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13災い転じて福となす
借家との別れは突然だった──
未央は亮介と仕事終わりに待ち合わせをして、晩ごはんの買い出しに商店街の肉屋に寄った。
豚バラが大特価!! きょうは冷蔵庫に野菜もあるし、豚バラ肉の野菜巻きにしよう。
コロッケも買おうとか、いやメンチカツにしようとか話していると、消防車のけたたましいサイレンが聞こえ、それがだんだん近づいてきた。
商店街もにわかにさわがしくなる。
何だろうと思っていると、商店街の店主らしきおじさんたちが騒ぎ始めた。
「火事だって!!」
「高台の三軒続きの借家だそうだよ」
「あそこ、おばあさんいたよね?」
「大変じゃねーか、早く行くぞ!」
おじさんたちは慌てて自転車やら、原付で出ていった。
「未央、先に行くから」
何が何だかわからないと思っているうちに、亮介も自転車で走り去った。
火事……、うちが? サクラ……、サクラ!?
未央も亮介を追って、自転車を全速力でこいで家へ向かった。未央が家に着いたときには、もう火は消えていた。
全速力でこいできた自転車を道端に放り投げて、野次馬の中をかきわけ最前列まで泳いだ。
心臓が苦しい。鼻を突き刺すような焼け焦げたにおい、消防隊と思しき人の声、足元に流れ出した大量の水。ボヤで済んだのだろうか、見た目にはそれほど焼けた様子はない。
亮介は? サクラは? 大家さんは? はぁはぁと息も絶え絶えにやっと最前列までやってくると、大家の林の姿があった。
「大家さん!!」
「あぁ、篠田さん、ごめんなさい私の不注意なの、ヤカンをかけたまま外出してしまって……」
「ご無事で何よりです、亮介……あ、郡司さんは──」
「未央!!」
斜め後ろから亮介の声がした。人をかき分けてそっちに向かう。
「亮介! サクラ……サクラは?」
「大丈夫だよ、ほら」
目を落とすと、亮介の腕にすっぽり包まれたサクラの姿があった。
「あーーっ、よかった!!無事だったんだね」
未央はサクラをぎゅっと抱きしめた。
「ここの住人の方ですか? 少しお話が」
消防隊の人に呼ばれて話を聞いた。
初期消化がはやく、燃えたのは大家の部屋のみで、未央と亮介の部屋は無事だったということ。
亮介が消防隊の人に、サクラがまだ中にいることを伝えてくれて、ドアをこじ開けたところ中から飛び出してきたのだそうだ。
とにかくみんな無事でよかった。火災原因調査も終わり、部屋に入れたのは夜中に近かった。
電気もダメになったので、真っ暗。
スマホの懐中電灯の灯りが頼りだ。
部屋は無事だったけど、ひどく焦げ臭いにおいがたちこめている。
しばらくここで寝るのは難しいだろう。
大家さんは近くのホテルに滞在するそうで、貴重品を持って出ていった。
亮介の部屋は大家さんの部屋から離れてはいたが、焦げ臭いにおいは未央の部屋同様。
「どうしよう、どっかホテル探さなきゃ。サクラ、ペットホテル預けられるかな。それかペット可のホテルを探すか……」
うろたえる未央に、亮介は的確に声をかける。
「未央、貴重品持って。部屋の荷物、出来るだけ僕の部屋に入れましょう。カギ、壊れててかけられないと思うので、防犯上よくないです。僕の部屋ならカギかかるので」
亮介に言われた通り、貴重品を持ち、仏壇などを亮介の部屋へ持っていった。服はにおいがひどかったが、それでも衣装ケースに入るだけつっこんだ。想い出の写真などは無事だった。
「亮介、泊まるとこどうしようか」
「心配しないで。駅までいって、タクシー拾いましょう。サクラも連れてきて大丈夫です」
亮介、泊まるあてがあるんだ。未央はそう思ってサクラをケージに入れ、亮介と一緒に駅へ向かった。
駅から20分ほど走ったところで、タクシーを降りた。
住宅街の真ん中という感じで、タワーマンションがいくつもあるエリアだ。
ホテルはどこにあるのだろう。未央が不思議に思っていると、亮介はそのうちのひとつの高級そうなマンションへ入っていくので、あわてて追いかけた。