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うわぁ…第21話、重すぎて息止まっちゃったよ😭💦 沙耶さんの「私の子だけがいない」って言葉、刺さりすぎて声出なかった… あと『次は必ず産ませる』って裏書き、たった一行で七年縛り続けるって怖すぎるし切なすぎる… 千紘先生が証拠として使えそうな写真を沙耶さんに返すところ、ああいう選択ができるの本当に強いなって思ったよ。感情の渦の中で一歩引いて「私があの人と同じになるのは嫌」って線引きできるの、すごい精神力だと思う! 続きめっちゃ気になる…!
廊下で話を続けるわけにはいかなかった。
私は空いている面談室を借り、沙耶と遼介へ移動を求めた。慧は扉の前で足を止める。
「僕は関係者ではありません。必要なら上司か医療安全管理部を呼びます」
沙耶が首を振る。
「今は、三人で話します」
慧は事情を尋ねず、業務へ戻った。
面談室へ入ると、沙耶が古い母子手帳を机へ置いた。
「七年前のことは、先日話しました。今日は、先生との結婚前後の記録を見せます」
スマートフォンには、遼介とのやり取りが残っていた。
『父親から女医と結婚しろと言われている』
『形だけの結婚になる』
『病院を継げば、君と暮らせる』
日付は、私と交際を始める直前から結婚後まで続いている。
「これは何?」
私が尋ねても、画面を見ようとしなかった。
「沙耶を落ち着かせるために言った」
「私との結婚を形だけだと?」
「本気でそう思っていたわけじゃない」
「では、沙耶さんには何を本気で約束したの」
「過去の関係へ責任を感じていた。急に切れば、何をするか分からなかったんだ」
沙耶の表情が硬くなる。
「私を危険な女にするんですね」
「実際、七年間も連絡を続けた」
「あなたが返したからでしょう」
「供養料も送った」
「関係を切る代金のつもりだった?」
遼介は答えない。
その横で、沙耶が別の履歴を開く。
ホテルの予約、会う日の指定、私が当直であることを知らせる文面。
「先生の結婚後も、関係は続いていました。毎月ではありません。遼介先生が弱った時だけ呼ばれました」
「弱った時?」
「お父様に責められた時、先生が学会で評価された時、夫婦喧嘩をした時。私なら昔の遼介先生を知っていると言って」
まただ。
真帆にも、莉央にも、沙耶にも。遼介は自分が弱った時だけ相手を特別な人にして、支えてもらおうとする。
そして立ち直れば、手を伸ばしてくれた相手ごと置いていく。
「この記録を、橘先生へ提出してもらえますか」
「中絶のことまで公にするんですか」
「公開しません。離婚手続きで必要な範囲だけ扱います。何を渡すかは、沙耶さんとあなたの代理人が決めてください」
「私を利用するつもりでしょう」
「遼介の行為を証明するために資料は使う。でも、渡すかどうかを私が強制することはできない」
母子手帳を閉じた。
白波 灯
196
#王子
すっこ
376
「私も、先生の結婚を壊した側です」
沙耶が初めて、はっきり自分のしたことを認めた。
その言葉を聞いても、すぐに同情も許しも湧かなかった。ただ、やっと同じ事実を見られる場所まで来た気がした。
「遼介先生に追い詰められたことを理由に、既婚者との関係を続けました。先生がいなくなれば、自分の七年が報われると思っていた」
「今も、そう思う?」
「分かりません。先生から奪って妻になっても、次の女が現れるだけだと、ようやく分かり始めました」
遼介が苛立って口を挟む。
「二人で俺を悪者にして、何がしたい」
「悪者にしているんじゃない。自分で残した記録を確認しているの」
「千紘との結婚に愛情がなかったわけじゃない」
「愛情があったなら、打算も裏切りも消える?」
「人間の気持ちは一つじゃないだろう」
「そうね。私も、あなたを愛していた記憶と、離婚したい意思を同時に持ってる」
言葉を失った。
母子手帳から超音波写真を取り出した。
「これを、遼介先生に返します」
机の中央へ置く。
「供養料を送って、自分も悲しんでいるつもりだったでしょう。でも、写真を持ち続け、毎年その日を生き直したのは私です」
「あなたの子の記録でしょう」
遼介は手を伸ばさない。
私が言うと、顔を背けた。
沙耶は乾いた笑いを漏らし、自分で写真を拾った。
「この人は、いつもこうです。完全に離れようとすると引き止める。でも、自分から手を伸ばすことはない」
写真の埃を指で払い、鞄へ戻す。
「記録は弁護士へ渡します。ただし、中絶の詳細を公にしないという約束を書面にしてください」
「橘先生へ伝えます」
扉へ向かった。
出る直前、私へ振り返る。
「莉央さんの超音波写真を見るたび、私の子だけがいないことに耐えられません」
「診療へ関わらないでください」
「患者として来たら?」
「私的関係を申告して、担当を外れて」
答えず、部屋を出た。
机の下に、一枚の写真が落ちていた。
拾い上げると、裏に遼介の字がある。
『次は必ず産ませる』
写真は橘へ渡さず、沙耶が置き忘れたことだけを連絡した。
この写真は、私の離婚に使える証拠かもしれない。
でも、だからといって勝手に持ち出せば、今度は私が沙耶の選択を奪うことになる。
遼介と同じことだけは、したくなかった。
十分後、沙耶が戻ってきた。
「それ、見ましたか」
「裏の言葉まで見えました」
「返してください」
私は写真を封筒へ入れ、机越しに渡した。
「提出する資料は、自分で選んでください。全部を差し出さなければ信じてもらえないわけではありません」
「先生は、私を慰めたいんですか」
「いいえ。私も慰謝料を請求する側です。ただ、請求することと、あなたの過去を勝手に使うことは別です」
封筒を胸へ抱え、今度こそ部屋を出た。
『次は必ず産ませる』
たった一行の約束が、七年経った今も沙耶を遼介へ縛っている。
そして、その痛みは真帆や莉央の子どもへまで向かい始めていた。嫌な予感が、胸の奥に残った。