テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#勧善懲悪
#勧善懲悪
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
三日目を待つだけでは息が詰まる。そう言い出したのはピットマンだった。
「向こうが未来を見せるなら、こっちは昔じゃなくて、好きだったもんを出そうぜ」
トルードが首をかしげる。
「好きだったもん?」
「子どものころ、夢中で握ってたもの。そういうの、まだ家にあるだろ」
結果、雨上がり公園には妙な机がいくつも並んだ。
使い込んだ野球のグローブ。色鉛筆が短くなった缶。折れた竹とんぼ。途中で止まったオルゴール。テオファイルが持ってきた古い手紙束。ローレリーズが持参した、小学生のころの菓子作りノート。
「見せるだけじゃつまらない」
エリアはその場で大きな紙を広げた。
「何に夢中だったか、ひとこと書いて」
最初は人が少なかった。けれどキオノフが温かい飲み物を配り、ピットマンが子ども相手に全力でキャッチボールを始め、トルードが壊れた竹馬を直し始めると、足を止める人が増えた。
サペも机の端で、古いこまの軸を調整していた。幼い男の子がじっと見ている。
「回るか」
「回す」
小さな返事にうなずき、サペがひもを引く。こまは少しふらついてから、きれいに回った。
拍手が起きた。
大げさじゃない。けれど、作られた内覧会の拍手よりずっと自然な音だった。
ズジが写真を撮りながら笑う。
「こっちの方が、よっぽど記事になる」
紙には次々と文字が増えていく。
『父に教わった消しゴムはんこ』
『卒業式のあと、友だちと泣いたこと』
『毎週の人形劇』
『雨上がり公園の舞台』
サペは最後の文字を見て、胸の奥が少し熱くなった。
思い出は、金になる札じゃない。
誰かが持ってきて、誰かが笑って、もう一度手に取れるものだ。
その頃、箱庭座の前に立っていたンドレスもまた、公園のにぎわいへ目を向けていた。
遠くても分かる。
あちら側には、たしかに人が集まり始めている。