テラーノベル
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翌朝、六人はレストランで朝食をとっていた。
「ずっと悩んでたんだけど、やっぱりバイクの大型免許を取ろうかなぁ?」
結衣が突然そう言ったので、他の五人は驚いた。
「えっ? 結衣ちゃん、バイクに興味あるの?」
驚きながら植田が尋ねた。
「うん。私、身長が低いからずっと悩んでたんだけど、美空が天体写真に没頭しているのを見て、なんか羨ましくなっちゃった。だから、私も新たな趣味にチャレンジしてみようかなって思ったの」
「お前、昔っから乗り物好きだったもんなぁ」
加藤の言葉に、結衣が首を傾げながら答える。
「え? そうだっけ?」
「そうだよ、昔から車とか詳しかったじゃん」
「ああ、あれは兄貴が車好きだからさ」
そこで、植田が口を挟んだ。
「実は俺、自転車以外にバイクも趣味なんだ」
「「「えっ?」」」
皆が一斉に驚いた。
「最近は忙しくてツーリングに行けてないけど、学生時代はバイクで北海道まで行ったよ」
「えーっ、すごい! そういうの憧れる~!」
結衣が興奮気味に声を上げた。
「よかったら、今度俺のバイク見にくる? 実際に触ってみて、それから決めたら?」
「いいんですか?」
「もちろん! 大きさとか重さとか、実際に触ってみて判断した方がいいでしょ?」
「わぁ、ありがとうございます! ぜひ、よろしくお願いします」
結衣は、嬉しそうに笑顔を浮かべ、植田に言った。
そこでまた、玲奈が面白くなさそうな表情をしていた。
それに気づいた植田が、それとなく加藤に話を振った。
「加藤はさ、御曹司のボンボンだから、しょっちゅう車を買い替えられていいよなぁ。今の新車も、親父さんが買ってくれたんだろ?」
「「「えーっ? 加藤さんって御曹司なの???」」」
植田の言葉に、女性三人が一斉に反応する。
「そうだよな?」
植田は、隣にいる夏彦に振った。
「うん。御曹司だって知ったら金目当ての女が寄ってくるから、絶対言うなって口止めされてるけどね。でも、今、言っちゃっていいの?」
夏彦の言葉を聞き、再び女性三人が驚く。
「やっぱり本当なんだ!」
「えーっ、全然知らなかった―」
「ほんと、びっくり~!」
そこで、植田が説明を続けた。
「ちなみに、加藤は代々続く醤油屋の跡取り息子で、銀座の一等地にデカいビルも持ってるんだよ」
「「「うっそー、すごーい!」」」
女性三人が大騒ぎした。
「バレちゃったらしょうがねえな。うちの実家の会社は醤油の『ヤマジ』でーす! 俺は今は商社にいるけど、いずれは実家に戻って後を継ぐことになってるんだ。だから、羽を伸ばせるのは今しかないんだよ! 御曹司ってのも、結構大変なんだぞ~!」
「えーっ、あのヤマジなの~?」
「ヤマジのお醤油、うち使ってるー!」
「うちもです!」
美空たちは、さらに信じられないといった表情を浮かべている。
その中で、ひときわニコニコしている女性がいた。玲奈だ。
玲奈は急に甘えるような視線になると、うっとりと加藤を見つめた。
それに気づいた結衣が、呆れたように美空にこっそり囁いた。
「あの子のターゲット、また変わったみたい」
すると、美空がクスッと笑いながら答えた。
「みたいだね」
そして二人は同時に苦笑いを浮かべた。
食事を終え、チェックアウトを済ませた六人は、ロッジを出発する前に、フロントのスタッフに頼んで記念写真を撮ってもらった。
そして、車の前まで行くと加藤が言った。
「帰りの座席はどうするかなぁ……」
その時、玲奈が声を上げた。
「私は加藤さんの車でお願いしまーす♡ あとぉ、萩原さんは小島さんと趣味が一緒だから、お二人でどうぞごゆっくり! 植田さんと結衣さんもバイクの趣味で意気投合されていたから、どちらかの後部座席へどうぞ! 私は加藤さんの助手席にお邪魔しまーす♡」
