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「あのわたし…これから行くところが…」
「あーそうよね、小鳥遊さんは生徒会メンバーとして業務に忙しいのよねー。でも、こっちにも大事な用事があるんだけど」
「ちょっと、付き合いなさいよ」と威圧的に言われ、わたしはなにも言い返せず、引きずられるように連れていかれる。
彪斗くん…
けど、彪斗くんは少し難しい話をしているみたいで、こちらの様子には気づいていない。
大声で叫ぶこともできず、わたしは重たく足を進ませるしかなかった。
※
しばらく歩いて足をとめたのは、人の気の少ない校舎の隅。
そこでは、見覚えのある女の子…
ううん、
正確にはテレビやCMでよく見かける、キレイな女の子が待っていた。
わたしを見るなり、アーモンドみたいな形のいい目を細めて、にらみつけてきたその子は―――
玲奈さん…
彪斗くんの彼女だった人だ…。
最初に口を開いたのは、わたしを連れてきた子たちだった。
「あんたさ、図に乗るのもいい加減にしたら?みんな、あんたのせいで、理不尽な思いしてるんだから」
理不尽な思い…?どういうことだろう。
「ムカつくのよ。転校してきた早々、芸能活動をするでもないのに、生徒会入りなんかして。本当はね、あの空いていた生徒会の座に座ったのは玲奈だったのよ?」
玲奈さんが…。
「そうよ」
やっと口を開いた玲奈さんの声は、とても落ち着いていたけど、それだけに凄みがあった。
綺麗に化粧された大きな目が、わたしをにらみ据える。
「あんたみたいなのがいると、一から努力してがんばってきた私たちが損するのよ。私は、生徒会に入るに相応しい実力だったし、彪斗にも認められていた。…なのに、ポッと現れたあんたに、なにもかも奪われてしまったのよ…!どんな手を使ったかは知らないけど、ちょっと可愛いからって、彪斗をたぶらかして。この、卑怯者」
卑怯者…
思っても見なかった言葉が、深くわたしの胸を突き刺した。
「彪斗もどうかしてるわ。あんたみたいなのを特別扱いなんかして。ま、別にもう彪斗がなに考えようが、わたしには関係ないけど」
そう言いながら、なにかに耐えるようにじっとにらんでくる目を見て、わたしは思う。
玲奈さんは、まだ彪斗くんのことが好きなんだ…。
どうして、今までちゃんと考えなかったんだろう…。
この学校にいる人たちはみんな、陰ながらに何倍もの努力をして毎日を過ごしているんだ。
寧音ちゃんだって、勉強しながら歌やダンスの練習にはげんで、どんなに疲れていても、笑顔を忘れない…。
キレイでみんなから憧れられるモデルの子たち。
本当に素敵で、そこにいるだけでキラキラしていて、わたしみたいな普通の人とは、ぜんぜんちがう。
この人たちだって、この容姿を保つのに、どれだけ努力してるんだろう。
美容に気を遣って、常に周りの目を意識して、そして、恋する痛みも覆い隠す強気で、前に向かって行く。
そこまで努力した人じゃないと、入ることができないのがきっと、生徒会なんだ。
なのにわたしは、そんなこと、ぜんぜん知らずに居座っていた…。
「一応あんたも、これから芸能界に入るってことで、いろいろやっているらしいけど、でもまぁ、ノンキにしていられるのも今のうちよ。小鳥遊優羽。あんたみたいに楽して地位を手に入れた人間が、芸能界でなんて生きていけるわけないわ。あんたなんて、どうせたいした日の目も見ずにダメになるのよ」
あんたなんて。
そう…わたし、なんて…
『だから、わたしなんか、って思うな』
彪斗くん…。
わたしには、見たい景色ができた…。
歌手になりたい。
歌いたいの。
入らされたとは言え、スタートラインにやっと立った時点で生徒会に居ることはフライングだけど。
でも、もうなにも知らないふりして、甘え続けるつもりはないよ…?
だって、そんな自分に、なりたくないんだもん…!
わたしなら大丈夫って、彪斗くんが教えてくれた。
だから…だから、勇気を出して、言わなきゃ。
今、言わなきゃ…!
「あ…あなたたちはすごく、すごくキレイです…。お化粧も上手で、スタイルもよくておしゃれで、とってもキラキラして見える…」
出した声は、とても小さかったけど、震えているけど、それでも精一杯勇気を出して、続けた。
「…たしかにわたしはズルいです…。あなたたちみたいに、キラキラもしてない…。けど…いつかは『あなたたちみたいになりたい…』って思ってる気持ちは本当です」
なるために、ちょっとずつでも、進もうとしているの。
ほんのちょっとしか、進めていないかもしれないけど、わたしなりに、がんばっているの。
「だから…だから、そんなふうに言わないでください…。『あんたなんか』って…『だめだ』って…決めつけないでください。やっと目覚めたわたしの気持ちを、踏みにじらないでください…!」
「な…なによ…」
玲奈さんはたじろいだように言葉を詰まらせた。
けど、次第に顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「なによ…!卑怯者が、生意気言わないでよ!」
ぱん!
頬を焼いた痛みは、鼻先を、ツンとさせた…。
けど、ぐっと、込み上げてきたものを、こらえた。
「そこまでにしたら?」
そこに、ふと男の人の声が聞こえた。
場ちがいなまでに、穏やかでやさしい声色をしたその人は、
「雪矢さん…」