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男性とその彼女が暮らしている街の隣街で、ゾンビウイルスが発見された。1人の感染者が観測されたというニュースが朝のテレビで流れていた。
隣街とは言えかなり離れているから、今から逃げる準備をして遠くに引っ越せば大丈夫だろうと、2人とも油断していた。
しかしゾンビウイルスは、感染から発症までに、人によって時差がある。その時すでに、隣街の住人の大半がゾンビウイルスに感染していた。
逃げる準備をしていた午後、出発のために外に出てみると、この街にもすでに感染者が、発症している状態で彷徨っている様子を見かけた。2人は急いで車に乗りこみ、朝のニュースで報道された街とは反対方向に走り出した。車の音に気づいたゾンビたちが、数体こちらを追いかけてくる。どうにか振り切り、別の隣街まで逃げてきた。しかし。
──たどり着いた街もすでに、ゾンビウイルスに侵されていた。
そこは自分たちの街よりも多くのゾンビが街を歩き回っていた。車に捕まろうとしてくるゾンビを振り切りながら、またさらに遠くへ車を走らせた。
人が多い街はそれだけゾンビも多いだろうと、人が少ないところを選んで逃げていたが、途中でガソリンを入れられる訳もなく、国境付近まで来たところで、車がガス欠となってしまった。
車が動かないとなれば、持って逃げてきた荷物も当然全ては運べない訳で、持っていく荷物を厳選し、残りは車と共に置いて行くことにした。
歩いて逃げていると、やがて静かで小さな町にたどり着いた。人がほとんど外を歩いておらず、この町にはきっとまだ、ゾンビの脅威は迫っていないのだろうと、2人は胸を撫で下ろした。
日が落ちて空は暗く、どこか泊めてもらえる家はないかと民家を訪ねた。しかし、その町の住人はみな、まだ発症していないだけでゾンビウイルスに感染しているのではないかと、よそ者を受け入れてくれる家はなかった。
その日は仕方なく、外れにある梢の元で2人身を寄せ合って夜を明かした。
───
2人は、遠くの方から聞こえる悲鳴によって目を覚ました。この小さな町にも、この一晩でゾンビの脅威が広まっていた。
2人は急いで逃げる準備をした。しかし、昨日あれだけ人が居なかったこの町では考えられないくらいの、逃げ惑う人々とゾンビ達が町を埋め尽くしていた。
ずっと梢に隠れていれば、いつかゾンビに見つかって囲まれ逃げられなくなってしまう。しかし今ここから抜け出す道には、すでにゾンビがたくさんいる。
意を決して、彼が彼女を庇うようにしながら、抜け出して逃げ始めた。それからは、休む暇もなくひたすら走って逃げ続けた。
───どれだけ逃げ続けただろう。遠くの拓けたた土地に、救助に来てくれたヘリが見える。しかしそのヘリは、定員に達すると次々と飛び立ってしまう。彼女がそのヘリを見つけた時、一瞬気が緩んだのか転んでしまった。彼はすかさず彼女をゾンビから庇いながら立たせ、また走り出し始めた。しかし──その時彼は、ゾンビに腕を噛まれていた。
噛まれたところが熱を持ち、痛い、逃げなきゃ…彼女を安全な所へ──頭がクラクラしてきて、視界も少し霞んできた。痛みは腕全体、更には肩や首辺りにまで広がってきて、その時彼は覚悟を決めた。
ヘリまであともう少し、その時最後のヘリが飛び立とうとしていた。息が上がって声を出せない彼女の代わりに、彼は大声を出し腕を大きく振り、ヘリを呼び止めた。その時すでに、彼の見た目はもうゾンビそのものになっていた。しかし、彼女を守りたいという意思が辛うじて理性を呼び覚まし、ヘリから垂らされた梯子に彼女を捕まらせた。
彼女の足を掴もうとするゾンビの腕を引き千切り、噛み付こうとするゾンビの歯を自身の腕で受け止めた。梯子に掴まった彼女が振り返り彼を見る。そこで初めて、彼がもうほとんどゾンビになっていることに気がついた。
彼女は泣きながらこちらへ腕を伸ばしてくる。そんなことをしてはいけない。俺はもうゾンビになっている。だから君は俺から逃げなければならない。ヘリは彼女が掴まった梯子を引き上げる。そう、これでいい。機内で保護された彼女はずっと、こちらを見ながら泣き叫び、俺の名前を呼び続ける。
俺は最後の理性を振り絞り、「俺の分まで生きて。愛しているよ。」と叫んだ。それがちゃんと、彼女に聞き取れる言語になっていたか、それともゾンビの呻き声にしか聞こえていなかったかは分からない。だからせめて、最後に精一杯彼女へ微笑んで見せた。彼女は泣き崩れ、機体の扉が閉まっていった。
そのまま遠くへヘリは飛んで行く。 そのヘリが見えなくなるまで、俺は空を見送った。ヘリが見えなくなったその後の、俺の記憶は無い。
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