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仕事を終えた純は、真っ直ぐ帰宅する気にならず、吉祥寺の馴染みの居酒屋で一人飲みしていた。
ここに来たのは、約一年半ほど前に豪と飲んで以来。
部下の奈美と付き合い始めたと思ったら、豪が元恋人と会っている所を奈美に見られてしまい、別れた状態となり、連絡手段を全て断ち切られた。
この飲み屋で、豪が純に相談してきたのを思い出す。
会計する時、純が飲み代を財布から出そうとしたら、豪の氏名、携帯電話番号、携帯のメールアドレスが書かれてあるメモ用紙が、千円札に紛れて出てきた。
『高村さんに、ちゃんとメモを渡せよ』と、ヤツに念押しされたのが、既に懐かしい。
(それが今では、バカップルレベルのラブラブ夫婦だもんなぁ……)
生ビールをグビっと飲み、好物のタコわさびをつまむ。
他に、カツオの刺身と鶏の唐揚げ、和風サラダ、お好み焼きを食べ、いい感じに腹がいっぱいになってきた。
「谷岡くん、外は雪が降りそうな感じだし、家が近所とはいえ、早めに帰宅した方がいいかもしんねぇよ?」
居酒屋の店主が、純に声を掛けてくれた。
「じゃあ、会計いいっすか?」
「毎度!」
支払いを済ませ、居酒屋を出ると、外は凍てつくような寒さ。
「ヤベェ。いつ雪が降ってもおかしくねぇじゃん。早く帰って風呂に入るか……」
純は空を仰ぎ、身震いしながらも、慌てて自宅マンションへと急いだ。
帰宅した純は、手洗いうがいを済ませた後、すぐに風呂を沸かすと、リビングへ入り、ルームライトとエアコンを点ける。
私服から部屋着に着替え、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
不意に、心の隙間に入り込んでくる、恵菜の困惑した面差し。
(マジで…………彼女に何があったんだ?)
彼女には、心がキツいと思ったら、いつでも連絡してくれて構わない、と伝えたはずだ。
だが、恵菜によそよそしい態度を取られてから、半月以上の間に何かがあり、彼女の性格上、純には知られないようにしているのだろう。
朧気に考えていると、風呂が沸いた通知音が響き、彼は、残りの缶ビールを飲み干すと、バスルームへ向かった。