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ずっとこうしているわけにもいかないんだけどね。
なかなか離してくれないリースの背中を撫でながら、私は、三日後、の想像を膨らませていた。お出かけ用のドレスじゃなくて、もっとしっかりしたドレス……ウエディングドレスをきてリースと並ぶトワイライトの想像をする。祝福してあげたい気持ちやら、きっと美しいだろうな、さすが私の妹、と、何処か自慢したい気持ちも膨らんでくる。でも、リースの隣は私じゃ鳴きゃいやだっても思って。
(それは、リースも同じなんだろうね)
リースの顔を見ていれば、分かるように、彼だってそれが良いと思っている。私だって、リースの隣を歩いて行きたい。
静寂ばかりが支配して、私達は言葉を交わすことが出来なかった。リースをこのまま抱きしめてあげたい。じゃなきゃ、彼は壊れてしまいそうだったから。震えている。
「リース……」
「エトワール、すまない……俺は、やっぱり、弱いな」
「弱くないよ。てか、そんな話じゃないでしょ……アンタは、責任を果たそうとしているじゃない。私と逃げないのって、前も話してくれたとおり、皇帝になるからでしょ?この帝国を変えてくれるからでしょ?」
「ああ」
リースは短く呟いて、私から離れていった。名残惜しい気もしたけれどしたない。
まだこの空間にいてくれるだろうし、三日だけでも、最後の恋人としていられたら何て思う。
しかし、歯切れ悪く、私達は、話すことが出来なかった。何を話して良いのか、まるで、破局寸前の恋人同士みたいな空気感になってしまっているような気がする。
(すっっっっっごく、気まずいんだけど!?)
こういう雰囲気が一番嫌いなのもあって、私は、ソファー、彼はベッドに腰掛けているこの状況がいやだった。誰もなくて、離さなければ私は別になんとでもいいんだけど、誰かがいる状況で、離さないというのは居心地が悪い。いつもなら、リースが話し掛けてくれるんだけど、彼はとてもそんな状況じゃないし。
(私から話し掛ければいいってこと?)
いやいや、それも難しい。
私は、悶々と悩みながら、彼にきっかけになりそうな話題を考えた。そうして、暫く悩んだ結果出てきたのは、とても陳腐なものだった。
「ねえ、リース」
「何だ、エトワール。改まって」
「改まってないわよ。改まっているのはアンタ……じゃなくて、この空間って一体どうやって創り出しているわけ?」
気になっていたこと。空間を作る魔法というものが存在しているのか否か。いや、この時点で存在しているんだから存在しているんだろうけど、この空間をどうやって作ったか聞きたかった。もしかして、これがリースのユニーク魔法なんじゃないかとも思ったからだ。
リースはまだ私にユニーク魔法について教えてくれていなかったから。
「これって、アンタのユニーク魔法?」
「いや、違う」
「じゃあ、アンタのユニーク魔法って何よ」
「教えられないなあ」
と、リースははぐらかす。教えてくれてもいいのに、話さないのに、と彼を見ていたが、彼は何も返してこなかった。そこまでして言いたくないものなのだろうか。まあ、私にも言いたくないことの一つや二つはあるだろう。でも、ユニーク魔法を渋るというのはどういうことなのだろうか。言ったら使えなくなる的な?
