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五人でパークに行ってから、何週間か経った。
「優羽ちゃん優羽ちゃん。来てるよ。お む か え」
「…おむかえ?」
「生徒会長。彪斗くんだよっ」
見やるとクラスの入口に彪斗くんが立っていた。
戸に背を預けて、「さっさと来い」って親指でジェスチャーしている。
「いいなぁ、あの惣領彪斗から直々にお出迎えだなんてっ。ウラヤマシイぞっ」
ってふくれっつらを浮かべるのは、寧音ちゃんのお友達で、最近仲良くなったクラスメートのヒナタちゃん。
学校生活に慣れるにつれて、寧音ちゃん以外にもこうやって打ち解けて話せる子が増えた。
芸能人だけど、みんな学校にいる時は、普通の子と変わらないのがうれしい。
「優羽ちゃんが転入してきてから、彪斗くんを見かけること多くなったよねー。それだけ目掛けてもらってるってことだよね!
でも、優羽ちゃんなら当然と言えば当然かぁ。最初見た時は正直ね「うわ、このコちょっとありえない…」って思ってたんだけど、急にメガネ取ってからはそう思ったこと反省したよ。本当はこーんな美少女だったなんてっ」
「そ、そんなことないよ…」
「そんなことあるっ。あたし、事務所の人に聞かれちゃったもん。おまえのクラスに突然現れた美少女は誰なんだーって」
最近、色んな人からこういう風に言われることが多くなった。
まだ信じられなくてピンとこないんだけど、周りの生徒の反応は明らかに変わったし、こうやって新しい友達が増えたことを考えると、わたしの世界は確実に大きく変わり始めてるんだな、って思う。
彪斗くんのおかげなんだなぁ…。
「でねでね、まだどこの事務所にも所属してないみたい、って教えたら「ぜひウチにいれろ」ってがっついてきてんだけどさー。ねー興味ある?うちの事務所アイドル系強いからそんなに苦労はさせないと思うけど―――きゃぁあ!」
「おい優羽!」
ヒナタちゃんが叫んだのは無理もない。
いつの間にか来ていた彪斗くんが、わたしたちのそばで仁王立ちになっていたから。
「なに喋ってんだよ。んな暇あったら、さっさと来い」
「ご、ごめんなさい…」
「きゃー!彪斗サマが間近に!握手してください、てか曲くださいっ」
「うっせぇ!ほらとっといくぞ」
「あっ…!じゃ、じゃあねヒナタちゃん」
「うん、また明日ね」
笑顔で見送ってくれたヒナちゃんを後に、わたしは彪斗くんにずんずん連れて行かれた。
「ったく、誰だあのおしゃべり女は」
「寧音ちゃんのお友達のヒナタちゃんだよ」
「寧音の?通りで…」
今日は寧音ちゃんがお仕事で午後に早退してしまったので、わたしはひとりだった。
なので帰りは彪斗くんと一緒に帰ることになっていた。
寧音ちゃんが忙しい時は、最近はこうして彪斗くんと一緒に帰るのが日課になっていた。
けど、わたしにはちょっとこれが恥ずかしい。
彪斗くんの手は、わたしの手を堂々と握っている。
そうやって校舎の中を歩くと、嫌でも人の目線が集まってしまう。
ほら、今だって女の子のこわい目線…。
だって、彪斗くんはすごいカッコいいだけでなく、生徒会長につくくらいの、ものすごい売れっ子。
対してわたしは無名の一般人。
歌を歌って行こうって決めたものの、まだはっきりとした芸能活動を始めたわけじゃないんだもの…。
まるで王様と一般庶民くらいのちがい。
無理もないよね…。
けど彪斗くんはそういうことはお構いなしみたい。
余裕な態度で、握っているわたしの手を見せつけるように、ずんずん歩いていく。
「ところで」
そんな彪斗くんが、ちらっとわたしを見下ろした。
「今日の髪型だけど」
どき
「似合ってるな。すげー新鮮」
「ほんと?ありがとう…!昨日寧音ちゃんと買い物に行ってかわいいシュシュを見つけたから、さっそく使ってみたの」
今日のわたしは、巻いていつもよりフワフワにした髪に、編み込みを入れて肩でひとつにまとめている。
初めて挑戦したヘアスタイルだけど、褒めてもらえてうれしい…。
コンタクトにしてから、わたしはいろんなヘアスタイルに挑戦していた。
その度に、彪斗くんが褒めてくれたりアドバイスしてくれる。
たいていはダメだしされることが多いんだけど、今日は合格。
うれしいな。
「…ひやっ」
ってしみじみしてたら、すーぅと首筋がなでられて飛び上がった。
「…もう、びっくりさせないで…!」
彪斗くんは、ニッって笑った。
「首、苦手?」
「う、うん…」
「ふぅん。じゃ、これも?」
「…っきゃ」
ふぅ、と息を吹きかけられて、肩をそびやかす。
「もう…!そやってすぐイタズラするのやめてよね…!」
「したくなるからしょうがねぇだろ。そうさせるおまえが、悪い」
「もうっ…!」
知らないっ!
と、スタスタ先に行こうとしたけれど、
「てか、ちょーっと待て、優羽」
ぐいぃーと握った手を引っ張られて、わたしは巻き戻しみたいな動きになる。
「今日の『報告』、まだだけど?」
「え…。きょ、今日は特には」
「嘘つけ。ちゃんと隠さずに報告しろって命令したろ」
「……」
「…今日は、何人だ」
「…ひ、一人です」
「はぁ?」
ギラリと怖い目が光った。
「昨日は五人だったのに、今日は一人?嘘つけ。メアド聞かれるのも数に入れろって言ったろ。何人だ」
「四人…です」
「…ほんとだな」
こくり、とうなづいて、わたしは彪斗くんにすがった。
「冗談で言ってきただけだよ?だって、その人今すっごく綺麗な彼女いるってこの前ネットで…」
「芸能人は二股三股は当たり前。一般人の目線でヤローの言葉信じると痛い目に遭うぞ」
「……」
それって……彪斗くんもそうなの?
って聞きたかったけど、そしたらまた胸が苦しくなるようなこと言われたり…されそうになると思ったから…やめた…。
わたしが外見を変えてからというもの、彪斗くんは毎日こうやって『報告』を強制する…。
わたしにメアド聞いてきたり、食事を誘いかけたり…告白してきた男のコが何人いたか?って。
最初命じられた時、「そんな人いるわけないよ!」って呆れちゃったけど…。
実際、毎日のようにいるから、びっくりしてしまう…。
声をかけられるたび、わたしはきちんと彪斗くんに言われた通りの「お断りのセリフ」を言う。
そうやってちゃんと命令を聞いて、きちんと報告までしているのに、したらしたで不機嫌になるし、報告を忘れたふりしたら怒るし…彪斗くんは本当にワガママな王様だ。
ぶぶぶぶ
そんな王様のバイブがなった。
「もしもし。あー社長っすか。おひさしぶりでーす」
ため息まじりに応じるものの、すぐに切れる相手ではなかったみたいで、彪斗くんはわたしから離れて人のいない空き教室に入ると、会話を始めた。
報告内容は男のコからのものに限らず、わたしに関することだったら、どんな些細なことでも言えって言われている。
例えば、さっきのヒナタちゃんの事務所へのお誘いとかがそう。
でも特に『気をつけろ』と強く言われていたのは。
「小鳥遊優羽。ちょっと話があるんだけど」
女の子からの、不可解な言動だ…。
突然、まるでファッション雑誌の表紙から抜け出てきたようなキレイな女の子たちが、まっすぐにこちらに向かってきて、わたしを取り囲んだ…。