時計を確認していないので断定は出来ないが、多分昼頃だと思う。
ハッと目を覚ました私は、体を起こして時計を確認しようと思い動こうとしたが、何故か全く動けない。不思議に思いながら横を見ると、私に腕枕をした状態の司さんが、私の腰を抱きながら子供みたいに可愛い寝息でぐっすり寝ていた。
(当然か、あれだけずっとしていたんだから。ってか、なんであんなに出きるの?女の人ならわからなくもないけど、男の人って…… そんなにできるものなの?)
可愛いと思えてしまう寝顔を見ていると、あんなに激しい事をしたり、激しい感情を持っているようには全然見えない。見かけによらないんだなってちょっと思う。
「…… 好きだよ、司さん」
小さな声でそう言って頬にキスをすると、彼はパチッと目を覚ましてしまった。
「ごめん…… おこしちゃった?」
可愛かった寝顔が一変、眉を寄せ気難しそうな顔になる。
「どうしたの?」
不思議に思い小声で尋ねる。司さんの表情は、私の言葉が理解出来ないと言いたげだ。
「…… もっと、違う事が言いたいんじゃないのか?」
「違うこと?」
思い当たらずにキョトンとしていると、腕枕を私の下から引き抜き、ガバッと上に覆い被さってきて上から私を見下ろした。
「別れたいとか…… そういう…… 」
「なぜ?好きな人と別れる必要があるの?」
「す、好きって…… お前、自分が何をされたのかわかっているのか?」
「えっちでしょ?夫婦でしちゃダメなんて決まりはないよ?」
「あんなもん、強姦みたいじゃないかっ!」
司さんが声を荒げた。
「で、でも…… すごくよかったし…… 」
恥ずかしくって、布団で口元を隠しながら言った。
「くっ…… 」
黙って私から視線をそらし、彼が私の上から離れていく。頭を抱えて布団の上にうずくまり、腕で顔を隠す。まるで何にか耐えている様だった。
だるい体を起こし、そんな彼の背中へそっと寄り添う。
「あのね、言い訳じゃなくちゃんと伝えたい事があるの」
「 …… 」
黙ったままで返事をしてくれない。でも、昨日みたいに聞こうともしない態度ではないので、私は今がチャンスだと思い、言葉を続けた。
「バイトが終わった後にね帰ろうと走っていたら、女の子が階段から落ちて怪我をしてたの。そしたら『友達が居るから店まで戻りたい、手伝って』って言われて」
「 …… 」
司さんはきちんと聞いてくれている。そう思い、更に言葉を続けた。
「送った先がいかがわしい店だったから凄く焦ったよ。お金に困ったらいつでもって名刺も渡されたんだけど、もちろん断ったよ」
「——つまり、俺が見たのは、その店へ女の子を送った帰りの唯だって言うのか?」
「うん。だって私、あの直前までちゃんと居酒屋で仕事してたもん。お店に訊いてくれても、お客さんに訊いたっていいよ」
「…… 勘違い?」
「うん」
「嘘だろ…… 」
「嘘じゃないよ、私が好きなのは司さんだけだもん」
「でも…… それなのに俺は君にあんな事して…… 。酷い事を沢山、話も聞かず傷付けて…… 」
怯えているのか、彼の体にグッと力が入る。
私は慌てて布団から出て、裸のまま司さんの背中にキュッと抱きついた。
「傷ついてなんかいないよ、むしろ嬉しいの…… やっと抱いてくれたから」
少しの沈黙の後、司さんが「…… 昔」と、小さい声で呟いた。
「ん?」
「付き合った彼女達に、初めての夜の後、必ずフラれたんだ」
(——いきなり昔の彼女達の話⁈いや待て、達ってオイ!何人いたんだ!)
うぐぐ…… 。
彼はかなりのイケメンだし、予想はしていたとはいえ、司さんとえっちした女が自分の他に沢山いると思うとものすごく腹が立つ。嫉妬心で煮えたぎる腹の中が気持ち悪い。
「『こんな事ついていけない』ってさ」
(…… えっと、それはもしかして)
うん、思い当たる事しかない。
「…… もしかして、エッチが激しいからって事?」
「だろうな。まぁ…… 別に、何となく告白されて付き合っただけで、好意があったわけじゃないから、別れるのはよかったんだが…… 」
(待てコラ、好きでなくても付き合えるんだ。その上、抱いちゃうんだ…… )
二重のショックだった。
「全てやった後に必ずフラれると、さすがにそういうのが怖くなって…… 」
司さんに抱きつく腕の力が無意識のうちに強くなる。会った事もない昔の彼女達への嫉妬からだな、コレは絶対。
「もしかして、私とも、なんとなく付き合ったの?だからプロポーズした時も、困った顔だったの?」
体をゆっくりと起こし、司さんは私の腕にそっと触てきた。
「違うよ、本当に好きだったから付き合った。でも、自分からしたかったんだ、プロポーズは。『また先を越された!』って思ったら悔しくて、どうしていいのかわからなくなって」
「…… 私のフライング?」
「あぁ、あんなに早いとは予想もしてなかったよ。もっとゆっくり付き合っていくのかなと思ってたから」
「ご、ごめん…… 」
「せめてちゃんと、自分の…… その、性癖っていうのかな。乱暴に本能のままやってしまう事を伝えてから、それでも俺がいいと許可を貰えたら、きちんとプロポーズしたかったんだが」
コツンッと私の頭に、彼が頭をぶつけてきた。
「俺がこんな奴だって知ったら唯を失うんじゃないかと思うと、怖くて話せなかったんだよ」
「…… そう、だったんだ」
「ごめんな、あんな事して。怖かったんじゃないのか?」
当然私は首を横に振った。怖かったのは怒ってると感じた最初の一瞬だけだったし、嘘ではないだろう。
「私は平気だよ、全然怖くない。だから止めないで?もっといっぱい、お互いにしたい時にしよ?」
「…… いや、それはちょっと」
「え?なんで?!私じゃイヤ?気持ちよくなかったの?」
勢いで、あられもない事まで訊いてしまった。
「…… 違うよ、まさか!でも、非番の前の日だけな。仕事休めないから」
(あ、今回並みのが毎回だったらそうなりますよね、納得です)
——あぁ、私達の新婚生活が、やっと甘美なものになる。
「了解しました、旦那様」
私は嬉しさのあまり、敬礼の真似をしてそう答えた。
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