第6話:追跡者の影
灰色の雲が垂れ込める都市境界。
クオンは廃墟の中を歩いていた。
第三の眼はわずかに光り、風の流れや暗黒物質の残響を読み取っている。
だが、その背後に重い気配が迫っていた。
「久しいな、クオン。」
声に振り向いた瞬間、瓦礫の上に立つ影があった。
背の高い男──かつての同僚、ラディウス。
短く刈った白灰色の髪、鋭い青緑の瞳。濃紺の国家制服を身に纏い、胸には「追跡任務」の徽章が輝いていた。
その立ち姿は鋼のように揺るがず、額の第三の眼は強く燃え、冷徹な光を放っていた。
「国家を裏切り、タブーを追い求めるとは……お前らしくないな。」
ラディウスの声は低く、硬質だった。
クオンは灰色の瞳を細める。
「俺は裏切ったんじゃない。命を守る正義を選んだだけだ。」
廃墟の中、二人の間に緊張が走る。
遠くから市民のざわめきが聞こえる。
都市の広場では今日も「未来修正の報告」が読み上げられ、画面には消された事故の記録が流されていた。
人々はそれを疑わず、「今日も秩序は守られた」と安心していた。
ラディウスは足を踏み出す。
長い外套が風に揺れ、靴音が乾いた瓦礫に響いた。
「お前が救った命は、本来消えるべき命だ。国家の秩序を乱す存在に過ぎない。」
「……救ったのは“人”だ。俺には数字じゃない。」
クオンの声は淡々としていたが、瞳の奥には確かな熱が宿っていた。
ラディウスは薄く笑った。
「変わらないな。だが、俺の正義は国家にある。秩序を守ることこそ未来を守ることだ。」
二つの正義が真正面からぶつかる。
廃墟の空気が張り詰め、第三の眼から淡い光がにじむ。
周囲の市民は、その様子を遠巻きに見ていた。
「国家の追跡者だ……」
「相手は……異端のオーバーライターか?」
彼らの視線には恐れと無関心が混ざっていた。
社会にとって、命よりも秩序が優先されるのは当然だった。
クオンは静かに構える。
「ラディウス……お前を敵にしたくはない。だが、俺は引かない。」
灰色の瞳と緑の瞳が交錯する。
その瞬間、廃墟に閃光が走り、二人の正義が火花を散らした。
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