テラーノベル
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グリムは俺から蒲生の魂を受け取ると、パソコン画面に文字を入力している蒲生をチラッと見た。
そして俺の手元にある、蒲生哲也と題された本に目を向けて、
「何故、始めに読まなかった?」
と聞いた。
「……始めに読まない方がいいと思った」
そう答えた俺は、手元にある本に視線を落とす。
「だから、今、読んでいるのか?」
「……」
見開きに開いている本のページ。
俺が魂をとる直前までの蒲生の思考、その行動が記載されていた。
グリムは小さくため息をついた。
「後から確認、過ぎた事を確認して何の意味がある?」
俺は何も答えなかったが、両目が熱くなり目を擦った。
「人間の感情ってのは、複雑なんだね」
グリムは俺から奪うように、本を取り上げた。
「あっ……」
小さく声を上げた俺に、グリムは冷ややかな声で言った。
「過去の遺恨を残すな」
俺はグリムの顔を、無言で見つめた。
「過去を引き摺ったままでは、未来はない」
グリムはそう言って、指をパチンと鳴らした。
「え……?ここは……」
四方八方に広がる、複数の俺の姿。
それは合わせ鏡に映る自分の姿で、俺はグリムに鏡の迷路に送り込まれていた。
“過去を引き摺ったままでは、未来はない”と言ったグリム。
過去から現在。現在から未来へ。
つまり今の俺に、過去を完全に清算しろという事か……
俺は現在の扉を探して、歩き始めた。
鏡に映る映像は、高認の試験問題や大学入試の問題。
次に映し出される映像は、俺が合格したことに泣いて喜ぶ紗羅と両親の顔。
大学の入学式。
講義をする教授の姿や新しい友人の顔。
映像は未来への希望に、満ち溢れていた。
初めてのコンパの光景。
そして——
「梶原くん、彼女いるの?」
巻き髪に、カールした長いまつ毛、大きな瞳で柔らかく笑う俺の初めての彼女
——芽里の顔が映し出された。
芽里と過ごす日々が映し出され、俺を樹と呼ぶ芽里。
俺の家に来てパンを買って、
「樹の家のパン、美味しいから食べ過ぎちゃう」
と可愛く笑う芽里。
この時の俺は幸せだと、過去の事も忘れかけて浮かれていた。
俺から見た視点の映像は、曇りもないキラキラと輝いてるように見えた。
だが、不穏な影が散らつく映像に変わる。
「ねぇ、バッグが欲しいの」
上目遣いで高級ブランドバッグをねだる、芽里の顔。
バイトを必死で始める俺。
バイトに疲れて居眠りをしてし、受けていた講義の映像がぼやけていた。
次から次にプレゼントをねだる芽里の顔が、映し出される。
そして俺は芽里の喜ぶ顔が見たいと、更にバイトを増やす。
そのせいで次第に、芽里と会う回数が減っていった。
バイトが休みの日になっても、芽里と会えない日が増えて、俺はオンラインゲームをして過ごす日が増えた。
鏡の壁にはオンラインゲームをする映像が、次から次に流れる。
見たくないと思って迷路を右に曲がれば、ジュートとしてチャットする画面が現れる。
俺は慌てて引き返して、左に進んだのだが……
芽里が女友達といる姿を、偶然に見てしまった俺の映像が映った。
「理系だから将来的においしいと思ったけど、樹って貧乏なのよね」
俺を嘲笑う芽里。
「芽里ったら、だからあんなおじさんとデートしたの?」
るるくらげ
いと
#和風ファンタジー
「だってお金くれるんだもん」
友人の言葉に、首を傾げて可愛らしく笑いながら
「でもね、もうおじさんはいいかな。この前のコンパで次期社長になる人と出会ったから」
と芽里が言った次の言葉は──
「彼、溝口くんと言ってねぇ……」
その名前を聞いて、俺は慌ててその場を去った。
芽里が俺の事を貧乏と笑い、他の男といたことを知った俺はショックを受けた。
だが、それよりも溝口という名前を聞いたことの方が、衝撃だった。
溝口──社長の息子。
アイツしか思い浮かばなかった。
そして、その現実を俺は見る。
バイト帰りの俺を待ち伏せた芽里と——溝口宗輔。
驚愕して二人を見る俺の映像。
芽里は、狡猾な笑みを浮かべていた。
「樹、別れて欲しいの。私、溝口くんと付き合うことにしたの」
溝口が俺を嘲笑いながら、スマホ掲げて言う。
「お前みたいな人間、芽里には勿体ないからな」
溝口が掲げたスマホ画面には
『やめてくれ!』
服を脱がされて、泣き叫んでいる俺の動画が流れていた。
「やだぁ、樹ってかっこ悪い」
動画を覗きこんで、クスクスと嘲笑する芽里。
鏡に映る映像は視点が反転した。
反転したのは俺が走って——逃げたからだ。
「あははは」
と溝口の笑い声だけが流れている映像。
その声を聞きたくない俺は、耳を塞いだ。
耳を塞いで、視線を他の鏡の壁に向けたのだが、その壁にも映像が流れる。
流れてきた映像は、大学に行かずに見ていたスマホ画面が映し出していた。
そうだ。俺は芽里をブロックして、何もかもやる気がなくなっていた。
俺が目を閉じたことで、映像は真っ暗に変わったのだが……
「樹! 行くよ!」
と言う声が流れた。
映像はパッと明るくなって、紗羅の顔が映し出された。
そこからの映像は、俺と紗羅と一緒に[ラマンの森]へ向かう光景。
その帰り道に見た光景。
両端の口角を上げてニヤリと笑い、銀色の瞳で俺たちを見ていたグリムの姿が映る。
——あれは、偶然じゃなかったんだ。
映像はまた真っ暗な映像になり、次に映し出されたのは……
ベッドに横たわる紗羅の姿。
映像を見つめて、俺は拳を握る。
現在の俺は、鏡の迷路いる。
何故、俺はここにいる?
俺がここにいるのは紗羅を助けるため。
俺は紗羅の命を救うために、魂を刈り取る者になったんだ。
過去の遺恨だろうが、なんだろうが、俺は紗羅の為に七つの魂を集めなければいけないんだ。
それが現在から未来へ向かう俺の道だ。
躊躇いなど、必要ない。
そう思った俺が鏡の壁を見つめると、壁に現在への扉が現れた。
——傲慢と色欲の魂。
この二つを刈り取る為に……俺は現在の扉を開けた。
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