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久しぶりにゆっくりとバスタブに浸かった純は、大雑把に髪をタオルドライしながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


ソファーに腰掛けてプルタブを引き、二本目のビールを口に運ぶ。


何気なく、ローテーブルの上に置いてあるスマートフォンの画面を見ると、通知センターのダイアログに、アプリ経由で恵菜からメッセージ受信と記されていた。


受信時刻を見ると、今から約三十分ほど前、純が入浴中に届いたらしい。


急いでメッセージアプリを開くと、そこには『谷岡さん』と書かれてあるだけだ。


普段なら、何かしら短文が書かれているメッセージが、受信したメッセージは、純の名字のみ。


恵菜が自分を呼んでいるのではないか、と直感した純は、すぐにアプリ経由で、恵菜の携帯番号に電話を掛けた。




呼び出し音が続き、彼女は、なかなか出ない。


九コール目で、ようやく恵菜が電話に出た。


『…………もしもし』


消え入りそうな声音で応答した恵菜に、純は胸騒ぎを覚える。


「恵菜さん? どうした?」


純の問い掛けに、彼女は画面の向こう側で沈黙したまま。


彼は、無言の背景に聞こえる微かな音を拾おうと、耳を澄ませ続けた。


車が走る音やサイレンを鳴らす救急車、どこかの駅のそばにいるのだろうか、街の喧騒がうっすらと聞こえる。


「もしかして…………今、外にいるの?」


「…………はい」


「どこにいるの?」


画面の向こう側で逡巡しているのか、恵菜は黙った後、おずおずと答えた。


「…………吉祥寺……です」


(え? マジで…………吉祥寺にいんのか…………?)


彼女の居場所に、純の心臓が大きく弾み、胸の奥が鈍い痛みで苦しい。


「駅の中? それとも改札を出てる?」


忙しなく打ち続けている鼓動を鎮めながら、純は電話口の恵菜に、落ち着いたトーンの声で問い続けた。


「…………改札は…………出ました……」


「どこの改札口だか分かる?」


「…………公園口……で……す……」


「恵菜さん、そこを動かないで。すぐ行く」


純は通話を終わらせると、黒いトレーナーとカーキのスキニーチノに着替え、グレーのショートコートを羽織って玄関を飛び出した。

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