨てて、櫻子を部屋へ運んで行った。
その背後から、男達の叫びが聞こえてくる。
「あー!お玉!それじゃあ、おめぇが殴られた半分にもなってねぇぞ。股ぐら狙え!」
「あい!龍!」
「おし!男の弱点だ!使い物にならねぇように、そのすりこぎで、しっかり、殴っとけ!つーより、なんで、おれは、龍なんだよ?」
ぶつぶつ言う龍の声をかき消すように、次の瞬間、男達の断末魔の悲鳴が流れた。
結局、金原は、何がなんだか分からずだったが、櫻子を休ませた後、応接間で山根の親分と向き合って座っていた。
親分は、龍から借りた着物に着替え、角刈りのごま塩頭を手拭いで脱ぐっている。
「早速ですが、親分……」
「おお、なんでぇ?」
「赤坂の芸者、亀松、なんとかなりませんか?」
「鬼キヨ!!てめぇ、嫁さんもらったばりで、妾かよっ!!」
「違いますよ、高井子爵へのちょっとした余興です」
言って、金原は、意地悪く笑った。
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