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「タマ、猫がどうしたって?犬のお前が始末しなさい。こっちは、それどころじゃないんだ!」
子犬に真顔で意見する常春《つねはる》を、新《あらた》と髭モジャは、何事かと凝視していた。
「あの、これは……」
「橘様、タマは、今、少し特別な力がついておりまして、私も良くわからないのですが、虎になったり、喋ったり、まあ、色々と」
「……なんでしょう、本当に。今日という日は……」
さすがの、橘も、子犬に喋られては、返す言葉がないようで、思案も尽きたと言いたげだった。
そして、皆の困惑などお構いなしで、タマは、常春に助けを求めている。
「もう、しゅうちゅうがつかなくなって!猫ニャーニャーで、タマじゃ、無理です」
「……集中ではなく、収集だな?」
「あ、そうかも。タマは、犬ですから、余り言葉が喋れません」
「しかし、タマ。守満《もりみつ》様も、守恵子《もりえこ》様も、いらっしゃるだろう?ああ、守近様だって。というか、お三方いらしても、猫、相手では……無理か」
「守近様は、いませんよ。だから、余計に、一の姫猫が、調子に乗っちゃって!守恵子様と、わーーって!!」
ああ、紗奈《さな》よ。と、困りきる兄へ、紗奈も、手も足も出ませんとばかりに、眉尻が下がった。
あの猫の大行進が、守恵子の所で、騒いでいると思っただけで、おおよその見当はつく。タマが、助けを求めて来るほどだから、それは、それは、どうにもならない事、なのだろう。
ふと、隣にいる橘を見る。
そして、なぜか、新と髭モジャも、橘を見ていた。
「え!私ですか?!」
視線を受けた、橘は、固まった。確かに、今までは、行き掛かり上、仕切ってきた。しかし、あの、ネコの山とも言えるモノを相手にしろと、言われても……。
「あ、あの、常春殿、そもそも、これは、どうゆう事でしょうか?と言いますか、あちら方では、何が起こっていたのでしょう?」
今の橘には、常春に問うのが精一杯だった。
「あー、そうですね、タマ、きちんと説明しなさい。一の姫猫のことも」
「はい、わかりました。ご説明します」
しっかし、と、呟き、新がタマを見ている。
「おめぇー、何だかんだ言いつつ、良く喋るなぁ」
「え?だって、説明しなさいって言われてるんだもん、仕方ないじゃないですかっ、わからんちんだなぁーまったく」
くくく、と、脇で髭モジャが、笑いを堪えている。
「お前様?」
「ああ、女房殿、まるで、女童子の幼い頃を、見ているようじゃ」
「あら、そういえば、なんとなく」
二人は、クスクス笑った。
「あー!橘様も、髭モジャも、仲良し夫婦やってる場合ですかっ!私のどこが、タマに似ているんですかっ!」
「そうですよぉ、タマは、タマですよ!上野様とは、違うんですからぁ!」
ああ、お前らはー!と、新が割って入って来る。
「犬、さっさと、説明しろ!こっちは、急いでるんだ!」
はいはい、もう、物には順序があるのに、と、タマは、新にかけられた、荒い言葉が気に触ったようで、ぶつぶつ言いながら、北の対屋《ついや》、守恵子の房《へや》で起こっていることを語り始めた。