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第4話 中身の見えない会社
配信
「こんばんは、“はごろもまごころ”です!」
画面に現れたまひろは、今日は薄いグレーのパーカーにグレーの 半ズボン。まだ小さな体を覆うパーカーの袖は少し余り、手首まで隠れている。髪は相変わらずのぱっつんで、瞳は丸くきらめいていた。
隣のミウは淡いラベンダー色のニットとモカのロングスカート。耳には小さなパールのピアスをつけ、髪は軽くまとめて後ろで緩やかに流している。落ち着いた微笑みが、画面越しにやわらかな安心感を与えていた。
「ねぇミウおねえちゃん。この前見た会社の広告、すごく立派だったんだよ」
まひろはパーカーの袖を握りしめながら、無邪気な声を出す。
「でもさ……どんな会社なのか調べたら、なんにも情報が出てこなくて。僕、ちょっと心配になっちゃった」
コメント欄に「そういう会社あるよね」「怪しい広告って多い」と書き込みが並ぶ。
疑惑の芽生え
ミウは首を傾げ、ふんわりと笑う。
「え〜♡ すごい広告出してるのに、実態がわからないの? うーん、それってちょっと気になるよねぇ」
「うん……僕はただ、みんなに騙されてほしくないだけなんだ。だから、一度“ほんとに大丈夫なのかな”って考えてほしいな」
コメント欄がざわつき始めた。
「うちの地域にも似たのある」「CMすごいのに聞いたことない会社」——疑念の種は、着実にまかれていった。
レイNews記事化
その日の深夜。
「レイNews」には連続記事が並んだ。
記事は硬派な調子で淡々と並べられたが、ソースはすべて曖昧な引用。「一部の声」「業界関係者」という仮面をかぶり、根拠は薄い。それでも5本の記事が揃えば「事実」のように見えてしまう。
群衆の暴走
翌朝SNSでは「#怪しい会社リスト」が拡散されていた。
「名前だけは知ってたけど、怪しかったんだ」
「なんであんなに広告打てるの?」
「もしかして詐欺まがい?」
まとめサイトは「ネットで話題!中身の見えない会社」と見出しを打つ。
ワイドショーは「消費者保護」の観点から特集を組み、街頭インタビューを流した。
結果——取引先が契約を見直し、株価は急落。
本社ビル前には週刊誌のカメラが集まり、社員は顔を伏せて出入りした。
クライマックス
数日後、X社は「虚偽報道による風評被害」を訴える声明を出した。
しかしそれもレイNewsに切り取られた。
「正体不明企業、否定の言葉に説得力なし」
沈黙しても反論しても、逃げ道はない。
市場は「危険な会社」と見なし、X社の名前は消費者の記憶から抹消されていった。
結末
夜の配信。
ランドセルを背負ったまひろが画面の前で小首をかしげ、瞳を丸く光らせる。
「僕……ただ“心配だなぁ”って言っただけなのに。大変なことになっちゃったね」
ミウはふんわりと笑みを浮かべ、両手を胸の前で組んだ。
「え〜♡ でも、みんなが安心して暮らすために考えられたんだから良かったんだよ。
ね? まひろ」
「うん!」
コメント欄は「正しい判断ありがとう」「助かった」の言葉で溢れる。
その裏でミウのパソコン画面には——すでに次の「怪しい会社リスト(更新版)」が予約投稿されていた。
無垢な笑顔とふんわりとした同意、その裏で一社の未来が消えていった。
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