玲奈はニコニコしながら、さっさと加藤の車の助手席に乗り込んだ。
その素早さに、五人は唖然としてしまう。
そこで植田が言った。
「僕たちは、方角が一緒だから加藤の車に乗せてもらうよ」
「わかった。じゃあ、小島さんは僕の車へどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
美空が夏彦の車へ向かおうとした時、結衣が美空を引き止め小声で言った。
「ちょっとぉ~、なんなのよぉ~あの女!」
「まあまあ、ライバルがいなくなったんだから、良かったね! 結衣、ファイト! バイクの趣味で盛り上がって!」
「う、うん、ありがとう。でもなんだかなぁ~」
納得がいかない様子の結衣を見て、美空はクスクスと笑った。
そして、夏彦の車の助手席に乗った。
帰りのドライブも、とても楽しいものだった。二人の星談議は延々と続き、その流れで後日一緒に星の写真を撮りに行く約束もする。
昨夜撮った写真も、夏彦が画像加工のレクチャーをしてくれることになった。
「せっかくいい写真が撮れたんだから、画像加工もマスターしないとね」
夏彦はそう言って笑った。
この旅行に参加してから、美空の身の回りの世界が急激に変化したように思えた。
それと同時に、美空は少しずつ自分に自信を持てるようになっていた。
それは、すべて夏彦のお陰かもしれない。
(私は、幸せになってもいいんだ……)
そう思えることで、これまで抱えてきた様々な苦しみが、一気に浄化されたように感じた。
これからは、少し積極的になって人生を楽しもう____美空はそんな風に前向きになれた自分に驚く。
楽しいドライブはあっという間に過ぎ、車は美空のアパートの前に到着した。
「送っていただき、ありがとうございました」
美空が礼を言うと、夏彦も言った。
「どういたしまして! じゃあ、来週カフェでね!」
「はい」
美空は、夏彦の車が見えなくなるまで手を振って見送った。
アパートに戻った美空は、チェストの引き出しから小さな宝石箱を取り出した。
ダイニングチェアに座り、宝石箱の蓋を開けると、中には母の形見であるトパーズの指輪が輝いていた。
(あれ? なんか色が変わった?)
不思議なことに、トパーズの宝石は以前よりもオレンジ色が濃くなっているように見える。その瞬間、十年間世話になった伯父と伯母の顔が美空の頭に思い浮かんだ。
二人にはしばらく連絡を取っていない。しかも、十年間も世話になったのに、二人にお礼らしいお礼を何一つしていなかったことに気付く。
伯母とはいろいろあったのは事実だが、それでも、美空の心の片隅にはお礼をしていないという事実がずっと引っ掛かっていた。
(せめてものお礼に、二人に何か贈ろう……)
そう決心した美空は、ほんの少し心の中が軽くなったような気がした。
【お知らせ】
本日は完結ラストまで、まとめて三話の更新です。読み逃しのないようご注意くださいませ✨m(__)m✨ 瑠璃マリコ💜
コメント
5件
一気に完結なんですね\(°∀° )/ 玲奈が誰とくっつくのか!? ドキドキですね(←無いわぁーw)
玲奈のターゲットを変えるところにクスっと笑ってしまいました! 美空ちゃんと結衣ちゃんも夏彦さんと植田さんと進展ありで楽しみです!
みんな、それぞれに気付きのあった、いいターニングポイントとなった素敵な星空観察会でしたね😊✨ 玲奈は相変わらず、条件のみでコロコロと➰➰😅 でも、フットワークの軽さは、ある意味スゴいと思う😲 加藤くん、鬱陶しいかもしれないけど、頑張って😂 美空ちゃん、気持ちが前向きになって、自分の周りの人たちに対する気持ちもいい方向に変わってよかった✨ みんな幸せになれ~~😆🍀