私は石田 優花。どこにでもいる、ごく普通の女子高生だ。
派手でもなければ、美人でもない。
勉強も運動も、まあまあ。目立つこともない。
いわゆる「教室の背景」、そんな存在だ。
——でも、恋だけは、少し違った。
私の恋は、平凡の皮をかぶった“異端”だった。
あ、またあくびしてる。眠たいのかな。
授業中にあくびなんて、無防備なあの子。
私の視線の先にいるのは、クラスの中心人物。
私とは正反対の存在——加藤 夏美。
いつも楽しそうで、何事も明るく捉える。
「ポジティブシンキング!!!」が口癖。
寝癖はたまにしか直さないし、歯磨き粉が口の端についたまま登校してくることもある。
……天然っていうより、ズボラ?アホっぽい?
そんな言葉がぴったりなのに、なぜか妙に人気者。
「夏美はもう分かりきってるから、夏美以外な〜!」
恋バナが始まると、いつも誰かがそう言う。
まるで全校生徒が“夏美=みんなの好きな人”って前提で話を進めるのが、暗黙のルールみたいになってる。
そんな特別で、どこか定番なあの子に——
特別でも定番でもない私が、恋をしてしまうなんて。
「ねぇねぇ、君、名前なんて言うの?」
加藤 夏美、と言う名の太陽が、私に日差しを刺してきた。
笑顔が眩しくて、視線が勝手に避けられなくなる。
「えっ、、あ、石田、優花」
自分で自分のフルネームを言うのは、なんだか変な感じがした。
「優花ちゃん?もしかして、同じ中学校だったよね?!」
いいえ、全く違う。
誰と勘違いしているのかわからない。
「え、、あ、まぁ、?」
曖昧すぎる返事をしてしまった。
きっと夏美の中では、すでに決まった“記憶”があるのだろう。
「だよねーー?!今まで話したことなかったし、なにかの縁だと思ってよろしくね!」
そう言って、無邪気に笑う夏美の顔に、私は少し戸惑いながらも応えた。
入学初日ならともかく、もう1ヶ月も経っているのに、名前さえ覚えられていないことに少しショックを受けた。
それでも、夏美が差し出してくれたスラッとした手を見て、
気づけば私はその手を、何のためらいもなく重ねていた。
その手は、まるで太陽みたいに温かかった。
私は、無意識のうちに自分の冷たい手を、夏美の手のひらにぴったりと合わせた。
「よろしくね、優花ちゃん!」
夏美の言葉は、軽くて柔らかく、私の心をぐっと引き寄せた
「優花ちゃん!一緒に帰ろ!」
空気よりも軽そうな気がする身体を
ぴょんぴょんと揺らしてあざとく此方に来た。
私が答える隙間もなく、あの子は手を握ってきた。これは、、一体、、、
「うん、行こうか、、」
心の中で、重くのしかかる現実から少しでも逃げたいという思いがあった。
私の親はシングルマザーでしかも、いわゆる
“毒親” だ。 私を知ろうとしないくせに上からグチグチ言う奴。
夏美と一緒に帰ればそんなクソみたいな時間も
思い出すだけで早送りされるみたいになると思ったから、私はふわふわと揺れる身体にふわふわとついて行った。
「優花ちゃんさ〜卒業式って泣いた?」
「え、いや、泣いたと言うか、泣いてないというか、」
「なにそれ!優花ちゃん変わってるね」
ひまわりのように笑う彼女につられて微笑んだ。
「あ!優花ちゃん笑ったー?!」
困惑していると続けて夏美は言う。
「良かった〜優花ちゃん気まづい〜!!とか思ってないかなって思って不安だったんだ!ほんとによかった〜、、」
そんなの思うわけないでしょ と思ったが、口に出すのはやめといた。
嫌われるのが 嫌だったから。
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