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「では、次に《我慢比べ》についてなんですけど」
あのあと、クラス中が一斉にトイレを訴えだして、トイレ休憩になった。
……みんな腹壊すって、マカフシギナコトモアルナ〜ハハッ
ひと息ついたところで、会議は再開。
黒板には魔法で書いた《我慢比べ》の文字が浮かんでいた。
「これは単純に“暑さ”を我慢する競技みたいです。
校庭のグラウンドに大きな魔皮紙を広げて、その上に各科が乗ります。
温度はアリスト科が調整して……最後まで残っていた科の勝ち、って感じですね」
「なるほど……」
ざわついていたクラスが、ふたたび落ち着いて対策会議モードに入る。
俺も自分の席に座り、イスをくるっと回して後ろを向いたルカが俺の机に、自分の胸をドスンと預けてきた。
……気持ちは分かる。
俺もこの荷物を同じ様に机に置かせてほしいんだけど……めちゃくちゃ顔が近くなって変なので我慢しよう。
「我慢比べ……なのじゃ?」
「うん」
真剣な顔のルカ。
「暑さと寒さ……ちなみに、魔法の使用はアリなのじゃ?」
「そりゃ、魔法学校だし。
たぶんマジック科は事前に色々調べて、
“暑さ耐性強化”みたいな魔法を準備してくると思うよ。
温度調節そのものはアリスト科が担当だから、不正はないと思うけど」
ルカはその場で頷き、ふむふむと考え込む。
……あ、そういえば。
「ねぇ、ルカ」
「? どうしたのじゃ?」
「さっき、僕が魔法使ったとき……なんであんな顔してたの?」
「のじゃっ!? あれはその、あれは! あれなのじゃ!」
ルカはそれを聞くと、あたふたと手を振りながら目を泳がせた。
「あれ? “あれ”って?」
「うぐぐ……何でもないのじゃ! アイツラガガンバルカラカンケイナイノジャ……! それより! 今は話し合いなのじゃ! 時間もないのじゃ!」
「?……ま、まぁそうだね。どうしようか」
「あれはどうなのじゃ? 【アイスダロック】を袋に詰めて服の中に入れとくのは」
【アイスダロック】
熱を嫌う鉱石で、空気中の熱を冷やし続ける性質を持つ。
小さいやつを買って服に仕込むのか……うん、いい考えだな。
ちなみに水筒に加工されたタイプも売ってて、今俺たちが使ってるやつがそれ。いつもキンキンに冷えてやがるぜ。ありがてぇ。
「ありだね。……ただ、寒いときはどうするの?」
そう。重要なのは《温度調節》だ。つまり、温かくも寒くもなるってのがこの競技の難点。
「のじゃっ!? たしかに……」
「寒くなったら逆に【アイスダロック】が邪魔になりそうだしね」
「むぬぬぬぬ……」
「そう考えると難しいね。僕とか、あんまり魔法の知識ないし……」
少しずつこの学校で勉強はしてるけど、まだまだわからないことは多い。
なんだかんだ、図書館にもまだ行けてないし……。
うーん……あ! そうだ!
このあと俺は、すごい作戦を思いついて――クラス全員を納得させることに成功した。
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「さて、次にビジネス科が出してる《物運び》についてですが」
「はい!」
その議題を出した瞬間、ひときわ筋肉の多い男――《マッスルファイターズ》のリーダーが、バッと手を挙げた。
「何でしょうか?」
そう返した瞬間。
彼は立ち上がり、勢いよく――
「ふんぬぅぅぅ!!」
ブチッ!と制服のボタンを弾き飛ばし、上半身裸になって雄叫びポーズ。
両腕にバッキバキの筋肉を誇示しながら、ビシッとマッスルポーズを決めた。
こっちをガン見してくる。……え、こわ。
ちなみに俺も制服のボタン弾き飛ばせるよ!…………筋肉じゃなくて胸の脂肪でだけど……
「ど、どうしました……?」
「見てわかる通り、我らは筋肉が自慢! 重たいものでもナンノソノ! 任せるがよい! ノープログレム!!」
クラス中がピタッと静まる。
俺も含め、《マッスルファイターズ》以外の全員が“え、何コイツ感”を出していた。
「…………そ……それは頼もしいですね! でもルールを――」
「どんなルールでも、我らの筋肉がすべてを解決するッ!!」
キラーン☆と光る白い歯と大胸筋。
こっちは説明しようとしてんのに、筋肉と笑顔で全力アピール。全然話聞いてねぇ!