アルベドも、ラヴァインもまだ分からないし、ブライトがユニーク魔法が使えるかどうかも分からない。分かっているのは、グランツだけで……
(ああ、そもそも、ユニーク魔法って普通の人は使えないんだよね……)
攻略キャラだから使えるみたいな所もあるし、普通使えないと思っていた方がいいのかも知れない。前もやったような下りを自分の中で繰り返し、話を戻すことにした。
「で、これがユニーク魔法じゃなければ何なのよ」
「分からないんだ。俺も、この空間が元々誰のものだったか」
「はい?」
分からないってどういうことだと、リースを見れば、言葉の意味のままだというように見つめ返してきた。ルーメンさんは、リースが作ったとか何とか言っていたのに、何故食い違っているのだろうか。
「いや俺が作ったんだろうが……それが、俺なのか、前の俺なのか」
「前って、本物のリースってこと?」
「ああ、そうだな」
リースは、考え込むように顎に手を当てた。
リースもまた、元の彼が自分の身体の持ち主だったんだろうし、それを追い出す形で転生してしまったとなれば色々考えることはあるだろう。じゃあ、その元のリースは何処に行ったかという話も関わってくる。
(ほんとそうなんだよね……リュシオルとかルーメンさんとかは、まだしも、リースは元々リースって言う人格が存在しただろうし)
じゃあ、やっぱり何処に行ったのか、という話しになってしまう。エトワール・ヴィアラッテアはそれで怒って身体を取り戻しにきているわけだし、もしかしたら、リースも、ということが考えられる。でも、リースは、そんな風な素振りを見せないわけで、その心配はないのだろう。
「この空間、この世界に転生し、すぐだったか……慣れない生活に嫌気がさし、疲れ切っていた俺の前に扉が現われたんだ」
「この部屋って扉ないわよね?」
「俺が入るときは確かに存在する……この部屋には扉が存在しない。俺が鍵になっている」
「だから、アンタじゃないと出入りできないっていうの?」
ルーメンさんの説明にあった、入ることは出来るけれど、出ることは出来ないと。女神の庭園も同じ仕組みのため、それは納得のいくものだった。
それで、その役割を、女神の庭園では聖女が、この隠し部屋ではリースがになっていると言うことだろう。鍵になっているといういい方は、何ともリースらしい。
「それで?どうなの」
「急かすな。はあ……それで、この空間に初めて来たんだ。本当に、転生してすぐのことだ。この扉は、皇宮の中をぐるぐると彷徨っているらしい。それに、たまに空き部屋からでも繋がる」
「こわ……何それ、何かみたい……」
何とは言えないけれど、そういう設定の話があった気がする。
私は、そこで思考するのをやめて、リースの話を聞いた。要約すれば、リースが望めば、そこが扉になるみたいなことだろう。
リースは、それを転生してすぐ受け入れたと。私だったら驚いて、扉のない部屋に閉じ込められたって騒ぐだろう。リースだったら、と考えると想像できないけど。
「そして、この部屋にきた……以前は最ものが少なかったんだ。本当に殺風景な部屋だった」
「……それで、元々、自分が作り出した空間じゃないと」
「ルーメンに話したが、彼奴はそんな記憶がないと言っていた。俺とは違う転生の仕方らしいから、彼奴は、前のリースに使えていた記憶もあるそうだ」
「それって、結構重要じゃない?」
「だが、あやふやらしいから、信用は出来ない」
と、リースは付け足した。
ルーメンさんや、リュシオルは私やリースとは異なる転生の仕方をしたのだろう。ということは、リュシオルにも、前の記憶があると言うことだろうか。私の侍女になる前の記憶が。
(確かに、ルーメンさんの記憶があやふやだったら、前のリースのことを危機だそうにも聞き出せないわよね……)
聞き出したところで、前の主人は? みたいな話になるから、やめておいた方がいいだろう。
それよりも、この空間が、元のリースが作り出した空間、という話の方が興味がある。それが、前のリースのユニーク魔法? それとも、元々作れたってことだろうか。魂が変われば、ユニーク魔法が変わるという設定なのだろうか。
この世界の仕組みについて、まだまだ理科出来ていないところがあるな、と感じながら、私はさらに詳しく話を聞こうと思った。
「だが、引き出しだけあったんだ。鍵付きのな」
「鍵付きの引き出し?」
あれだ、とリースは指を指し、小さな鍵付きの引き出しを見せてくれた。本当に、何の変哲もない鍵付きの引き出しだった。その鍵は、リースの態度を見る限りここにはないのだろう。まあ、開けられていたら、その話もリースはしてくれそうだが。
「あかないんだよね、やっぱり」
「ああ、あかないな。魔法を試してみたが、全て弾かれてしまう。そもそもに、この空間は、とくに大きな魔法は使えない。扇風機ほどの風や、ろうそくほどの火の魔法ぐらいしか使えないんだ」
「魔法まで制限されているの!?」
本当に何処までも不思議な部屋だと、ますます興味が湧いてきた。リースはもう慣れてしまっているのか、そこまで驚かないようだが、いつもよりも、顔が穏やかに見えた。
「ねえ、リース。この部屋のこと、もう少し聞かせて」
「ああ……いいが」
「後ね、リースが私……エトワールと出会うまでの話聞きたいの、教えて」
私は前のめりになって聞く。だって、このチャンスを逃したら、きっともう、彼の口から色んなこと……聞けなくなっちゃいそうだったから。
そんな寂しさを隠しつつ、私はリースに好奇心旺盛な眩しい目を向けた。