そして――
「……ふむ、やむを得ぬのぉ」
ルカがスクッと立ち上がった。
すぅ……と無言でマッスルに近づく。
「どうした? ルカさん! この筋肉を触りにきたのですか!」
マッスルは、近づいてきたルカに向かって別のポーズを決め、さらに筋肉をアピールしてくる。
それをルカはジッ……と見つめて、
「お主、良い身体をしておるのじゃ」
「そうか! もっと見てくれ! この筋肉! これなら《物運び》も楽々に……いいぃい!?」
――ドンッ!
次の瞬間、ルカはマッスルの片手を軽く掴み、手を払うような動きでそのまま投げ飛ばした!?
えええええええ!?
マッスルは空中をくるっと回転し、そのまま尻餅をついて着地。目を丸くして、ぽかんとルカを見上げていた。
「まぁ、ワシもこのように、ある程度なら力があるのじゃ。
だからルールを聞いて、皆で協力して競技を勝つのじゃ」
「は、はい……」
ルカは最後にちらりと俺を見て、フッ……と優しく笑い、自分の席へと戻っていった。
……すげぇ、ルカ。めっちゃ力持ちじゃん……。え? 魔法? 素? なにあれこわ……。
「え、えっと、じゃあ再開しますね……」
こうして、無事に《体育祭》の作戦会議は終了した。
――《体育祭》、ちょっと楽しみになってきたかも!
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■転送魔法(てんそうまほう)
概要:
転送魔法は、物品(道具・食料など)を離れた地点へ届けるための魔法であり、日常生活において広く活用されている。
この魔法の原理は、対象物を一度“魔力情報”へと変換し、転送対象の魔法媒体(魔皮紙)を介して再構成することである。
使用手順と構造:
・魔皮紙は常に2枚1組で運用される。
・転送元の魔皮紙に送る物体を設置し、魔力を流し込むことで、その物体は魔力情報へと変換され、魔皮紙に“吸収”される。
・その後、転送先の魔皮紙に受け取り側が「何を欲するか」を明確に想像しながら魔力を流すことで、対象物が魔力情報から再構成されて出現する。
備考:
・魔皮紙が“情報媒体”として機能している点が特徴。
・遠隔地間での物品受け渡し、補給、配給などに活用されている。
・生物や有機体などの転送には適さない(魔力情報への変換中に生体構造が破壊されるため)。
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■転移魔法(てんいまほう)
概要:
転移魔法は、人間自身が空間を移動するための高等魔法であり、使用難易度と魔力量消費の両面で非常に高度な技術を要する。
主にローブや装備に転移陣が組み込まれており、魔力に応じてランクごとの発動が可能である。
魔法ランクと性能:
・《初級転移》:半径約3メートル以内の任意地点に移動可能。ただし魔力消費は大きい。
・《中級転移》:半径約9メートル。初級よりも広範囲だが、魔力消費はさらに増す。
・《上級転移》:視界内であれば、どこにでも移動可能。高位魔術師向けの難度。
・《超級転移》:任意の地点へ空間的制限を無視して転移可能。古代に確認された記録があるが、現代においては使用者の存在は確認されていない。
応用技術:
・ギルドなどに設置されている【転移魔法陣】は、古代の《超級転移》の技術を独自に応用・改良したものである。
・転移者が安全に通行できるよう、精密に魔力制御された“空間通路(ワームホール)”を生成しており、特定の起点と終点を一時的に接続する仕組みとなっている。
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転送魔法との違い:
・【転送魔法】:対象物を一度“魔力情報”へと変換し、再構成する。
→ 物体のみ対象。生物の転送は不可。
・【転移魔法】:空間的な“接続”によって人や物を移動させる。
→ 魔力で構築したワームホールを通るため、生身でも転移可能。